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poradaの家具と年収1千万の女

本日の主人公
Age:39
Job:弁護士

大学生の頃は年収1,000万なんて聞くと、とてもお金持ちなんだと思ってた。年に数回海外旅行に行って、素敵なお部屋で素敵な家具に囲まれて。シェフとかを家に呼んでホームパーティーを開くのだと。

でも実際は、顧問先や裁判所に行くのに恥ずかしくない程度の服を買い、週に2,3度飲みに行ったら、タワマンに住める余裕なんて残ってない。

弁護士の間では後輩に奢るのが通例。そこそこの年齢になった私は、そこそこに奢る機会も増えた。たいそう気に入ったporadaの家具だって、ここ数年家具屋さんで眺めているだけだ。

弁護士以外の友達にはやたら羨ましがられるけど、弁護士だって人気商売。頑張って頑張って、睡眠時間を削って、土日も仕事して。やーっと年収は1000万。それでも手取りにすると800前後だし、なんなら老後の積み立てだってしなきゃ怖い。

新橋から歩いて10分。オフィスビルで打ち合わせを終えたら、もう18時を回っていた。いかにも意識高いです!みたいな4、5人に囲まれ、なんとも居心地の悪いエレベーターを降りると、どっと疲れが増す。

10年前なら、新橋から歩いて立ち飲み屋を探すのが好きだったのに、いまやコリドー街は妙齢の男女が目を光らせるナンパスポット。喪女の私が歩けるはずはなく、しぶしぶタクシーを拾った。歩けば自宅まで20分くらいなのに。

気づけば何年も彼氏がいない。欲しい? いや、愛だの恋だの言っている暇に勉強と仕事に明け暮れたからここまで来れてるわけで。寂しくて死にそうになったら猫を飼おうと決めてる。

寂しいけど、まだ死ぬほどじゃない。なんならまだ、ちょっとくらいは喪女の私にだって、チャンスがあるんじゃないかとか思ってて。そこそこ稼ぐし、家事や料理だって、そのへんのOLよりはよっぽどできる。

でも、30を越えたころには合コンなるものが無くなり、何なら独身の友達なんて片手いるかいないか程度。同じくらいモテないだろうなと思っていた同期は、結婚相談所に行ってサクッと結婚したし、地元の友達にいたっては結婚していない子なんていない。

どうして私だけ……と思うのもの、毎日の離婚案件の山にやられて、いまとなっては結婚願望も段々と薄くなってきた。いや、薄くならざるを得ない状況だった。

最近流行りのマッチングアプリで、毎週のように違う男と会うのにため息をついている同僚を見ると、それだけで萎えたし、週末他人にヘラヘラできるほどの、余力が私には残っていない。

でも、結婚したい。
けど、傷つきたくない。

コンビニに寄ると新作のムースが出ていて、ちょっとだけテンションが上がった。イチゴにするかキャラメルにするか……悩める私の横で、カップルがいちゃつく。

30前後の頃のようにイライラしない自分が怖いし、そして愛おしい。微笑ましいふたりがキャラメルを手に取ったから、両方ともカゴに入れ、なんならコンビニで一番高いワインも買った。

最寄り駅が東銀座ってだけでキラキラして見えたこの部屋は、実際のところ新富町駅のほうが近かったし、7階の部屋からは、きれいな夜景も見えないし、気づけばニトリの家具を10年近く使ってる。

ワインを注いでくれる王子さまなんてもってのほか、なんなら、男性がこの部屋を訪れたことすら、思い出すのが難しい。

それでも、お気に入りのグラスに注ぐコンビニワインは、空気に触れさせるエアレーターを使えばお店で飲むもののようだったし、晩御飯代わりに、ムースを2つ食べたって誰にも怒られない。子どもがいたら、きっとこんな贅沢は味わえないのだから。

ネットのセールで大量買いした、ヒマラヤ産のレッドソルトと、ペルシャ産のブルーソルトを贅沢に浴槽に投入し、毎晩映画を堪能する。

寂しい?いや、寂しくないって言ったら嘘になるけど、自身の気持ちをごまかしながら生きていくことだって、妙齢女子の務め。映画に飽きてきた私は、週末用に23,000円のランチを予約した。

ご褒美があれば十分。大したお金も、大した容姿も、大した愛嬌も持ち合わせていないけど、自身が満足してさえいればそれでいい。愛されたいなんて欲望は、一度手放してしまえばたいそう生きるのが楽になる。

今年こそはニトリを卒業して、愛でたくなる家具を買おう。「でも」と「だって」を繰り返す「たられば女」だろうがなんだろうが、もういいの。

私は私の機嫌をとって、賢くひとりで生きていく。

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