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恋と愛〜最愛サイドストーリー〜

君の笑顔を見るだけで、その1日は満たされたものになる。
君が笑っていないだけで、その1日は曇り空になる。
君の幸せだけを祈っている。
幸せでいてほしい。
たとえ、その隣に自分がいないとしても。

いや、
無理でしょ。
俺のそばで笑ってて欲しいでしょ。その笑顔全部、俺に向けてて欲しいでしょ。
なんで、その笑顔を向ける相手が俺じゃないんだ。

そんな事をグルグル考えていたら、朝になっていた。

ああ、俺は今、恋をしているんだ。

「こんばんは」
「いらっしゃいませー」

スタッフとお客さんの会話。
でも俺にとっては特別な時間の始まりだった。
彼女がお店にやってきたから。

彼女は以前に俺がナンパから助けた女性だ。若葉さんと言って、俺よりも2つ年上で近くの会社で働く編集者さんだった。

あの件以降、彼女は頻繁にお店にやってくるようになり、俺とも仲良く話をするようになった。
若葉さんはくるくる表情が変わる。
よく笑い、よく喋り、時には怒り、時には叱る。
喜怒哀楽がハッキリしていた。
感情を押し殺すように生きてきた自分にとって、そんな天真爛漫とも言える彼女がとても輝いて見えた。

「優君は私のヒーローだから」

若葉さんは少し酔うと、俺の事をヒーローと呼んだ。

「あの時、私を助けてくれた時、スーパーマンに見えたんだよ。
ありがとう、私のヒーロー君」

ずっと、ずっとヒーローに憧れてた俺は、ヒーローと呼んでくれる初めての存在が嬉しくてしょうがなかった。
その気持ちはいつの間にか、彼女に恋をすると言う気持ちに変わっていた。

学生時代、自分の存在を消すように、消さなければならないと思いながら生きてきた自分にとって生まれて初めての感情だった。

だがその分、俺は混乱した。

この気持ちをどう整理していいのかわからず、わからなすぎて気持ちを留めておくことができず、ある日唐突に彼女に思いを告げていた。

「俺、若葉さんが好きなんだけど、どうしたらいい?」

そんな馬鹿みたいな告白を受けて彼女は口に運んでいたハンバーグを吹き出した。
床に転がったハンバーグの破片を気にする暇もなく、若葉さんは俺を見た。

「え?どう言うこと?」

「どう言うことって、そのまんまだよ。俺、若葉さんが好きなんだけど、どうしたら良いかわからないんだよ」

「なによそれ。私に決定権あるってこと?」

「そう言う意味じゃ…」

「却下」

「はい?」

「そんな中途半端な感じの言葉、受け入れられません。もう〜吐き出しちゃったハンバーグに謝ってください」

そう笑い飛ばされた。

却下されてしまってから、俺は自問自答の日々になった。
『好き』と言う感情はなんなのか。
それは、今まで『守る』と言う気持ち中心に生きてきた自分にとって、初めて、他人と自分を繋ぎ合わせる接点を見つける作業だった。
そんなことをグルグル考えて朝になることもあった。

若葉さんの隣で笑っていたい。
美味しいものを食べて、美味しかったね。って言いたい。
一緒に大好きな犬の散歩したい。
時々喧嘩もしたい。
手を繋ぎたい
力の限り抱きしめたい。
俺だけに笑顔を向けてほしい。

そんな自分勝手だけど、正直な気持ちと向き合った。
ああ、俺は若葉さんの知らない部分も知っていって、2人のパズルを組み立てたいんだ。
そう思った。

明確な自分の気持ちの在りどころを、僕は自覚した。
自覚した途端、自分だけの中で抱いているこのフワフワした気持ちが、気持ちを伝えたことで消えてなくなったらどうしよう。そんな恐怖に襲われた。

「いらっしゃいませ」
「こんばんはー」

いつもの何気ない挨拶ひとつでも緊張するようになってしまった。

挨拶以外何も話せなかった日は、家に帰ってからもため息ばかりになり、受験勉強にも身が入らない。
自分はなんてちっぽけな人間なんだと自己嫌悪に陥る。
勇気を振り絞って会話が弾んだ日は、その後どんな嫌な事があっても乗り越えられた。

つまり、俺は完全に若葉さんの存在に支えられていた。

存在に支えられていると気づいた後は、俺も若葉さんを支える人になりたい。強くそう思うようになった。
この思いをきちんと告げて、一緒に歩きたい。

俺は決心をした。

次の日、いつものようにお店にやってきた若葉さんが帰る時に合わせて、自分もお店を早めに上がらせてもらい、若葉さんと一緒に店を出た。

「珍しいね。閉店までバイトしないなんて」

俺の隣で歩調を合わせながら、若葉さんが笑って言う。

「うん。伝えたい話があったから」

俺は、大きく深呼吸をして、立ち止まった。

「俺ね、色々考えたけど、やっぱり若葉さんが好きなんだ。一緒の時間をもっともっと過ごして、2人のパズルを組み立てていきたい」

一気に言い終わって、俺はもう一度、大きく息を吐いた。
そんな俺を、若葉さんはじっと見つめていた。
多分、5秒くらいだったと思うけど、永遠に感じるくらい、長く感じていた。

「えーーーと、まずはこの間は笑い飛ばして誤魔化してごめんね。なんて言ったら良いかな。ストレートにこんな風に正面切って思いを伝えられた事、あんまりないし、もうそんな年でもないからちょっと動揺しちゃって。
私もあれから色々考えて、何で誤魔化したって、優くんにすごく惹かれてるからなんだよね。だから、喜んでお話受けます。こちらこそ、よろしくおねがいします」

そう言って若葉さんは頭を下げた。

「わわ、俺こそ、よろしくお願いします」

2人で頭を下げあって、あはは、と笑った。そのまま手を繋いで、2人で歩いた。
珍しく月明かりが見える夜だった。(続く)

あとがき
前回のジグソーパズルというお話を書いて、優の初恋の話を書きたいなと思い始めました。
少し続き物にしようと思いますので、良かったら、お付き合いください。
なお、このお話は完全なる私の妄想であり、本編とは全く関係がありませんので、あしからずです。

また、このお話は、前に書いた「ジグソーパズル」の続きです。
よかったらこちらも読んでください。












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