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鋭い感性VS優しさ 第9回ポプラ社小説新人賞の白熱選考会をすべて公開!


2019年12月10日
第9回ポプラ社小説新人賞の結果が発表になりました。

応募総数は611作。

一次選考では71作を通過し、その中から14作品が二次選考を通過しました。
そして三次選考を経て最終候補4作品を決定、下記の作品が新人賞の受賞となりました!

新人賞:『Bとの邂逅』宮本志朋
特別賞:『シガーベール』北原一
奨励賞:『隠れ町飛脚・三十日屋余話』鷹山悠

ポプラ社の大会議室で某日行われた選考会には、最終選考に携わるメンバーが集いました。

その数17人。
内訳はこうです。
社長・編集部メンバー(8人)・営業部メンバー(5人)・宣伝部メンバー(3人)

ポプラ社小説新人賞の特徴は、選考を全て社内で行うということ。
編集者だけでなく、営業や宣伝など、本づくりにかかわるメンバー全員が最終選考では参加しています。
それによって幅広い意見交換ができるだけでなく、社を挙げてポプラ社デビューの作家さんを応援しようという意識を、全員で共有するためです。

このメンバーで熱い熱い最終選考会を行いました。

新人賞の選考会って、どんなことを話し合っているの?
と気になっている人も多いと思います。


……

と、いうわけで今回は特別に、第9回小説新人賞最終選考会の模様をお送りいたします!


最終候補作の決定

まず、最終選考で議論される「最終候補作」ですが、編集部での三次選考を経て決定します。
候補作の数は決まっておらず、最終候補にふさわしい、と思った作品はすべてあげる方針ですが、なぜか例年4~6本くらいになることが多いです。

今年の最終候補作はこの4本でした。

『Bとの邂逅』宮本志朋
子どもの頃から「普通じゃない」と言われてきた高校生の広一は、担任の美術教師の二木の「秘密」を知っている。万引きが見つかった際、親の代わりに二木を呼んだことがきっかけで、二木の秘密を黙認する代わりに、広一は、自ら書いた小説の感想をもらうことになる。
『シガーベール』北原一
高校2年の夕作まことは、顔の痣を化粧で隠し、人との交流を避けている。ある日、早朝の新聞配達のアルバイトの帰りに、クラスメイトの槙野志帆が公園で煙草を吸っているのを目撃する。後日、槙野にファンデーションを持っていることを知られた夕作は、槙野と少しずつやりとりするようになるのだが……。
『カンブリアのさなぎ』仲田鏡未
お盆を大叔母・凌子の田舎で過ごすことになった泉水。凌子の孫の滄、凌子の田んぼを耕している泰斗らとの交流の中で、泉水は自分を見つめなおしていく。
『隠れ町飛脚・三十日屋余話』鷹山悠
事故で息子を失った静は、手習いの手伝いの傍ら、隠れ町飛脚「三十日屋(みそかや)」を営んでいる。通常の飛脚では請け負わない「曰くつき」の仕事を行う店には、さまざまな事情を持つ依頼人が訪れる。

最終候補作が決まったら選考に携わるメンバー全員が原稿を読み、事前にレポートと順位表を提出します。(最終候補の作品に順位をつけます)
事務局でそれをまとめたうえで、当日の選考会がはじまります。

選考会は事務局が司会となって進行していきます。

まずは一作品ずつ、一人一人が感想と講評を述べていきます。
素直な感想、良かったところ、直したほうがいいと思うところ、などなど……。
17人全員が感想を話すので、それだけでけっこうな時間がかかります。

小説の読み方に正解はないので、人それぞれ掬い上げるポイントが異なっていて、話を聞いているだけでとても興味深いです。


それでは、今回の選考会でどのような感想があがったのか、ご紹介していきます。
(※本当はもっと長いのですが、抜粋しています。)

選考会レポ『Bとの邂逅』


秘密を曝け出しあった後の二人のやりとりが非常に面白い。
自身の性癖を十分に理解しながら、その性癖と「共存」するしかない二木の生き方に、絶望感や後ろ暗さだけではない、今日的なテーマを見ることができる。
文章表現が的確でかつオリジナリティがある。ストーリーの展開は読者の想像を超えていて、良い意味で裏切られる。ラストの伏線の回収も素晴らしい。
良い意味で裏切られる展開が多く、続きが気になって一気読みする作品でした。包み込んでくれるような優しさはないのですが、この物語に救われる読者が多くいるのではと可能性を感じる物語です。
思春期特有の自意識過剰では片づけられない、そういうある種の息苦しさを抱えた大人がたくさんいるのだとしたら、そういった人たちに差し出したい一冊です。
正直、一番推したいのに言葉が出てきません。時間をおいても、冷静な評価が下せないと思うほど心揺さぶられてしまいました。
面白かった。
奇妙な師弟関係、友情関係に、最後まで一気読みさせられる魅力がありました。文中で出てくる言葉「地球で窒息しないための方法』は、タイトル案にもなりそう。終わり方については、読む人によって意見が分かれそうですね。
タイトルにもつながる「静けさ」をめぐる図柄の説明のあたり、最初はいささか怪しみ、いじわるな気持ちで読み始めた。だが、ページが進むにつれ、のめり込み、最後は「すごいのを読んじゃったな」というのが、率直な感想である。
本作は、まるで人間の愚かさを競い合っているような時代の空気を登場人物に濃密に反映させ、現代のテーマを重層的に織り込みながら、エンタテインメントとして書ききっている。時代から逃げていないことに感動を覚えた。文章、構成力、人物の描き方など、技術としても十分な力量を感じた。


選考会レポ『シガーベール』


登場人物のセリフのひとつひとつが借り物の言葉でなく、生き生きとしていて、作者のオリジナリティに溢れている。保険の野原先生のセリフなどはなかなか人生経験の浅い人には書けない重みがある。ほとんど話をしない夕作の祖母の存在感も素晴らしい。
けっしてエンターテインメント性が高いわけではないのだが、ストーリーにはきちんと起伏があり、最終盤の夕作と槙野のシーンなど、読み手の感情に深く刺さってくる。
世に送り出すべき質と内容を持つ作品であることを考えると、個人的には何らかの賞に推したい。
エモい!の一言に尽きます。
目の前のことでいっぱいいっぱいで、毎日を生きるのに必死な十代ならではの感情の機微が丁寧に描かれていると思います。視野が狭くて、それでも一生懸命だったという「あの頃」は誰にでもあるのかなと。そういう頃を思い出しながら読んだので、主人公に感情移入しやすかったですし、クライマックスで、夕作と槙野が閉じ籠った自分の殻から出ていく姿には素直に胸を打たれました。面白かったです。
反面、語られずに終わって消化不良な気持ちになってしまった点がいくつかあり惜しい気持ちです。
とはいえ、クライマックスでは目頭が熱くなり、うっかり泣いてしまいました。十代の拙さとそれゆえの切実さと、生きるだけで本当にいっぱいいっぱいなんだという懸命さが胸に迫ってくる良作だと思います。
最後は、泣かされました。
「生きて」「いつか、また俺と出会って」という場面には、青春小説として普遍的な何かを感じました。
全体的に文章も読みやすく、描写力を感じました。
一方で、昭和を感じるというか、懐かしい話だなと。

<選考会レポ『カンブリアのさなぎ』>
・筆力が安定していて、面白く読んだ。ただ、話自体に瑕疵があるわけではないが、ドラマに欠けるように感じられた。主人公の女性に、キャラとしての魅力や奥行きが足りないように思え、彼女の心情に共感しづらかった。

・温かさと光に満ちた作品だと思います。はじめ、不倫ものかしらと警戒しながら読みましたが、杞憂でした。現実の苦さを肯定しつつも、どろどろした話にならず、穏やかなラストまでゆったりページを捲ることが出来ました。
お盆の描写がなんだか懐かしく、物語の世界に引き込まれます。また、文章も非常に読みやすくて、最後までひっかかりなく読めました。ただ、ページを捲らせる引力が弱い印象を受けます。物語になだらかな起伏はありますが、物語中の出来事や登場人物の気持ちにぐぐっと引き込まれるような感じはやや薄かったかなと思います。

・爽やかな小説でした。
不倫にどこかで傷ついていた女性と、離婚にどこかで傷ついていた少年が、田舎の町で、心を通わせていく様子にほっこりしました。
登場人物たちのぞれぞれの夏休みが、影響し合って、一歩を踏み出す様子はとても好もしい小説ではあるが、新たな何かを提示できているかには不安が残ります。

選考会レポ『隠れ町飛脚・三十日屋余話』

文章が読みやすく、物語も王道の時代もののストーリーラインを辿っており、手堅い印象を受ける。それぞれの依頼が、連作短編に適した分量の物語になっていて、大きな感動はないものの、オチもきちんとしていて、読ませる。
ただ飛脚商売としての見せ場が少なく、どちらかというと「便利屋」に見えてしまう。主人公の静が普通のキャラクターのため、エンターテイメントの時代小説の主人公としてはやや弱い。番頭の清四郎との恋愛話ももう少し織り込んでもよかったと思う。
いちばんページ数が多かった筈なのにいちばんあっという間に読み終わりました。続きが読みたい!
ぽんぽんと話が進んでいくのと、登場人物が生き生きしているのと、会話のかけあいの楽しさで次々ページを捲ってしまいました。なんといっても、キャラクターが魅力的でした。
毎日の生活になんとなく疲れてしまった現代人の心を癒し、前を向く元気を取り戻させてくれる物語だと思います。
お料理の描写が手抜きされないところが個人的にはかなりポイントが高かったです。生きるためには食べなきゃいけないですからね!と言わんばかりに、素敵な描写に溢れていて読むのも楽しかったです。
美味しそうなものが出てくる物語、というのは時流にも合っているように思います。
プロかなと思う完成度と読みやすさだった。時代ものと言われると構えてしまう自分にも、なんなく入れた。ワケアリの届け物だけ引き受ける「隠れ町飛脚」という設定が魅力的。この届け物の難題をどう解決するのか、という興味で読み進めてしまう。設定以外にも魅力的な要素を秘めているので、人物そのものに個性をもたせたり、レギュラー陣の人間関係に変化を入れると、楽しく読めてシリーズ化も見えてくるのでは。


白熱の新人賞選考

これらの感想を全員で共有した後に、いよいよ選考に移ります。
選考委員が4作品にそれぞれ順位をつけて、提出します。
今回の選考者による1位の得票数は、こうなりました。

『Bとの邂逅』11
『シガーベール』5
『カンブリアのさなぎ』0
『隠れ町飛脚・三十日屋余話』1

ここまでの感想共有で、『カンブリアのさなぎ』『三十日屋余話』は評価もあれど、作品の課題も多いという意見が多く出ました。

また、1位をつけた審査員の数は『Bとの邂逅』が圧倒的に多いですが、『シガーベール』も非常に評価する声が多く、現時点ではこの二作品が群を抜いているということで一致しました。
両作品ともに光るポイントがあり、選考会はこの二作品の争いに絞られました。

議論となったポイント。それは――

『Bとの邂逅』の鋭い感性 と 『シガ―ベール』の優しさ

この二作品は共に青年が主人公で、繊細な心を描いた青春小説でした。
青春小説の王道ともいえる『シガーベール』、深いテーマをエンタメとして描き切った『Bとの邂逅』。
同じ男子高校生が主人公でも、正反対の色を持っている二作品に意見が分かれ、選考会は更に激論に――。
ここからはその様子をお伝えしていきます。


激論!「新人賞」の栄冠のゆくえは


編集C 「『Bとの邂逅』は筆力が抜きんでているね。なにより強いメッセージ性をもった圧倒的な個性は素晴らしい!

編集A 「『シガーベール』は王道ストーリーですけど、人のもつ優しさに感動できる作品でした。わたしが今回の応募作の中で、つい泣いてしまったのは、唯一、この作品だけです

編集B 「『Bとの邂逅』はジャンルとしては感動系ではないかもしれないけど、読んでいる途中のハラハラドキドキ感というか、予想のつかない展開づくりはもっともエンターテインメント性があったと思います

営業A 「『シガ―ベール』には読後に包まれるような優しさがありました。疲れた人々を癒すような、希望を感じる……。『Bとの邂逅』はテーマが先鋭的なので受け止めにくい人もいるかもしれません」


『Bとの邂逅』は、クラスに馴染めない少年と、ある「性癖」を抱える先生の心の交流が鍵となっています。そのため、テーマが先鋭的すぎるのではないか、という意見が出ました。
主に営業サイドから出た危惧に対して編集部は……


編集E 「そこが良いんですよ!鋭い感性で時代に切り込んでいる。今こそ求められる小説だと断言します!」

編集C 「いまって多様性が求められる時代でありながら、まだまだ“常識”や“普通”に苦しんでいる人たちがいるよね。この小説を読んで、救われる人は必ずいると思う


この言葉には審査員の多くがうなずきました。それほどに『Bとの邂逅』は心に強く訴えかける力を持っていたからです。


最終的に共有できたポイントとして

・圧倒的な筆力が感じられる
・非常に現代的なテーマを孕んだ作品であること
・確かに繊細なテーマを取り扱っているが、それに誠実に向き合っていること。
・この作品を必要としている人が必ずいるということ

それらを全員が共有し、『Bとの邂逅』こそが新人賞にふさわしい、という形で満場一致となりました。

第9回ポプラ社小説新人賞は『Bとの邂逅』に決定!


続いて、『シガ―ベール』について……

編集A 「ストーリーにやや既視感はありますが、現代の読者に響く“優しさ”は、この著者が持つ特有なものだと思いますね」

宣伝C「わたしも登場人物たちのまっすぐな想いにウルっときてしまって。この作家さんの次回作を読んでみたいです」

王道ストーリーではあるが、高校生たちの不器用な優しさを真摯に描いたことは審査員たちの心にも響きました。よって、『シガ―ベール』は特別賞と決定しました。


また、新人賞争いには食い込まなかったものの、『隠れ町飛脚・三十日屋余話』についても推す声がありました。

編集D「作者の鷹山さんは去年の最終選考にも残っていましたね。児童福祉施設を舞台にした作品でした」

『隠れ町飛脚・三十日屋余話』の作者・鷹山悠さんは昨年も応募してくださっていて、最終選考の四作品に残っていました。残念ながら受賞には至りませんでしたが、今年はまったく違う題材の作品だったことに、審査員一同も驚いたのでした。

営業B「今度は時代小説に挑戦したんですか! 書ける幅がすごい!」

編集E「色々な題材を扱えるのは書き手として大きな武器ですね。しかも『三十日屋』は、ただ題材を変えただけではなく、時代小説としても読ませるものに作り上げていました

編集F 「現時点では粗い部分がありますが、編集者といっしょに改稿していけばすごくよくなる可能性があると思います。書き手としてのポテンシャルを秘めている人ではないでしょうか」

新人賞の対象としては作品に粗さが目立つものの、「時代小説」という新たな題材に挑み、高いレベルで書ききっていたこと。それらを含めた書き手としての可能性が評価され、『隠れ町飛脚・三十日屋余話』は奨励賞と決定しました。

議論が終わったのは開始から約三時間後。
熱く語り合い、全員の喉はカラカラに渇いていましたが、第9回ポプラ社小説新人賞の結果はこのように決定しました。

新人賞『Bとの邂逅』宮本志朋
特別賞『シガーベール』北原一
奨励賞『隠れ町飛脚・三十日屋余話』鷹山悠

そしてこの度、ついに受賞作三作が刊行されることになりました。

新人賞『Bとの邂逅』宮本志朋
→『ニキ』と改題、筆名を夏木志朋とし、9月に単行本で刊行!


ニキ書影


特別賞『シガーベール』北原一
→『ふたり、この夜と息をして』と改題して10月に単行本で刊行!

ナウプリンティング

奨励賞『隠れ町飛脚・三十日屋余話』鷹山悠
→『隠れ町飛脚 三十日屋』と改題し10月にポプラ文庫で刊行!

「三十日屋」帯なしラフ2

それぞれの作家さんに担当編集がつき、改稿作業をしています。
選考会で出た意見や感想も踏まえてみっちりと相談し、応募作から二回りも三回りもパワーアップしているので、みなさんに読んでいただける日が待ち遠しいです。

ポプラ社から新たに誕生する三つの才能。
ぜひ、応援いただければ幸いです。

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