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「ポプラズッコケ文学新人賞」大賞受賞作を徹底紹介&選考の裏側まで語ります!【児童書作家デビューへの扉#03】

子どもが自分で考え、動き、成長するものがたり。
子どもたちが自分で選び、本当に読みたいと思えるものがたり。
そんな作品を、子どもたちに届けられる新たな書き手に出会えるよう、2011年にスタートした「ポプラズッコケ文学新人賞」。
これまでの大賞受賞作を、選考に関わってきた編集の担当者たちが各回の選考会の記憶や記録を振り返り徹底的に紹介、選考の裏側までを語るシリーズ第3回。(こちらもあわせてお読みください→ 第1回第2回
いま、子どもたちに届けたい作品、求められている作品が、ここから見えてくるかもしれません。児童書作家デビューをめざすみなさん、必読です!

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今回は、第5回大賞受賞作「モツ焼きウォーズ 立花屋の逆襲」(作・ささきかつお)第9回大賞受賞作「ライラックのワンピース」(作・小川雅子)を紹介します。

モツ焼きウォーズ

▲『モツ焼きウォーズ 立花屋の逆襲』
作/ささきかつお 絵/イシヤマアズサ

ライラックのワンピース

▲『ライラックのワンピース』
作/小川雅子 絵/めばち

★第5回大賞受賞作
「モツ焼きウォーズ 立花屋の逆襲」
作/ささきかつお

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複数の事件の絡み合いを構成力で読ませる作品

第5回の<ポプラズッコケ文学新人賞>に応募された195編の作品から、最終選考に進んだ作品は5編でした。

作品の舞台は、町の再開発のために立ち退きを迫られるモツ焼き屋「立花屋」。主人公は、そのお店の4代目となる予定の小学6年生のタケルとその家族です。お店はいつも常連のお客さんの憩いの場となっていて、タケルもお父さんもこの店を必死に守ろうとします。
ところが、再開発推進派からのいやがらせは激化するばかり。そんな時、タケルは立花家が忍びの血をひく一族であることをババ様から告げられます。ただし、妖術を使えるのはなぜか女の人だけ。

タケルたちは、再開発推進派に立ち向かい、無事にお店を守り切れるのでしょうか? 先祖伝来の財宝の噂や姉のアイドルデビューの話もとびだし、事件は思いもよらぬ方向へ発展します。

読み進める間にさまざまな事件が絡み合い、「次々と意外な展開を見せ、読者を飽きさせない作品」と那須先生も選評でおっしゃっている、力強い作品でした。

ファンタジーの中で家族の絆、現代社会まで描く

年齢不詳のババ様や、緑に目を光らせて使う妖術など、ファンタジーの要素に心躍る物語ではありますが、中で描かれている題材は現代社会でたびたびニュースにもなる再開発や、親子の絆です。

町が生まれ変わるとき、それによって得られるものもあれば、それまで確かにあった人間同士のつながりなど、失われてしまうものもあります。この物語ではその事実をきちんと描き、最後にはみんなが納得感を得られる、すがすがしい決着をつけています。

那須正幹先生の「ズッコケ三人組」シリーズでも、時代時代の大人社会の問題に深く切り込みながら、子どもたちが知恵と勇気で立ち向かう姿が描かれてきましたが、この作品では家族が一体となって立ち向かう姿が描かれていました。
そして、物語でタケルが言う「(略)この場所で生まれて、この場所で生活してきたおれにとっては、この場所でいっしょに笑ったり、泣いたりしてきた家族が一番の宝物なんだよ(略)」という言葉に、タケルの一家の家族の絆の強さと愛情の深さが感じられ、物語が終わった後も、まっすぐに歩んでくれる未来を感じられる作品でした。

(文・浪崎裕代)


★第9回大賞受賞作
「ライラックのワンピース」作/小川雅子

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「審査員賞をおくりたい」と言われた前年の応募作

第9回ズッコケ文学新人賞の2次選考に残った「ライラックのワンピース」の作者名に見おぼえがありました。小川雅子さん。前年、第8回の2次選考に残った「のちの月」の作者です。そのことに気づいたとき、第8回の1次審査にあたった選考委員のAさんのコメントを思い出しました。
「『のちの月』は大賞には選ばれないだろうが、審査員賞をおくりたい」

「のちの月」は古い屋敷を舞台に、過去と現代が交錯するファンタジー作品で、文章力や構成力の確かさ、イメージの美しさが際立っていたものの、オリジナリティの弱さや、描かれた子どもが受け身で、大人のノスタルジーを感じさせるなど、問題が指摘され、選外となりました。
けれど、Aさんに「審査員賞をおくりたい」と思わせた小川さんの児童文学への真摯な姿勢は、その後、豊かな実を結ぶことになります。

翌年、「ライラックのワンピース」で再チャレンジ

小川さんの翌年の応募作「ライラックのワンピース」の主人公は6年生のサッカー少年、トモ。地元のフットボールチームで活躍する一方、幼い頃から、クリーニング職人の祖父と、仕立ての仕事をする祖母の影響を受け、「裁縫少年」と姉から呼ばれるほど裁縫に夢中です。そのことを知るのは家族だけだったのですが……、ある日、リラちゃんという少女と出会い、亡くなったお母さんとの思い出のワンピースのお直しを頼まれたことで、大好きなサッカーと裁縫が両立していた日常が少しずつ、そして大きく変化していきます。

信頼と期待を込めて、大賞を!

人から人へと受け継がれる想いを濃やかに描いた本作品は、那須先生から「物語の進行もスムーズだし、登場人物もきちんと描けている。それらを支える文章も的確だ」と高く評価され、選考委員たちからも強い支持も集めました。
ただ前作同様、「大人の思いを子どもが代弁している。もっと子どもたちが主体的に動いてほしい」という厳しい意見も出されました。それでも大賞決定が揺るがなかった理由は、「のちの月」から「ライラックのワンピース」へと至った作者に対して審査員たちが信頼を抱き、更なる可能性を感じたからです。

そして、小川さんは刊行された『ライラックのワンピース』で見事にその期待にこたえます。

「児童文学はあくまで子ども主体の物語であり、主人公たちが大人の思惑を超えて活動することで子ども読者を魅了する。大人好みの子どもでは、読者は共感しない」(那須正幹先生選評より)

那須先生の苦言とも言える選評の言葉をしっかりと受けとめ反映させた、素晴らしいデビュー作です。

(文・松永緑)


各回の詳しい総評・選考経過はこちらから
第5回
第9回

「ポプラズッコケ文学新人賞大賞受賞作を振り返る」シリーズ(↓)

【2021年9月1日から応募受付開始】第11回「ポプラズッコケ文学新人賞」
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