見出し画像

「最近の若者」はもっと褒められていいと思う

  • 若者の恋愛離れ

  • 子供を産みたくないZ世代

  • クルマに興味が無い学生たち

メディアは未だに若者を「コスパ至上主義で情熱を失った世代」と思わせたいようですが、少なくとも僕はそうは思いません。
僕の知っている若者は努力家で、情熱的で、とても表情豊かな魅力溢れる世代です。
今日はそんなお話を少しだけ。


学生が主役のイベントといえば、高校野球やインターハイが思い浮かぶという方は多いでしょう。でもそれだけじゃありません。市民ホールで開催される吹奏楽やミュージカル、ダンスなんかもその一例です。

春はそうしたイベントが各地で開催される時期で、僕もその舞台袖にお邪魔する機会が何度かありました。(袖ってのはステージに出る前や出番が終わった後、お客さんから見えないようスタンバイする場所です)

……一応断っておきますが、勝手に行ってるわけじゃないですよ? ちゃんと呼ばれて行ってるんです。

その中で特に印象に残っているのは、とある高校のミュージカル。
演目は「アナと雪の女王」でした。「Let It Go」という曲で有名なディズニー映画です。

ところでこの映画のオープニング曲、覚えてますか?
映画本編が始まる前、男たちが氷を切り出すシーンよりも前に、こんな印象的な曲が流れるんですね。

Na na na heyana Hahiyaha naha
Naheya heya na yanuwa Anhahe yunuwana

「Vuelie」Cantus

ミュージカルもここから幕が上がります。女性コーラスが中心のこの曲、歌うのはもちろんステージ上に立つ出演者たちです。
ではその瞬間、舞台袖では一体どんな光景が繰り広げられているんでしょうか。

次の出番を待つメンバーが、下を向いてブツブツ独り言をつぶやきながら集中力を高めている?
自分のメイクや衣装の最終チェックを行っている?

違いますね。
彼らは「舞台袖でも歌っている」んです。
それも本気で。ステージ上にいる仲間たちと同じ声で。

客観的に見ればこの行動に意味はありません。声を張り上げるような曲ならともかく、こんな優しい歌声が客席まで届くなんてことはまずないし、ステージ上では15〜20人の生徒がバウンダリーマイクの前で歌っています。
対して舞台袖にいるのは4人程度で、もちろんマイクも無い。歌ったところで何か変わるとはとても思えません。
それでも彼らは歌います。仲間同士顔を見合わせて、コロナ禍収束の喜びを全身で表現するかのように。

心を揺さぶられました。「これが最近の若者か」と。
メディアによって知らず知らずのうちに結晶化していたバイアスが崩れていく。まるで冬の始め、池に張った薄い氷が何かの拍子で簡単にひび割れ、閉じ込められていた水が再び波打つような、あの感覚。
彼らは歌うことを心から楽しんでいるし、それを披露できる喜びに満ちている。ライトの当たらない舞台袖で歌う姿が、それを確かに証明している。


僕が見たのはそれだけではありません。あるときは中学生の吹奏楽部が、また別の日には大学生のチアリーディング部が、演奏や演技を客席に届けるとともに舞台袖で悩み、お互いを鼓舞し、助け合う姿を見てきました。
それは精神力が弱くて受動的で、コミュニケーション能力が低くて仲間意識に欠ける人間が生み出せるとは到底思えない迫力、圧倒的な時間密度。

そういった姿を見るたび、僕は背筋が伸びる思いでした。と同時に、一種の危機感すら感じていました。
彼らの時間密度に押しつぶされそうな危うさ。押し寄せる気迫に、ぼんやりしていたら飲み込まれてしまう。
これはマズい。こちらもそれ相応の気合を入れる必要がある。その意味で僕たちスタッフは、演者である彼らの熱量と対等の熱をもって仕事に臨まなければならない。
やらなきゃ、やられる。そう感じました。

だから僕は、たとえ相手が小学生でも「対等」に接することを心がけます。彼らが頑張っているから僕もそれに報いようとか、そんな立派な理由ではありません。やらなきゃ、やられるからです。


僕が見た若者の姿は、「若者」のほんの一部に過ぎません。彼らが家でどんなふうに家族と接しているのかなんて知る由もないし、親や教師とうまくいっていない生徒もたくさんいるでしょう。
でもそれについては意見しません。僕はその現場を見ていないし、見ていないことについて正当な評価を下すことなどできないからです。

あなたの目に映る「若者」はどうでしょうか。やっぱり無気力で、効率的で、受動的な、大人から見るといびつな存在でしょうか。
そうであるなら、その意見も充分尊重すべきだと思います。ただ無条件に賛同はできません。あの日、目の前に確かにいた「若者」たちは、若者らしく不器用で、若者らしい活気に満ち溢れた尊敬に値する存在です。

僕は残念ながら立場上、演者に直接「良かったよ」とか「頑張ったね」とは言えません。でも今、もしマイクが渡されたなら、観客席に向かってこう呼びかけるでしょう。

「ステージ上と、それから舞台袖の彼らに、盛大な拍手を!」


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?