今だからこそ、の映画「ドント・ルック・アップ」
Netflixオリジナル作品。配信が決まった時から、そうそうたるキャスト達に驚いたし、はたしてどんな映画になるのか…と楽しみにしていました。キレッキレの皮肉が効いたブラックコメディで、アダム・マッケイ!!!って感じでした。笑
あらすじ
「事実に基づくかもしれない」というキャッチコピーの意味
日本版ポスターのキャッチコピーにある一文です。「事実に基づくかもしれない」とはどういう事?地球がなくなってしまうかもレベルの彗星が近付いた事なんて歴史上あったのか?と思ったりしたけど、そういう事じゃなかったですね。
彗星が激突するというのはあくまでストーリーのエッセンスで、このパニック具合や私利私欲のためにしか動かない権力者たちや、民衆の動きなんかを指しているんでしょう…これが彗星じゃなくて、コロナウイルスだと考えると、まあ事実に基づいている部分もあるかもと思える箇所も多々ありました。
切れ味良すぎて、笑って良いのか迷う
かなり序盤から皮肉が効いていて、強烈なブラックコメディで進んでいく本作なのですが、大統領のシーンやテレビ局でうまくいかない感じとか、あまりの切れ味の良さに笑って良いのか迷う部分も…気まずさを感じたり居心地に悪さを感じるという事は図星だから、というのもあると思うんですけど。まさに現代の日本というか世界の状況に似ていて、2020年末や2021年に感じていた「こうやって世界は終わっていくんだなあ」という感覚をハイスピードで見せつけられた感じがあった。民衆の狂い方や正常性バイアスによって取り返しがつかなくなる感じとか、ちょっと恐怖を感じるほどでした。こういう容赦ない描き方もアダム・マッケイっぽくて、ああやっぱりアダム・マッケイだわ〜!と思いました。
コメディとしては尺が長い…かも
この映画、結構長めの145分という強気設定。正直、コメディで145分は長いと思うんですよね…実際、中盤はちょっと中弛みというか、前半の勢いと最後の収束のスピード感とはかなり違った気がします。もう少しコンパクトにしてテンポ良く進むブラックコメディとして構成しても良かったんじゃないのかなあと思ったり。「世界中」を強調する様なイメージカットも多くて、それはそれとしてイメージが膨らむので良いんですけど、ちょっとトゥーマッチ感も否めないかな…
意地悪なアダム・マッケイによる演出効果は私好み
最近は技術的にも、映像でいろんな事が作れる様になった事で、エンドロールやオープニングクレジットなどにこだわっている作品もよく見る様になりました。私は第四の壁を越える演出も好きなので、冒頭の「惑星防衛調整局は本当にあります」みたいな説明は笑ってしまった。(その後、そういう演出はほぼなかったけど)
ラストは、ちゃんと世界が滅亡するっていうのも良かった。こういう映画って、なんだかんだ「危機一髪回避しました!」みたいな展開になる事多いんだけど、きちんと滅亡してみんないなくなっちゃう感じが…最後の晩餐をミンディ博士たちが自宅で静かに過ごしているのも好きな演出でした。でもそれでしんみり終わらせずに、大統領たちがファンタジー的に生き残っているのもまだ意地が悪くて良かったな。
強烈なキャラクター&やり切ったキャスト
まずそもそも、この作品が話題になった1つが豪華すぎるアンサンブルキャスト。
メインはレオナルド・ディカプリオ&ジェニファー・ローレンス。
ディカプリオはやっぱり年取って恰幅が良くなってからの方が雰囲気あるし、個人的には好きです。歴代ディカプリオで、ウルフ・オブ・ウォール・ストリートの次に良いかも。彼はキレる演技をやらせたらなんぼだと思っていたので、本作でも御多分に洩れずキレてくれまして大満足です。
もう1人のメインキャスト、ジェニファー・ローレンスはあんまり作品では見た事ないのですが、こういうハッキリとした物言いのキャラクターが上手い気がします。目力もあるし、今回はビジュアルも尖った感じに設定されていたので(劇中、ドラゴンタトゥーの女って言われてました。絶妙な懐かしさがまた良い)より良かった。彼女も叫んだりキレたりする演技がなかなか良くて、切羽詰まってギリギリの精神状態にいる感じがよく出ていました。
ちょっとアウトサイダーすぎる大統領にはメリル・ストリープ。いやいや、ここにメリル・ストリープかよ!というキャスティング。
大統領は基本的に自分の支持率のことしか考えていなくて、有利になるなら博士たちの話も聞くし、もっと良い条件があるならそっちへコロッと転んでしまう。典型的な「権力を持ってしまった下品な女性(でも自分は思慮深い上流階級だと思っている)」雰囲気で、あのノーブルで気品あるメリル・ストリープが見事に表現していることに驚くと共に、やっぱりすごい女優だなあ…とつくづく。ラストシーンは全裸で思いっきり食われていまして、まあ、メリル・ストリープをこんな扱いできる監督はそうそういないだろうなあと笑ってしまいました。
そんな大統領の補佐官を演じるのはジョナ・ヒル。ジョナ・ヒルですよ!!!ディカプリオとジョナ・ヒルがやんや言い合いしているのを見ると、ウルフ・オブ・ウォールストリートを思い出す…しかも今回はジョナ・ヒルの方が立場が上ってのがまた面白かった。この人はいつだって他人の神経を逆撫でする様な、憎たらしい役が上手くて、今回もその魅力が大爆発でした。もう、おバカなんだから黙っておけば良いのに不要な発言をしてしまって相手をイラつかせるっていう…オーレアン大統領の息子でもある補佐官なので、大事なシーンには基本的にいるんですけど、最後はママに忘れられちゃって、ポツンと司令室に座っている姿に笑わせていただきました。ほんと、ずっと持ってるあの黒のバーキン、まじで似合ってないよジェイソン補佐官。笑
謎の大富豪であり、企業のCEOのピーターはマーク・ライアンス。もう、このピーターというキャラクターが胡散臭いのを通りこして一番恐ろしいキャラクターだったかも。狂気を感じる雰囲気なんだけど誰も逆らえなくて、彼の一声で色々なことが変わってしまう。マーク・ライアンスが強烈な雰囲気で怪しく演じているので、ほんとに笑えないシーンが多かったですね…シンプルに怖かった。笑
NASAがほとんど活躍できず、いち企業のバッシュによる計画、というかピーター・イッシャーウェルの計画がどんどん進んでしまう事の末恐ろしさみたいなものがあったな。
人気テレビ番組のキャスター・ブリーを演じたケイト・ブランシェットは、正直途中まで気付いていませんでした…いや、ケイト・ブランシェットといえば、上品でかっこよくて、低い声で静かに話す…みたいなイメージがあったので、こんな真逆のキャラクターをしっくり演じ切っているとは思わなくて。ふしだらの極み!みたいな派手なキャラクターで、ディカプリオ演じるミンディー博士を誘惑します。またその誘惑の仕方も直接的すぎて笑える。そりゃ、冴えない科学者だったミンディー博士は落ちるよねえ。笑
ティモシー・シャラメが演じたユールは、チャラくて小汚い現代の男の子という雰囲気のキャラクターでしたが、隠しきれない上品が溢れ出ておりました。笑
彼はスクリーンに映るだけでなんだか画面がパッと華やかになってしまう。ある意味、北島マヤ(byガラスの仮面)みたいな役者さんなのかな。ユールは本当に何も考えてなさそうなキャラクターかと思いきや全然そんな事はなくて、最終的にケイトやミンディ博士とも打ち解けていたし、彼は彼の哲学があってそれに則ってまっすぐ生きている感じがあって意外なキャラクターでした。予告編見る限りだとアンサンブルキャストの一部みたいな贅沢な使い方されてそうだったから。ラストのお祈りのシーンはちょっとグッときました。みんなが思い思いに過ごしている中、ミンディ博士宅でみんなが過ごしているというのも良かったんだけど、それに加えて、一番最後に仲間?になったユールがみんなの為に祈りを捧げるのが美しかったなあ。
フレンズファンとしては言及せずにいられないのは、マシュー・ペリーがちょこっと出演していた事…!TBAの時にマシュー・ペリーの名前があったので、同姓同名じゃなくて、あのマシュー・ペリーだよね?と期待しておりました。確かに、フレンズのチャンドラーを演じたマシュー・ペリーでしたが出演シーン短かったな〜!残念。なんだったらクレジットなしのクリス・エヴァンスの方が尺は長かったんじゃないのかしら。笑
総じて楽しい映画ではあったし、今のこの時期に見るからこそ意味があるというか…この先、パンデミックが過去のものになった時に思い出される映画になりそうだなあと思いました。
軽いノリで見れてしまう、現代のヘビーなストーリーをぜひ楽しんでみてほしいです。
ドント・ルック・アップ
Don't Look Up
2021年 アメリカ
監督:アダム・マッケイ
出演:レオナルド・ディカプリオ、ジェニファー・ローレンス、ロブ・モーガン、ジョナ・ヒル、マーク・ライランス、タイラー・ペリー、ティモシー・シャラメ、ロン・パールマン、アリアナ・グランデ、ケイト・ブランシェット、メリル・ストリープ、他
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