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詩のようなもの

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小説の合間に。
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記事一覧

詩『縁』

感謝される謂れはない。 恐ろしい話だった。 赤子の頬に止まった蚊が血を吸っている。それは…

詩『店員』

「いらっしゃいませ」 声帯が震える。 ほんの少し前に何かが起きた。 それはこれから起きるこ…

詩『これは詩ではない』

Ce n'est pas de la poésie. 紙に落ちたeはsを待たず、アポストロフの仲介でnとの関係を清算…

詩『秋刀魚』

スーパーで二尾350円の秋刀魚を買う。 帰宅して塩をまぶし、しばらく置いてから 胴に切り込み…

詩『鬼隠れ』

もういいかい? まあだだよ。 望遠鏡を覗き込んで探した。 月の裏側に書かれた答えを。 そん…

詩『箱』

死にたい、ではない。 消えていなくなりたい、ではない。 受け皿無く情動が零れ落ちていく。 …

詩『類語練習帳』

努力を重ねる。 ピアスの穴を数える。 勉強をする。 タイルの表面に血だまりを作る。 仕事をする。 処方された薬をピルケースに仕舞う。 デートをする。 歓楽街の知らぬ路地に迷い込む。 約束をする。 左腕の内側に赤い線を刻む。 食事をする。 猫の骸を土に埋める。 睡眠を取る。 父親が苦しんで死ぬ姿を想像する。 セックスをする。 飴玉に群がる蟻を踏み潰す。 愛する。 電球の切れた浴室に引きこもる。 笑みを浮かべる。 写真に写った自分の顔を黒色で塗り潰す。 涙を流

詩『日記』

とりもちが絡まり身動きのできないゴキブリが僕に向かってこう言った。狂気を作りなさい、と。…

詩『罪状』

待ち焦がれてもその時は訪れず。 要らぬ気遣いか。 さもなければ勿体ぶった采配か。 呪詛を求…

詩『それ』

「それ」は夜明けに生まれる。 生まれて早々に絶叫する。 地面を這い回り、私の後を追ってく…

詩『返報性』

少女の指先から狂いが滴り落ち、 背中が犬のようにせがむ。 助けて、と言われて、 僕は黙るし…

詩『予定調和』

あの人が死んだ。 昨日近所の人から聞いた。 あの人が誰だか詳しくは知らない。 でも、きっと…

詩『ジッパー』

着ぐるみになった夢を見た。着ぐるみに入った夢ではない。着ぐるみそのものになった夢だった。…

詩『音楽機械』

音階をステップして駆け上がると毛穴から流れ出す汗ではない《何か》。脳髄で発火する神経細胞はチッチッと鮮やかにビートを刻み、世界は白から灰色へとグラデーションする。口から漏れるあーあーと喃語、柔らかい唇をなぞる俯きがちな二頭身の少女がそっとつぶやく。消えたい、消したい、消えない。セッションをさかしまに再生すれば聴こえてくるはずの革命とどす黒い太陽が照り返し、もはや折れた針とともに無音の永劫回帰となる。狂ったような静寂。私は、私は、私は、の自己言及の大合唱が幕を引き、後腐れなく吹