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多様なアプローチの連動性を高めたい――SDGs×RUBBER#5イベントレポート

SDGs×RUBBER」は、ゴム業界の情報を発信するポスティコーポレーションが主催のリレートークセッションイベント(全5回)です。2021年12月2日に最終回を迎え、累計で463人にお申込みいただきました。当イベントは、2021年6月に創立60周年を迎えた当社が、日頃お世話になっているゴム業界への恩返し、またSDGsの周知や事例紹介を目的としています。

今回は、2021年12月2日にオンラインで開催した第5回「SDGs×RUBBER」のトークセッションと質疑応答について、そのレポートを掲載させていただきます。

第5回のテーマは、「ゴム業界からのSDGs② パートナーシップやイノベーション」。

SDGs×RUBBER#5、トークセッションの様子

【画像】トークセッションの様子。左上から時計回りに山口氏、馬場(弊社)、佐藤氏、岡本氏、橋本氏、脇坂氏

住友理工の脇坂治経営企画部 CSR推進室長と長岡技術科学大学の山口隆司学長特別補佐・教授住友ゴム工業の橋本卓史サステナビリティ推進本部 担当部長、TOYO TIREの岡本美保経営基盤本部 ESG推進室長、そして当イベントの監修を担当している佐藤真久東京都市大学大学院 環境情報学研究科教授の5名の方々にご登壇いただきました。司会を担当したのは、弊社代表取締役社長の馬場孝仁です。
※肩書は、イベント当時のもの

SDGs×RUBBER#5、グラフィックレコーディング(2022年2月16日)

当日のトークセッションをまとめたグラフィックレコーディング(グラフィッカー/しおりん

多様なアプローチの連動性を高めよう

馬場:
今回ご登壇いただいている3社はそれぞれ、タイヤ、自動車ゴム部品を扱うメーカーで、「ものづくり」に対する姿勢が、1つポイントとして挙げられるのではないでしょうか。そこで最初に、「サステナビリティを意識したものづくりにおける課題点、問題点はどういうところにあるのか」について、皆さまにお伺いします。

まず、TOYO TIRE 岡本さんいかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ①

岡本:
やはり、SDGsのNo.12「つくる責任つかう責任」に集約されると思います。資源効率をどう高めていくか。その中で天然資源は持続可能なものにしていかないといけない。枯渇資源は使う量を減らし、再利用も進めていかなければならない。また、作るときの省エネルギーをどうするかなど、課題はたくさんあります。

メーカーとして、作って終わり、にしてはいけません。これからは製品がサステナブルな社会に役立つかどうかが問われます。今後「サステナブルな社会」と「ものづくり」の両立を考えたとき、TOYO TIREの強みをどう生かしていけるのか? チャレンジに繋げていけるのか? も大きな課題になります。

馬場:
ありがとうございます。続いて住友理工 脇坂さん、いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ②

脇坂:
住友理工が特に課題として意識しているところを、2つお話させていただきます。

1つは、持続可能な天然資源の利用についてです。私たちは天然ゴムを筆頭に、天然資源を使用しています。それらを、どうやってサーキュラーエコノミー[※]化していくのか。解決策を見出すことが、大きな課題だと認識しています。

[※]サーキュラーエコノミー(循環型経済)=資源をできるだけ長く循環させながら利用し、廃棄物などの無駄を富に変える循環型の経済モデル。

もう1つは、安心安全なものづくりです。これは従業員にとっても重要だと捉え、労働災害の撲滅を日々考えて行動しています。ですが、なかなか撲滅にまで至っていないというのが、悲しいですが現状です。それも解決したい課題ですね。

馬場:
なるほど、安心安全の観点も大切ですよね。

続いて住友ゴム工業 橋本さん、いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ③

橋本:
私どもタイヤメーカーにおける課題は、大きく分けて3つあると考えています。①タイヤの性能を落とさない、②コストアップを抑えること、③商品の安定供給です。

①については、特に安全性能が重要です。その性能をさらに上げるためにも、新素材開発が必要になります。

②は例えば、「環境負荷が少ないから、価格は高くても良い」ということではないと思っています。商品を消費者が納得頂ける価格で提供できるよう努めなければならないと考えています。

③について、サステナブルな原材料は、化石資源系の原材料に比べて安定調達の面で懸念が残っているのが実情です。常に安定した供給体制を構築する必要があります。

こういった多くの課題を、企業努力によって解決する必要があると考えています。

馬場:
ありがとうございます。今皆さまが挙げてくださった課題は、1企業だけではなく、ゴム業界全体のテーマになり得ると思います。

長岡技術科学大学 山口教授は、「嫌気性廃水処理システムによる天然ゴム廃水処理技術の開発」ついて、論文を書かれています。その内容について、少しお聞かせいただけますか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ④

山口:
各社触れていましたが、天然ゴムは大事な天然資源です。それを持続可能に利用していくための課題の1つに、排水処理があります。私はそこにフォーカスして、研究を行っています。

天然ゴムは、白く濁った排水が出てきます。その排水には、天然ゴムの粒子や、ゴムを集める際に使用するアンモニアや窒素の残留物が含まれていたりします。それらが残っていると、温室効果ガスのメタンや、一酸化二窒素に変わってしまい、環境には優しくない。なので、そういったものに対応する技術の開発を進めています。

天然ゴムの素は国内で手に入れることはできません。開発にあたって、ベトナムにいる卒業生や、国内企業、海外企業とパートナーシップを結び、研究を進めています。

長岡技術科学大学講演資料①

【画像】長岡技術科学大学講演資料より

馬場:
ありがとうございます。ここで当セミナー監修の佐藤教授に、ゴム業界だけではなく、社会全体で共通したSDGsに関連する課題点をお伺いできればと思います。いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑤

佐藤:
今回講演の中で、SDGsを考える、様々な視座視点が出てきたと思います。

特にTOYO TIREに関しては、マテリアリティを再定義しながら、しっかりとその中で社内コミュニケーションをとっていこうと、丁寧にプロセスを辿ろうとチャレンジしている。

また住友ゴム工業については、「脱炭素と循環経済」を軸にしながら、高機能性、適正価格化、安定調達、そういったものに配慮していくと。

そして住友理工では、企業価値と公益価値を連動させていく、従来の財務資本に基づく物事の考え方だけではなく、そこに非財務の捉え方を統合していこうというお話がありました。SDGsという「外から目線」によって、自社の取り組みを見直していこうという、この「アウトサイドインアプローチ」を採用している点を強調されていたという印象があります。

企業のガバナンスコミュニケーションの視点、脱炭素・循環経済に対する技術開発、そしてそれらを進める上での非財務に対する配慮。振り返ってみると、それぞれの取り組みは非常に重要で、連動性に富んだものであると言えるのではないでしょうか。

今回のセミナーのように、個社の取り組みをフィーチャーするだけではなく、ゴム業界の中で様々なアプローチを実施していることそのものが、大きな財産なのかなと思います。それぞれのアプローチを互いに学び合いながら、業界全体で1つの力にしていく。多様なアプローチがあるので、業界内で是非その連携性を強めていっていただければなと思います。

馬場:
ゴム業界にポテンシャルはありそうですか?

佐藤:
全5回のセミナーを通して、驚きの連続です。やはり、自社の守りの姿勢だけではなく、チャレンジしているという攻めの姿勢を通じて、多くの力を持ち寄っている。その姿を見せている、そこが素晴らしいです。

社内の周知活動

馬場:
続いて、SDGsに対する社内の周知活動について、教えていただければと思います。橋本さん、いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑥

橋本:
まず、社員の意識向上のためにSDGsバッジを配布しました。そして社内イントラや社内報を利用して、サステナビリティやESGなどの基本情報を掲載するとともに、WEB形式の社内勉強会なども実施しています。

また、当社のホームページや統合報告書で、サステナビリティ活動を紹介し、その活動がSDGs17の目標の何に該当するかを明示しています。

馬場:
なるほど。脇坂さんは、いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑦

脇坂:
そうですね、従業員の階層教育[※]を定期的に実施していますが、その中のテーマの1つにSDGsを挙げています。社員同士で議論をしてもらう、といった仕掛け作りもしながら周知活動を進めています。

[※]階層教育=社員の階層によって異なる研修を受講させ、それぞれの階層で必要不可欠なスキルや姿勢を身につけることを目的としている。全員のレベルを相対的に上げることを目的としているため、「底上げ教育」と呼ばれる場合もある。

馬場:
それは、数値による見える化などを行っているのでしょうか?

脇坂:
はい。全社員向けのアンケートを実施しています。その回答率を、見える化の指標の1つにしています。また、従業員満足度の項目の中に、SDGsの内容を反映させています。その項目に対する回答がどうなるか、現在チャレンジしているところです。

馬場:
わかりました。続いて、岡本さんはいかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑧

岡本:
ESG推進室で、マテリアリティの背景や目的についての解説資料を作成し、全社にその説明会を実施するよう通達しました。今現在(※2021年12月時点)、TOYO TIREの部門単位での実施率は100%完了しています。また、解説資料は英文でも作成をしておりまして、海外拠点には日本の主管部門からそれを配布し、各拠点で周知してもらうようにということも通達しています。

ときに私たちが講師となって、各部門に説明に行くこともあります。また他部門からESG推進室に、「部内会議で話をしてくれないか」といった依頼を受けることもあり、そういった場を機会と捉えて、丁寧に説明していきたいと思っています。

今のところ、私たちESG推進室からの発信が大半です。もっと双方向のコミュニケーションを広げていきたいと思います。先ほど、住友理工さんのお話にあったように、アンケートの実施も今後取り入れていきたいですね。

TOYO TIRE講演資料①

【画像】TOYO TIRE講演資料より

サプライチェーン管理やBCP対応

馬場:
さて、視聴者の方からご質問いただいております。

質問者:
人員が少ないため、サプライチェーン管理について課題があります。良い方策はありますか。

馬場:
さて脇坂さん、いかがでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑨

脇坂:
正直、当社もサプライチェーンのところでは非常に苦労しています。

例えば、BCP(事業継続計画)でも、協力会社との横の繋がりが重要になります。社員の安全を確認するため、外部の業者の力を借りています。

馬場:
なるほど。岡本さんは、このご質問についていかがですか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑩

岡本:
当社も悩んでいるところです。CSR調達ガイドラインの作成、サプライヤーに理解してもらうための説明会、実施チェックシートの配布といったことを通じて、課題を把握するような活動はしています。ですがやはり、工数がかかりますし、そうやって自社で行っている活動が、第三者による水準を保っているかというと、なかなか難しくなってきています。例えばサプライヤーをモニタリングする社外システムの導入も検討していくべきかと考えています。

また脇坂さんもおっしゃったように、従来のCSR活動だけではなく、BCPの方にも、そういったものの活用を考えていきたいです。

馬場:
今、BCPというキーワードも出たので、こちらの質問をご紹介します。

質問者:
ゴム業界(特に製造業)各社のBCP対策取り組み事例について紹介してほしいです。

馬場:
橋本さん、お答えいただけますでしょうか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑪

橋本:
BCPについて、当社では主に研究開発や、生産、原材料の調達の継続について、重点的に整備しています。当社は阪神淡路大震災と東日本大震災、この2つの被災を経験しています。その経験を教訓に、工場と国内の各拠点で、地震を想定したBCPも完備しています。毎年BCP訓練を実施していて、対応力の強化を図るとともに、その修正も随時行っています。

また、現在は新型コロナウイルスの感染拡大への対策の一環として、感染症対策に関するBCPも整備しています。

馬場:
脇坂さんも、この新型コロナウイルス対策という観点で何かございますか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑫

脇坂:
住友理工では、リスク管理委員会を設置しています。そこで、平時の時から、コロナや震災も含め、365日、毎日チェックしています。一長一短で身につくことでもないので、何かあればすぐ行動できるよう、日々仕組みづくりや、訓練といった活動を継続的に実施しています。

馬場:
ありがとうございます。

学生と企業のパートナーシップで何が生まれるのか

馬場:
脇坂さん、住友理工では長岡技術科学大学とパートナーシップを締結しています。その一環として、長岡技術科学大学主催の国際学会への協賛、SDGsの課題に対する企業への提言をテーマとした小論文アワードの開催などを行っています。そういったパートナーシップ活動を通して、得られたものはありますか。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑭

脇坂:
そうですね、やはりパートナーシップを通じて、学生に当社のファンになっていただけたら、という想いがあります。これ自体を目的にしているわけではありませんが、学生の親や友達に広がって、住友理工の認知度向上にも繋がっていけば良いなと思っています。

では実際、得ているものは何かと言えば、やはり人材ですね。海外も含め、非常に価値ある取り組みだと当社では考えています。

ファンを増やして、各拠点の人材確保に繋げていければと思います。それが今後、ブランドのイメージ向上にも繋がっていくのではないかと期待もしつつ、活動していますね。

馬場:
なるほど、ありがとうございます。自動車用防振ゴムの世界トップメーカーとはいえ、なかなか一般の方々にそこまで認識してもらうのは難しいですよね。そういった活動を通じて認知度を上げるのは良いですね。

佐藤:
山口先生にお伺いしたいのですが、学生にとって、企業とコラボすることについてどういった意味があるのか。この点について、いかがでしょうか。

馬場:
佐藤先生からのご質問について、山口先生、お願いします。

山口:
佐藤先生、ありがとうございます。

そうですね、実際のところ、企業と大学のパートナーシップって、企業側にあまりメリットは無いような気がしています。本当に、大学が企業の胸を借りている。けど例えば、学生が半年間、インターンシップをすると、その期間で学生はガラッと変わるんですね。

学生に修了時アンケートを取ると、「大学に入学してよかったことは?」という質問に対して、「企業体験が1番良かった」という意見が大変多くを占めます。実は、長岡技術科学大学の学生は、入社3年後の企業離職率が3%くらいです。平均30%らしいので、大変低い水準だと思います。低い理由は、やはり企業とのパートナーシップによるところが大きいと思いますね。

学生同士も、自分の体験をシェアして情報交換を実施したりしているようです。

なので、一方的に大学側がお世話になっている状況かなというのが、正直なところです。住友理工の脇坂さん、いつもありがとうございます(笑)。

脇坂:
お役に立てて光栄です(笑)。

馬場:
(笑)。ありがとうございました。

今後のゴム業界、是非とも業界外とも手を組みながら、さらに発展していけたらなと思いましたし、その可能性をすごく感じましたね。

競合他社とも手が組める時代

馬場:
最後の質問となります。佐藤先生にお答えいただければと思います。

質問者:
小さな企業やジャンルが違う業界でも、何か出来る事や今から活動出来る事はありますか? また、未来の子供たちへ向け、やるべき事があれば教えてください。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑬

佐藤:
今、競合他社とも手が組める時代になってきていると思います。

例えば、花王とLIONが手を組んで、プラスチックの廃棄問題に向き合っています[※]。ゴム業界にも、当然廃棄の問題はありますので、そういったところから活動をスタートさせるのも良いのではないかと思いますね。すでに業界ではオープンイノベーションの事例もあるかと存じます。そういった活動をより、オープンに、競合他社と連携していくことを進めていく。業界内で企業同士連携しながら、ステークホルダーに対して訴える場を作っていくのも素晴らしいと思います。

[※]『花王・ライオンが協働してリサイクル実証実験を開始』

また、多様なマルチステークホルダーと連携する、そういった場を作ることが何に繋がるのか。1つは、結果としてその企業のファン作りに繋がっていくと思います。例えば、企業と大学が連携することで、学生が活動に参加します。そして学生は、企業に対する理解を深めていくことができる。その後もしかしたら、学生が企業のファンになって、就職してくれるかもしれない。個人株主として関わってくれるかもしれない。仮に競合他社へ就職したとしても、パートナーになり得るかもしれない。今をそういった時代だと捉えると、重要な意味があるのではないでしょうか。

また、社会活動の目線から、様々な事業を見ていく外から目線――「アウトサイドイン」ですね。そうやって多様なステークホルダーと積極的なコミュニケーションを進めることそのものが、企業にとって、自社を多角的に見るきっかけにもなります。

2つ目のご質問について、子どもたちへ向けてこういった活動をしているので紹介します。

こういった企画に、是非ゴム業界の方々にも参画いただければ、子どもたちへの学びに繋がっていくと思います。企業のチャレンジの姿を見せる。それがファンを作ることにも繋がると思います。

SDGs×RUBBER#5、グラレコ⑲

馬場:
ありがとうございます。さて、もう時間が来てしまいました。
ご登壇いただいた皆さま、どうもありがとうございました。

過去回のイベントレポートはこちら


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