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【後編】「好き」で輝く大人の姿が最良の教科書~株式会社オガール・岡崎正信さん、紫波町図書館・藤尾智子さん、手塚美希さん

岩手県紫波町の「オガールプロジェクト」と、その一環で設立された図書館について、前編では現在に至るまでの経緯を中心におうかがいしました。
そこには公共の文化施設を維持し得る経済システムの構築と、行政が民間視点を活かすことについての重大な示唆が含まれていましたが、私が「学び」の場としての紫波町に関心を惹かれるのには、実はもう一つ大きな理由があるのです。
それはつまるところ「出会い」や「ふれあい」といった言葉に集約されるコミュニケーションの場所として活発に機能していること。後編ではまちづくり事業についてさらに深くおうかがいしながら、この点について皆さんのお考えを探っていきました。

(前編はこちら)

図書館は出会いをつなぐ「地域のデータバンク」

千葉 先ほど図書館内を視察させていただいた時に、2022年の開館10周年に当たって利用者の方々から寄せられたコメントを拝見しました。その中で印象的だったのが、図書館の魅力として「出会い」を挙げられている方が多かったことなんです。それは本や新たな興味関心との遭遇という意味はもちろん、そのものずばり人との出会いを指してもいますよね。人と人をつなぐということは紫波町図書館ならではの機能として意識されているのでしょうか。

藤尾 おっしゃるように、職員たちは利用者の方とコミュニケーションをとる中で、本を紹介するだけでなく「こういう団体があるよ」「こういう人がいるよ」というふうにさりげなく案内しています。

手塚 人も情報だと捉えていますからね。「世界中のあらゆる情報とあなたをつなげます」という心持ちでいる以上、人との出会いをお手伝いすることも仕事の一つになってくるんです。本当は、人も本もひっくるめて「情報」と呼ぶのはなんだか冷たい感じがするので別の表現があればいいなと常々思っているんですが。

千葉 なるほど。たしかに本を探しに来る人というのは、何か課題を持っている人なんですよね。単にどんな本を読もうか悩んでいることもあれば、具体的な困り事を抱えていることもありますけど、解決につながる情報……と言わざるを得ませんけれども、とにかく手がかりになることならば本に限らず提供するべきだと。

岡崎 千葉さんは今「解決」とおっしゃいましたよね。私も紫波町図書館は「課題解決型図書館」だと思っていたんですけど、手塚さんに言わせればどうやら課題を「発見」する場らしいですよ。

千葉 「発見」ですか。ぜひその心を詳しくお聞きしたいですね。

手塚 決して明確な定義があるわけではないんですけど……利用者の方にお話をうかがっていく過程でご本人の考えが整理されたり、思いもよらなかった方向に関心が向いたりするんですね。そこまでたどり着けば、あとはご自身で課題を解決できることも多い。だからむしろ、課題を発見する場と言った方がしっくりくるのかなと。

千葉 なるほど。それは利用者とのコミュニケーションのベースが「接客」ではなく「相談」である図書館だからこその発想かもしれません。とはいえ、一般的な司書としての仕事だけでも大変なのに、個人や団体の情報まで把握して提供するのはご負担が大きくありませんか。

手塚 そこは私一人でやっているわけではなく、司書一人ひとりに得意分野やつながりがありますから。お互いに補完し合うことで、図書館全体として地域のデータバンクになれればいいかなと。

「面白い人たち」を活かす場が暮らしを豊かにする

藤尾 利用者の方は実際に「この話は手塚さんに」といったかたちで相談する司書を指名したりもするんですよ。

手塚 私たち自身が皆さんとの交流を楽しんでいますから。本当に来館する皆さんはそれぞれいろんな知識をお持ちなので、お話を聞くだけで面白いですし、「情報」を介して興味関心を広げて差し上げられるのはこの仕事の醍醐味だなと思っています。

千葉 そうした日々のコミュニケーションの積み重ねが、人と人とをつなぐ場としての図書館を実現しているんですね。

岡崎 しかし、つくづくこのまちには面白い人がいるなあと思いますよ。この前の10周年企画に出ていた人にしても、ちょっと驚いてしまうくらいキノコに詳しかったりとか。

千葉 10周年企画というのは?

藤尾 開館記念日に図書館誕生祭として行った「つながる図書館」というイベントです。地元の方々がご自身の趣味や専門知識に関するブースを出展して、その中で関連書籍も紹介してもらうという内容でした。テーマはそれこそキノコだったり、映画に野鳥、地酒に地域史に俳句など20以上と、本当にさまざまでしたね。

岡崎 あとは、「夜のとしょかん」もそんな企画じゃないですか。その名の通り夜の図書館で、専門知識を持った地元の人をゲストスピーカーに迎える交流イベント。毎回違うテーマでゲストを呼ぶんですから、ネタに困らないのかなあと思っちゃうんですけど。

手塚 全然困らないですよ。自ら企画を持ち込まれる方もいれば、図書館で利用者の方とお話をしているうちに、「こんな分野に詳しい人がいるよ」と教えていただくこともあります。

千葉 それだけ面白い人がたくさん住んでいるということですね。とはいえ、どんな地域にも実はマニアックな人や専門技能を持っている方はいらっしゃるんですよね。ただ、その魅力を引き出せる仕組みも表現できる場もないからなかなか知ることがない。

手塚 そうなんです。こういった企画をしているのも、面白い方が目に見えれば「こんな人がこのまちにいるんだ」と地域の暮らしが楽しくなるんじゃないかと思ったことがきっかけで。さらに皆さんの見識を共有して掛け合わせることができれば、何か思いもかけないことが起きると思います。図書館だからこそそういう役割を担えるのかもしれません。

まちの寛容性こそ地方が持続するカギ

千葉 私が紫波町に来たのはこれが2度目なんですが、まちに対する印象として「いつも誰かが好きなことをしているな」というのがあるんです。お話しいただいたイベントも「好きなこと」を活かしたものだし、図書館が入っている情報交流館に行けば音楽スタジオで楽器を演奏している人がいて、壁にはいろんな団体の活動情報が掲示されていますよね。こうした環境はまちづくりに当たって初めから意図されていたことなんでしょうか。

岡崎 答えになっているかはわかりませんが、私の中で「寛容性」をまちづくりのキーワードの一つとしてきました。Uターンした当初、私がまだ若かったからということもあるでしょうけれど、どこか地域の中に不寛容さを感じていて。これでは若い人が離れていってしまうだろうと。

藤尾 一人ひとりがお互いの価値観を認め合えない場所には閉塞感が生まれてしまいますからね。

手塚 町外から移住した身からすると、寛容なまちだなとありがたく思っています。仕事でもプライベートでもいろいろと好きなことがしやすい環境です。

岡崎 だとしたら、すごく嬉しいですね。寛容性というところで言えば、最近は若い人の新しい取り組みが町内でどんどん出てきているのがいいなと思っていて。

千葉 そのあたりは事前に町役場の方からお聞きしていました。紫波町ではまちづくりの次のステージとして、オガールエリアで生まれた活気を町内の商店街や農村地域など全域にまで広げることを目指している。そうした動きの中で若い人たちの起業が増えてきているそうですね。

岡崎 ええ。たとえば遊休不動産を改修して起業希望者に活用してもらう「リノベーションまちづくり」は2015年からの取り組みなんですが、これによって菓子店やゲストハウス、カフェ兼シェアハウスなどがオープンしています。

千葉 そのうちのお一人は「紫波町に来て初めてキラキラ輝いている大人に出会った」なんてことをおっしゃったとか。

岡崎 シェアハウスをつくった子ですね。大学生のインターンとして紫波町に来て、在学中に移住・起業までしてしまった。

千葉 ちょっと遠回りしましたけれど、この連載企画の主題である「子どもの学び」において私が大切だと思っている要素の一つが、まさに「キラキラ輝いている大人とふれあう」ことなんです。そして、いろんな人の好きなことや活動が可視化された紫波町は、その学びを得る上で理想的な環境じゃないかなと思っています。たとえば起業された若い方の姿もまた、子どもたちの目には輝いて映るでしょうし。今は地域生活の中で子どもたちが親と先生以外の大人と接する機会はなかなか多くないじゃないですか。

藤尾 そういえば自分が子どもだった頃を振り返ると、家に帰ったら親の知り合いが居間にいるようなことがよくありましたね。

岡崎 うちも商売人の家でしたから、いつも誰か大人が来ていました。「この大人は信用できるか」なんてことを子どもながらにちゃんと観察していたりして、それが学びになった面はありますよね。

千葉 ふれあいを創出して子どもの学びにしようという考えは、まちづくり事業の中で狙った効果なのですか?

岡崎 あらゆる意味でシームレスな空間デザインは意図しましたが、子どもの学びのためという感覚ではなかったですね。そこは結果、そうなったところで。

子どもの可能性を閉ざさない環境づくりが大人の仕事

千葉 私が興味を惹かれるのはそこなんですよね。プロジェクトについてお話をうかがっても、決して子どもを優先事項としていないのに、結果としては子どもに学びをもたらす環境になっている。

岡崎 それは確かだと思います。決して次の世代のことを配慮してこなかったわけではなくて、年齢層の区別なく誰にとっても住みよいまちを目指してきたからこそ、子どものためにもなっている。それに、子どもへのサポートはどこの自治体でも当たり前に力を入れていますから、あえてアピールすることではないなと。図書館だってきっとそうですよね。利用者が子どもでも大人でも、探求心や好奇心は同じように尊重するでしょう。

手塚 ええ。図書館は誰の可能性に対しても等しく開かれた場ですから。

藤尾 館内の空間としても乳幼児コーナーに保護者向けの子育て本を置いたり、成長過程に応じた本棚の構成にしたりという工夫はしてはいますが、あくまで利用者の多様性に対応した結果ですね。

千葉 今の藤尾さんのお言葉が良い例かと思うのですが、すべての世代を大切にするということは、どんな人にも分け隔てをしないという意味であると同時に、年齢層ごとに最適なサービスをきちんと提供することでもあるのかもしれません。そういう考えに立った上で、皆さんが地域と子どもの関係性についてどのような思いを抱いているか、最後に改めてお聞かせいただいてもよろしいでしょうか。

手塚 先ほど「可能性」ということを申し上げましたけど、とりわけ子どものそれは環境次第で閉ざされやすいものだと思います。大人たちがすべきはとにかく子どもの可能性を常に開いてあげておくことであって、それさえ意識していれば「夢を持って」とか「地域のために」だとか期待を押し付けなくても、子どもたち自身がどんな未来をつくっていきたいかを考えてくれるのではないでしょうか。

藤尾 私も大人が下手にあれこれ言わなくても、子どもたちは自分の力で育っていくものだと思っています。まちに散らばって自由に過ごす中で、それぞれに学びを得ていくことが望ましいのかなと。そういう場の一つが図書館であれば嬉しいですよね。

手塚 本当にそう思います。私自身、図書館も書店もない小さな村で生まれ育って「知りたい」「好き」から先に進めないことが辛かったので、なおさらそう思います。

岡崎 私の思いも皆さんの感覚に近いのかもしれません。子どもは子どもなりにしっかりと物事を考えているのだと全面的に信じていますから。それを前提に置いた上での持論は、子ども時代には自分の頭でしっかりと考えるための「感覚」を磨くべきだということ。その力は決して杓子定規な勉強で身につくものではなく、人とふれあうことで育まれるのではないでしょうか。

千葉 子どもたちにとって「キラキラ輝く大人とふれあう」ことが重要だとわかっていたつもりだったのですが、輝いている大人を代表するようなお三方とお話したことで、私自身がその重要性を学びなおした思いです。皆さん、今日は本当にありがとうございました。

(了)