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宮西達也先生のモグラのキャラクターが誕生! 打ち合わせから絵本ができるまでを紹介します。

5月6日に『おまえうまそうだな』などの 「ティラノサウルス」シリーズで大人気の宮西達也先生の新しい絵本『モグラのモーとグーとラーコ』が出版されました。新しいキャラクターが生まれて、絵本になるまでを宮西先生のコメントとともに担当編集者がご紹介します。

絵本づくりのはじまりは、楽しい打ち合わせから


 コロナ禍前、静岡県三島市にある宮西先生の絵本ギャラリーを、最後に訪れたのが、ずいぶんと昔のような気がします。
 2020年2月は、新型コロナウイルスに、少しの不安をおぼえるくらいで、人と会うことが自然にできていた頃。ここまで全世界に広がってしまうとは想像できていませんでした。
 マスクをして、手の消毒ボトルを持って先生を訪問したのですが、ギャラリーで偶然会った別の出版社の編集者もみな同じ消毒ボトルを持っていて、みんなで「あはは」と笑いました。
 今思えば、あの頃はどこか対岸の火事のように思っていたんですね。
 

 宮西先生との打ち合わせには、絵本のお話になりそうなテーマやキャラクターをいくつか考えて伺うのですが、たいていはお互いの近況報告から始まります。
 先生が、飼っているミニチュアダックスフントのことを話せば、私も昔飼っていた犬のことを話したり、家族のことや旅行や趣味の話まで、なんでも話すので、先生は私のことを家族と同じくらいよくご存じなのではないかしらと思います。

▼宮西先生と愛犬の<うまそう>&<クリーム>

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 宮西先生は、私が用意していくテーマよりも、そういう実際の近況の話の中から絵本の種をすくいあげることが多々あるからです。
 そんな雑談のような話でひとしきり笑った後、いよいよ、絵本のテーマについて話をはじめ、宮西先生が「あ、それいいねえ。描きたいな」とおっしゃったら大成功。
 
 コロナ禍前、最後に打ち合わせに伺ったその日も、いくつかの絵本のアイディアをお話ししてから、自分にとってはいちばん良いと思っていたアイディアを最後に差し出しました。

「『まいごのモグラ』というタイトルの絵本、どうですか?」
 私の構想では、まいごになってしまったモグラが、家をさがしていろいろなところをめぐり、それぞれの場所はとても楽しいところだったのですが、家に帰ってきて(やっぱり家族のいる家がいちばんいいね)というようなイメージでした。
 
 宮西先生は「いいねえ、モグラ、かわいいねえ。ぼく、すぐ描けそう!」とおっしゃって、モグラの絵本やりましょう! ということで打ち合わせはうまくまとまり、嬉しい気持ちでお別れしました。
 
 そして、少ししたある日、先生から「モグラがちょっとできてきたので見てください」とお電話がありました。
 こんなに早く? 頂いたメールを期待でいっぱいになりながら開けると、目に飛び込んできたのは、表紙とゴルフ場のシーンでした。

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 かわいい! 想像以上のモグラの愛らしさに、うきうきが止まりません。
 なんと、最初の打ち合わせの間に、宮西先生の頭の中では、ほぼストーリーと絵ができあがっていたのだそうです。そこで、短い時間に、どんな風にこのお話を思いつかれたのかを聞いてみました。

宮西先生
「僕は、今までに描いたことがないキャラクターで絵本が作りたいと思っていました。なので、編集者に「モグラ」と言われすぐ飛びつきました(笑)
土の中にいるモグラって何してるんだろう? 形もずんぐりむっくりで可愛いし、掘っているトンネルってどうなってるんだろう ? って‥‥。
そして、モグラ達の性格を表すためにも、話しているのが誰かわかるためにも、名前が必要になりました。
 モグラから一字ずつとって、モー・グー・ラーと最初は名前をつけました。(これは、他の本でも、僕はよくやっています)
モーやグーは、響きも良く気に入っていましたが、ラーだけが‥‥。
リズムも悪いし、それで女の子なので<コ>をつけてラーコにしてみると
声に出して読んだ時、とてもリズムが良かったのでタイトルにもつけたんです」


想像していた物語より、もっと楽しい作品ができて

 
 宮西先生は、打ち合わせから時間をおかず、全ページの文章と絵を一気に描き上げてくださいました。
 コロナ禍で、東京から静岡に行くことは、はばかられ、メールと電話でのやりとりになってしまいましたが、最初に送っていただいた絵本の原型は、ほとんど最終的に仕上がったものと同じです。

『モグラのモーとグーとラーコ』あらすじ>
 おるすばんをたのまれたモグラのきょうだい、モーとグーとラーコが、お母さんをさがしてトンネルをどんどん進んでは、ひょいっと穴からとびだします。
 穴の外には毎回びっくりさせられる風景がひろがります。
 なんども危ない目にあう間に、いちばん下のなきむしラーコは、だんだんとたくましくなっていくのです。

 
 ページをめくるたびに、モーとグーとラーコといっしょに「うわぁー! たいへんだー!」と、思わず叫びながら読み進めました。

 タイトルも『まいごのモグラ』から『モグラのモーとグーとラーコ』に変わり、お話も私の想像をはるかに超えて、楽しいものになっていて、宮西先生の想像力・創造力に思わず、さすが! と、うれしい裏切りをしてもらった気持ちになりました。

 この絵本の中でひとみひらきだけ、最初にいただいた絵から、本になる前に修正をしたページがあります。
 ヘビを追い返すシーンです。最初に絵をいただいてから数日後、修正した絵を送ってくれたのです。
 ラーコがなげたボールがヘビに当たるのですが、最初に描かれた絵は、もっともっと、ヘビが痛そうな表情をしていました。

▼最初に描かれたイラスト

15もとイラスト

▼修正したイラスト

15修正あとイラスト

 なぜ、このページを描きかえることにしたのかを聞いてみると‥‥。

宮西先生
「モグラはモグラとして頑張って生きています。
ヘビもそうです。生きていくのに頑張っています。
なので、ヘビがあまりにも悪者になったり、ひどい目に遭うことは、嫌でした」

 宮西先生は、わき役に見える登場人物に対しても、やさしく愛情を注がれるんだなと改めて感じました。

絵が完成して、絵本づくりがはじまります

 絵本の絵が出来上がり、出版の時期まで少し時間があいてしまいましたが、いよいよ絵本の形にするため、細かいやりとりを始めました。
 
 私が気になったのは、タイトルの色。
 最初は、タイトル文字を全部白にしてはどうかと、宮西先生から提案がありました。
 絵は黒と白と茶色が基調になっていて、タイトルを白でつけると、とてもひきしまっておしゃれな表紙に見えるのですが、ラーコのリボンが赤系統。タイトルに赤を使うのはどうだろう。
 
 また、帯は絵を活かしたデザインにしたいけれど、帯のキャッチコピーは表紙の色合いに合うオレンジと、表紙には全く使われていない黄緑と、どちらがきれいだろう‥‥。

 タイトルの色を白と赤、帯のキャッチコピーの色を黄緑とオレンジ、それぞれふたつの案を作って、話し合いをすることにしました。

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 タイトル文字の色は、すぐに赤を入れたデザインに決まりましたが、帯のキャッチコピーの文字は、ぎりぎりまで悩んだ結果、黄緑で行こうと決まりました。

 いざ、印刷所から最初の色校正がとどいたとき、宮西先生から「今から紙を変えることはできますか?」とご提案がありました。
 
 これまで、私が宮西先生とつくった絵本は、すべてツルツルの発色の良い紙を使ってきました。
 私としては、意外なご提案だったので、どんなイメージにされたいのかなと思い、聞いてみると‥‥。

宮西先生
「今までにないキャラクーでのお話なので、紙も他のものに変えてみたいんです。モグラのイメージや、土の中ということで、少し色が沈む感じにしたいと思うんです」

 
 モグラのふわっとした手触り、土の感触、土の中の薄暗さなどが感じられるものにできないかと思われたのですね。
 
 モグラのイメージが出しやすい、少し凹凸を感じるようなナチュラルな手触りの紙は、ツルツルの紙に比べて、色が沈んで印刷されるものが多いため、先生の予想を超えて、色が沈みすぎてしまうのではないかという不安がありました。

 そこで、製作部に相談をすると、インクがのりやすく、色が沈みすぎない良い紙を提案してくれました。
 
 新しい紙で、ためしに印刷してみた結果、とてもいいのです。ナチュラルな風合いで、土のにおいがしてくるような気もちさえして、本当に土の中のモグラたちをのぞいているようで、宮西先生も私も製作部の紙を紹介してくれた人も皆、この新しい紙で本をつくることに大賛成となりました。

 いよいよ本ができあがり、宮西先生の元へも、できたての本をお送りしました。その時の先生の反応は、一緒に本をつくらせていただいた私にとっても、とても嬉しい言葉でした。

宮西先生
「めちゃくちゃ嬉しいです。
自分で言うのもお恥ずかしいですが、可愛い!
3匹が、とてもいいキャラクターです!
穴も、いろいろあって楽しい!
読み聞かせに最高!
すいません。自画自賛でした」

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 5月6日、『モグラのモーとグーとラーコ』が書店にならびました。これから、モグラたちがいよいよ地下から世に出ていくことになります。
 
 読んでくださる方たちが、想像の中で、また別の場所にモグラたちを連れていってくれたら、モーとグーとラーコは、どこへでも行けるなあと思います。
 
 地下といえば、先生がおもしろいことをおっしゃっていました。

宮西先生
「ぼく、実はモグラと同時進行的に、地下鉄の本も描いたんですよ~。
なんだか地下にばかりいますね。ぼくも最近ずっと家にこもっているしね。
モグラと同じで、やはり今まで作っていないキャラクターでという思いから地下鉄の絵本を描こうと思いついたんです。
乗り物の絵本は、いくつか描きました。自動車も飛行機もロケットも描きました。
でも、地下鉄は、描いたことがなかったんです。
土の中、暗い世界のモグラも地下鉄も、なんとなくミステリアスで、ワクワクします。(ちよっとオーバーですね・笑)」


 その地下鉄の絵本がこちらです。

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『ちかてつサブちゃん』(みやにしたつや作・絵/ほるぷ出版)は、ちかてつのサブちゃんが、見たことのない地上のうわさをきいて想像をふくらませる楽しいお話です。


 人間からすると、地下は未知の場所ですよね。
でも、地下に暮らすモグラや地下鉄からしたら、地上がまさに未知の場所なんですね。
 その逆転の発想から、こんなにもおもしろい2冊のお話を思いつく宮西先生には、これからもどんどん、へんてこで笑える絵本をたくさん描いて、私たちを未知の世界へ連れていってほしいなと思います。

宮西達也(みやにしたつや)プロフィール
1956年、静岡県生まれ。日本大学芸術学部美術学科卒業。作品に、『おまえうまそうだな』(けんぶち絵本の里大賞)にはじまる大人気の「ティラノサウルス」シリーズ『ペンちゃんギンちゃん おおきいのをつりたいね!』『はらぺこヘビくん』『あしたのぼくは…』『ウマソウのピョンピョンピョーン』『のびのびおおかみ』(以上ポプラ社)『帰ってきたおとうさんはウルトラマン』(けんぶち絵本の里大賞/学研プラス)『うんこ』(けんぶち絵本の里大賞びばからす賞)『にゃーご』『おっぱい』『きょうはなんてうんがいいんだろう』(講談社出版文化賞絵本賞/以上鈴木出版)『ふしぎなキャンディーやさん』(日本絵本賞読者賞/金の星社)『まねしんぼう』(岩崎書店)など多数ある。