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ウルトラ怪獣から学習漫画へ!漫画家・迎夏生先生インタビューのこぼれ話がおもしろすぎました

ご存じない方も多いと思いますが、ポプラ社から刊行されている学習漫画「コミック版 世界の伝記」シリーズが通算50巻を迎えまして、ご愛読いただいている読者の皆様には、ひとえに御礼申し上げます。

コミック版 世界の伝記シリーズ…株式会社ポプラ社から、2011年から刊行する「コミック版 世界の伝記」シリーズは、国内外の偉人を取り上げており、絵が現代風で女性を主人公にした作品も多く、男女問わず多くの児童から大変人気があります。

▲一部カラーページもあり、とても華やかで読み応えのあるシリーズで人気のある「コミック版 世界の伝記」。

さて先日、毎日小学生新聞さんに、このシリーズに多数ご執筆いただいている漫画家の迎夏生(むかい・なつみ)先生へのインタビューを掲載していただきました。迎先生といえば、「コミック版フォーチュンクエスト」や「ワンダル・ワンダリング!」(いずれもメディアワークス)を手掛けられた実力派漫画家。掲載された記事は、学習漫画を描くうえでのご苦労あり先生のご幼少期のお話ありと、とても読みごたえがありましたので、お近くの公共図書館さんなどで蔵書されているようでしたら、ぜひご覧ください。

ところで、インタビュー当日、取材後に先生とおしゃべりをしていた時に伺ったお話がまた、すごくおもしろかったのです。

今回はそんな、こぼれ話をご紹介できればと思います。

▲記事用の写真撮影中の先生。この取材のために、ポプラ社まで来ていただいちゃいました。

原点はウルトラ怪獣?

--インタビューお疲れ様でした。初めて伺ったお話も多くて、とてもおもしろかったです。ウルトラ怪獣のイラストを描いていらしたお話とか…。

(迎先生 以下敬称略)小学校低学年の頃からイラストを描くのは好きで、ウルトラマンの怪獣なんかを描いていたんですよね。好きだったのは、海の怪獣シーモンスとシーゴラス。ベムスターも、あれは強い怪獣でしたね。「怪獣使いと少年」の回に出てきたムルチも好きでした。造形がかっこいいんですよ、サーモンみたいな顔してて。「怪獣使いと少年」は、ドラマとしても差別問題などを扱っていて、印象深かったですね。

--「帰ってきたウルトラマン」の怪獣たちですね。

(迎)テレビでよく見ていたのは「帰ってきたウルトラマン」、「ウルトラマンタロウ」、「ウルトラマンA」あたりでしょうか。一番印象に残っているのが、帰ってきたウルトラマンの怪獣。作品としてもビジュアルとしても、子供心にインパクトが強かったんでしょうね。ソフビ人形を買ってもらう事もありましたけど、目当ての怪獣がなかなか手に入らない。代わりにゴキネズラという、やっぱり「帰ってきたウルトラマン」の怪獣を買ってもらったりしていました。

--ウルトラマンよりも怪獣の方にひかれていたんですね。怪獣の大きさや重さを覚えて怪獣博士になりたい!みたいな気持ちは?

(迎)それは全くなかったです。記憶力に全然自信がないので。それよりも、自分でオリジナルの怪獣をつくって描いていました。設定を考えたりして。そういう経験は、キャラクターづくりという意味で今に繋がっているのかもしれません。私の原点はウルトラ怪獣なのかも。

アニメや漫画からも影響を受けて

(迎)それ以外だと、アニメの『新ジャングル大帝』を見ていました。とにかく動物が好きで、このころ描いていた漫画は動物が主人公のものばかりでした。

--「世界の伝記」でも人物が馬に乗っている場面などがありますが、動物の体というのは、描くのは難しいのでは?

(迎)難しいですね。『エカチェリーナ2世』や『マリア・テレジア』では、馬上で見栄を切る大事なシーンなので、がんばりました。

▲『マリア・テレジア』より。四肢動物の四肢って、関節や筋肉の付き方をわかっていないと、うまく描けないんですよね。

(迎)もともと馬は好きで、初めて買ってもらったコミックスは、上原きみ子先生の『ロリィの青春』という馬術漫画でした。ジャングル大帝みたいに動物がしゃべるんじゃなくて、馬が“馬として”描かれているのが新鮮でした。それで馬にあこがれて私高校生の時、馬術部に入りました。美術部じゃなくて。

--ほかには、どんな作品を?

(迎)雑誌を自分で買い始めたのは『Lala』や『花とゆめ』からでしたけど、それとは別に『週刊少年チャンピオン』も読んでいました。だから、自分のルーツという意味では、少女漫画と少年漫画がちゃんぽんになっている感じです。

--振れ幅がすごい。

(迎)チャンピオンは『ドカベン』が好きでした。殿馬が大好きだったんです。惚れてましたね。そういえば殿馬はピアニストですよ!かっこいい!女の子は里中ファンが多かったかもしれませんが、私は美形がどちらかというと苦手なので…。当時もそそられなかったし、自分で描くのも難しいです。

--とはいえ、新刊『ショパン』の主人公は、かなり美形では?

(迎)だから、ショパン(のキャラクターデザイン)は、最初は苦労しました。ドラクロワや、端正な顔のキャラでもリストは描きやすかったんですが。リストのきれいさは男性的で、そういうのは描きやすいんです。難しいのは中性的な線の細い美形で、ショパンはそれで苦労しました。

▲『ショパン』より。登場人物紹介のページです。「ドラクロワは良い」と先生。

(迎)伝記のキャラクターデザインをするときにはいつも、何かしら元の顔の特徴を残そうとしています。今回のショパンでも、肖像画を見ながら「ショパンらしさって、どこだろう?」と考えました。すると、彼はやせている事もあり、意外と骨ばっているなと気づいて、その辺をいかしていけば、(苦手な)つるんとした顔にはならないだろうし、ショパンっぽさが出るんじゃないかと思ったんです。だから鼻筋とか頬骨のラインには、こだわりました。

--作画について他にこだわっているところはありますか?

(迎)学習漫画は、分からない部分を勝手に描いたりできないですから、エピソードはもちろん、たとえば作中に出てくる物なども調べながら描いています。ショパンの下調べをしていてびっくりしたのは、あの時代にはもう汽車が走っているんですね。馬車のイメージが強かったのですが。それで、当時の汽車を調べるんですけど、機関車の形はわかっても、客車を何両引いていたかが分からなくて。背景はアシスタントさんにお願いするんですが、10両くらい描いちゃって後から「当時はそんなに多くの客車は引いていなかった」という事が分かったらいけないので、3両くらい描いて、それより後は木の陰に隠してもらいました。

▲『ショパン』より。作中の小さなひとコマだとしても、しっかり調べたうえで描かれています。

(迎)カバーイラストでも、ピアノの譜面台に楽譜が立ててあるんですけど、ちゃんとショパンの書いた「練習曲(エチュード)作品10-8」という曲のものにしています。ルーペで見ないと読めないくらいの大きさなんですけど、できた本を、ピアノを弾く知人に見せたら、ちゃんと気づいてくれました。細かいところもちゃんと調べて描いて、知っている人がそれに気づいたら、喜んでくれると思うんです。

▲迎先生の最新刊『ショパン』。ピアノの形も、当時のものだそうです。

(迎)他にも、ショパンは花が好きだったということで、隙あらば花瓶を配置しています。読者の方には、そういう、ちょっとマニアックな部分でも楽しんでもらえたら嬉しいですね。

--次回作も、今から楽しみです。今日はありがとうございました。
というわけで、先生のご執筆に対する姿勢と、そのルーツの一端を伺うことができました。

ぜひ皆さんも、実際に本を開いてみて、先生のこだわりの一作をお楽しみいただければと思います。

そして、迎先生はご自身でもnoteアカウントを開設されています(https://note.com/wanokuni)。『ショパン』のさらなる裏話も投稿されていらっしゃるので、ぜひご覧ください!(コミック版世界の伝記編集部)