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割り箸を落とす

 君がカシオレを頼んで、私はハイボールを頼んだ。「きっと店員さんは、私のところにカシオレを置いて、俺のところにハイボールを置くよ」って教えてくれた通り、頼んだのと逆の方にジョッキが置かれた。
 ハイボールをジョッキ半分残して「頭がふわふわしてきた」と言って、本気で割り箸を3回も落としちゃう私は、君にとって多分世界一可愛い。
 だけど、君はロックの梅酒を飲んで、今にも寝そうになってるから、この世界一かわいい私のことなんて、明日になったら記憶にないんだ。
 私と君との関係性というのは、必ず23時前に電車に乗るというルールに基づいているものだ。しかもその電車はまるっきり反対方向で送り迎えなんてしない。
 私は君に甘えるような弱い奴にならないんだから、まだ帰らないでなんて一言も言わない。私にお酒を教えてくれたのは君だけど、じゃあ君は誰に教えてもらったの、なんて野暮な質問はしない。
 君の友達も家族も彼女がいるのかさえも、何も知らない。でも、君にとって私は多分世界一かわいいのだ。君の写真フォルダーには私の写真が沢山残っているのを私は知っている。多分、彼女、いないんだろうなぁ。彼女がいたら、君の性格からして、私の写真なんて撮らないでしょう。
 家に帰ったら、居酒屋の匂いがこびりついたセーターにファブリーズをたっぷり掛けてやらないと。君が明日になったら記憶がないことに気づくのと同じように、今晩の自惚れた私を消すために。

#小説 #恋愛 #大学生 #お酒 #飲み会


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