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#10 願い事
「来週は七夕です。今年もみなさんには短冊にお願い事を書いてもらいます!」
毎年この時期になると私の勤めている小学校では低学年の児童に短冊を書いてもらい、教室に飾る習慣がある。
「書き終わった人から先生との頃に持ってきてください!」
放課後、児童達が書いた短冊を教室に飾りながら改めて全員の短冊を読んだ。
"サッカーせん手になれますように いのはら たいが"
"ミッキーに会えますように 大山 あかね"
"しゅくだいがなくなってほしい! おかもと まゆ"
"ライブに行けますように 木下 けいと"
"きょうりゅうをみたい さとう ゆうた"
子どもらしい願い事で心が浄化される。こういう所は低学年の担任にならないと味わえない。
"大人になりませんように 山本 はるか"
「あ、私だ……。」
思わず声に出てしまった。
実は私も、同じことを書こうとしたことがあった。
私が小学生だった頃、両親が共働きで家族の時間がほとんどなかった。学童から家に帰ってきて冷蔵庫に入ってある冷たいご飯を1人で食べるのが日常茶飯事。休日はどこか遊びに連れて行って欲しくても、仕事で疲れてそうな顔の両親を気を遣って何も言わず、家でひとりゲームをしていた。
そんな両親を見ていた私は大人って楽しくないんだなと思っていた。だったら、子どものままでいたい、大人になりたくない。と思うようになった。
自分の未来が暗すぎた。
そんな私が教師を目指し始めたのは高校の時。
高校2年生のの夏、進路希望調査が行われた。
クラスメイトのほとんどが進学するか就職するかなど、高校卒業後の進路を決めている中、私には何もしたいことがなかった。
だから、進路希望の紙を白紙で提出した。白紙は流石に怒られると思った矢先、担任から1人呼び出された。
どーせ怒られる。そう思っていたが、担任が自分の過去のことを話しはじめた。
「私の中学生の時の話ね。田島さんが私にどんなイメージを抱いているかわからないけど、人に教えるのが好きだったの。それに、当時から社会の成績は良かったし、他の教科も悪くはなかったから、先生になろうと思えばなれるんだろうなぁくらいには思ってたんだ。」
「はぁ。」
私の担任は友達感覚で話してくるが、興味がなさすぎて適当な返事しかできなかった。
「ある日いきなり、部活の顧問にね、丸山さんは将来したいことある?って聞かれたんだけど、特にやりたいことはなかったから、無いですって言ったの。そうしたら、それは私たちのせいねって顧問がボソッと言ったんだよね。」
「どういうことですか?」
「私も同じこと聞いた。でも、顧問はそれ以上それについては何も言わなかった。それから、ずっとその言葉が引っかかったまま学生時代を過ごた。人に教えるのも勉強も好きだったから大学でとりあえず教員免許とって教師になった。でも、今ならあの時顧問が言っていた意味がわかる。」
「何がですか?」
その後も担任と話し込んで、私はこの日教師になろうと決めた。小学校の先生を選んだのは、私が小学生だった時すでに大人に期待をしていなかったから。
"大人になりませんように 山本 はるか"
来年はるかちゃんが何をお願いするか、私が少しでも夢を与えられたらな。
(子どもたちが夢を持てますように 田島 恵美)
最後まで読んでくださってありがとうございました😊
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