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詩のようなもの

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小説の合間に。
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#散文詩

詩『店員』

「いらっしゃいませ」 声帯が震える。 ほんの少し前に何かが起きた。 それはこれから起きるこ…

詩『これは詩ではない』

Ce n'est pas de la poésie. 紙に落ちたeはsを待たず、アポストロフの仲介でnとの関係…

詩『秋刀魚』

スーパーで二尾350円の秋刀魚を買う。 帰宅して塩をまぶし、しばらく置いてから 胴に切り込み…

詩『箱』

死にたい、ではない。 消えていなくなりたい、ではない。 受け皿無く情動が零れ落ちていく。 …

詩『日記』

とりもちが絡まり身動きのできないゴキブリが僕に向かってこう言った。狂気を作りなさい、と。…

詩『罪状』

待ち焦がれてもその時は訪れず。 要らぬ気遣いか。 さもなければ勿体ぶった采配か。 呪詛を求…

詩『返報性』

少女の指先から狂いが滴り落ち、 背中が犬のようにせがむ。 助けて、と言われて、 僕は黙るしかなかった。 踏み潰された善意は凄惨に砕け、 首を振ってすがる手を振り解く。 救済に滑稽なほど裏切れてきた。 少女の垂れ流す血を養分にする、 豚のようだった。 ワレとナンジ、ワレとナンジ、ワレとナンジ。 細い声で唱える公理は虚しい。 脳髄に充満した言葉のせいで眼球が疼く。 差し出した手のひらに与えられた絶望。 灰になった殉教者は何を叫んだのか。 親子、夫婦、恋人、友人、同僚。 空疎な

詩『予定調和』

あの人が死んだ。 昨日近所の人から聞いた。 あの人が誰だか詳しくは知らない。 でも、きっと…

詩『ジッパー』

着ぐるみになった夢を見た。着ぐるみに入った夢ではない。着ぐるみそのものになった夢だった。…

詩『音楽機械』

音階をステップして駆け上がると毛穴から流れ出す汗ではない《何か》。脳髄で発火する神経細胞…

詩『必然』

あなたが別の誰かであった時、振り返ると、ありがとうと言って立っていたのはあなただった。あ…

詩『サクリファイス』

あなたが冷蔵庫に入ってる。 見開いた眼差し。 腫れぼったい唇。 憎ったらしい鼻。 毎日見ると…

詩『7つの鉢』

3月27日。映し出された足の薬指と小指は奇妙に短い。幼い頃に歳の離れた兄に潰された痕跡だと…

詩『原理主義』

白色のビニール袋がふわりと浮かんで線路に落ちる。そう、大人は穢れや堕落、欺瞞の象徴である、と10年前の私は言った。 「同志たち諸君、シュプレヒコールを上げろ」 先導者はいない。今や変節の徒として皆が生き恥を晒す。項垂れた人々は連なり、砂塵を被ったアジビラが通りを埋める。 自分の色は自在に変えられる。そんなデマに誘い出され吊るされた同志たち。生まれる前から定められた色は穢れるだけで変わりはしない。 有機物ではなく無機物に生まれたら何か変わっただろうか。足掻いたところで、