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「ポプラズッコケ文学新人賞」大賞受賞作を徹底紹介&選考の裏側まで語ります!【児童書作家デビューへの扉#04】

子どもが自分で考え、動き、成長するものがたり。
子どもたちが自分で選び、本当に読みたいと思えるものがたり。
そんな作品を、子どもたちに届けられる新たな書き手に出会えるよう、2011年にスタートした「ポプラズッコケ文学新人賞」。
これまでの大賞受賞作を、選考に関わってきた編集の担当者たちが各回の選考会の記憶や記録を振り返り徹底的に紹介、選考の裏側までを語るシリーズ第4回。(こちらもあわせてお読みください→ 第1回第2回第3回
いま、子どもたちに届けたい作品、求められている作品が、ここから見えてくるかもしれません。児童書作家デビューをめざすみなさん、必読です!

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今回は、第2回大賞受賞作「ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣」(出版時『おれたち戦国ロボサッカー部!』に改題)(作・奈雅月ありす)を紹介します。

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▲『おれたち戦国ロボサッカー部!』
(応募時タイトル「ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣」)
作/奈雅月ありす 絵/曽根愛

★第2回大賞受賞作
「ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣」作/奈雅月ありす

ズッコケ受賞作_見出しノブナガ

議論白熱の最終選考

第2回は全部で241編の応募がありました。力作ぞろいの中、最終選考ではとくに魅力ある2作品で選考委員の意見がまっぷたつに。丁々発止の白熱した議論の末、奈雅月ありすさんの「ノブナガ、境川を越える──ロボカップジュニアの陣」が大賞に決定しました。

どちらの作品も、賞の目的である「今を生きる子どもたちがお腹を抱えて笑い、そして心から泣ける児童文学作品と書き手の選出」にふさわしく、最終審査員である那須正幹先生、「ズッコケ三人組」シリーズの編集担当だった弊社社長(当時)、編集部員も議論をたたかわせながらも、大いに悩み、迷い……。最終的に決め手となったのは、那須先生が「描写の丁寧さ」を評価されたことでした。

愛情を持って描かれる登場人物たち

主人公は尾張・名古屋の中学生、恩田伸永(ノブナガ)。名に偽ることなく「織田信長・命」な少年です。ある日、父親の転勤で敵対視している徳川家康の地、三河・岡崎に引っ越しをすることに。「あのいけすかない家康を支えた子孫ども、心しておけよ!」と気合いを入れて向かった新しい学校で出会ったのは、徳山家康(イエヤス)。ロボサッカー部のプログラミングの天才だといいます。

尾張に三河? そしてロボサッカー? と、作品のページをめくるたびに、ほかの児童文学ではあまり見ないような単語が目に飛びこんできます。でも、つまずくことなくグイグイと読み進めることができるのは、何より登場人物ひとりひとりの個性が丁寧に描かれているから。「人物が活きるエンタテインメント」作品にしあがっているからです。
人物描写の丁寧さは作者の愛情のあらわれです。作品から伝わる子どもたちへの愛情は読者からの信頼にもつながります。

物語を飛び出して伝えるもの

ロボサッカーは読んで字のごとく、自律型ロボットによるサッカー。ロボサッカー部は、自分たちでプログラムし製作したロボットで、ロボサッカーのコンテスト「ロボカップ」の出場をめざしているのだといいます。
部員には本多や小早川、井伊……そしてイエヤス、新入部員となったノブナガ。名前だけひろって読めばまるで歴史小説のようですが、それぞれが個性的に活躍し、読者はいつのまにか「ロボサッカーっておもしろい!」という心持ちになっていきます。

物語の中でロボサッカーに興味を持つというだけでなく、実際のロボサッカー(ロボカップサッカー)へと好奇心がひろがります。すぐれた物語は、読み終わって「楽しかった」と本を閉じておしまいになるのではなく、読者に新しい楽しみを教えてくれたり、つぎなる行動への背中を押してくれたりするものなのです。

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最終審査会に残る作品は、それぞれすぐれた点があり、原稿からおもしろさや読みごたえが存分に伝わってくるものばかりです。その中で、「物語を飛び出して伝えるもの」が感じられるかどうか。選考にたずさわる編集者として、そのことはとても重要視しています。

作品がおもしろいのはあたりまえ、そこから何を得られるか。やさしさでもはげましでも勇気でもいい。知識でも行動力でも、夢や希望でもいい。
応募いただく作品は、書き手のみなさんが今の子どもたちに寄せるメッセージ。今年も新鮮で魅力的な作品を期待して、楽しみにお待ちしています!

(文・小桜浩子)


詳しい総評・選考経過はこちらから
第2回

「ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作を振り返る」シリーズ(↓)

【2021年9月1日から応募受付開始】第11回「ポプラズッコケ文学新人賞」
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