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「GREEN SPRINGS」vol.2 「ウェルビーイング」から生まれたアイデアとコンテンツ

2020年、立川のみどり地区に未来型の文化都市空間『GREEN SPRINGS』がオープンしました。街区には多摩地区最大規模の多機能ホール「TACHIKAWA STAGE GARDEN」や、最上階には全長60mのインフィニティプール、全客室52㎡以上/バルコニー付きのホテル「SORANO HOTEL」の他、オフィス、ショップ、レストラン、広場が。心にもからだにも健康的なライフスタイルをテーマにした「ウェルビーイングタウン」です。

その『GREEN SPRINGS』のコンセプト開発から、ロゴやツール類のデザイン開発、PRまで一連のプロジェクトを運営してきたPOOL inc。前回は、コンセプトができるまでの話を紹介しました。Vol.2では、出来上がったコンセプトをプロジェクトのなかで、どのように展開させていったのかに焦点を当て、解説していきます。

このプロジェクトに関わったメンバー

小西利行/クリエイティブディレクター(POOL inc.)
丹野英之/アートディレクター(POOL inc.)
小林麻衣子/コピーライター(POOL inc.)
内島来/プロジェクトマネージャー(POOL inc.)
明山淳也/プロジェクトディレクター&マネージャー(株式会社GOODTIME代表取締役/POOLエグゼクティブアドバイザー)


全員で「ウェルビーイング」を目指すことからはじまった

小西
僕たちはPOOL incとして、ビジョンを大切にしています。「このプロジェクトがどこへ向かうのか」を明確にしていく〝ビジョンクリエイティブ〟というプロセスがあるのですが、今回そのビジョンを「ウェルビーイング」という一言で提示できたことが大きなキーになっていたと思います。

明山
規模が大きくなると、自然と関わる人が多くなります。その時に「誰もが納得しやすい収斂された言葉」が重要になってくると思っていて。POOLがつくるコンセプトやキーワードは常にそのコアを形成し、プロジェクトにおいて重要な役割を果たしています。

小西
その後、悩みながらも「最も的確なものは何か」ということをプロジェクトメンバー全員で探せたことは良い体験でした。今でこそ「ウェルビーイング」という概念は広く認知されていますが、当時はまだ馴染みはなかった。その言葉を聴いた時に、「なんだか良さそうだからそこを目指そう」となり、この何年間かはそれぞれのウェルビーイングを模索しながら走ってきたように思います。ホテル、ホール、ショップ、レストラン、オフィスそれぞれで「自分たちの領域におけるウェルビーイングって何だろう?」ということを考えながら進めたことは良かったです。

「ウェルビーイング」という言葉は、扱う時の自由度は高いのですが、幅が狭く、さらに奥が深い言葉で。いろんな場所に置くことができる上に、方向性はしっかりとある。その言葉(概念)の持つある種限定された世界の中をメンバーと共に走ることができたのは良かったかもしれません。

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施設のネーミングもコンセプトが判断基準に

GREEN SPRINGS

小西
ネーミングはオルタナティブでいろいろ考えていました。新規の街開発というイメージでいくと、成功例は「六本木ヒルズ」や「東京ミッドタウン」というものがある。だけど、それよりも普遍的な言葉にした方がいいかもしれないという話もあった。

小林
当初、「ヒカリエ」や「二子玉川ライズ」とかそういう街づくりのイメージで話を聴いていたので、私たちもそのようなラインで名前を考えていました。ただ、クライアントのキーマンたちとのディスカッションを重ねるうちに、商業的な20世紀型施設のイメージではなく、「100年続く新しい価値観の街をこの場所でつくっていきたい」という意志が伝わってきました。私たちはそこに強く共感しました。そこから、「商業施設の名前」ではなく「街の名前」とマインドチェンジし、普遍的で持続可能なネーミングに変えたのは大きな選択でした。そこもブランディングのポイントだと思います。

小西
日本人でも一発でわかりそうな言葉がいいよねって。あの場所はもともと「みどり地区」という名称だったので「GREEN DISTRICT」という言葉が出てきた。そのまま「グリーン(GREEN)=緑」「ディストリクト(DISTRICT)=地区」。

ただ、「ディストリクト」は日本人には難しいという話になり、元気になったり、わくわくしたりするイメージとして「スプリングス」というアイデアが出た。スプリングスには「泉」という意味があり、多摩川を中心にした水に恵まれた豊かな土地柄を連想させます。また「春」の意味もあり、健康で心地良い街のイメージに。結果的に「GREEN SPRINGS」という言葉として定着しました。

実はネーミングの提案は、コンセプト提案から時期がかなり遅れていたのですが、その段階で「ウェルビーイング」というコンセプトが機能して、キーワードの指針が決まりました。

このようなネーミングは、「最初からバシッと決まっていた」という話はよく耳にするのですが、絶対にそのようなことはなくて。多くの場合が悩みながら進んでいます。今回のキーの一つは、かなり早いタイミングで「ウェルビーイング」というコンセプトが決まり、プレゼンテーションした時に関係者から好印象を得ることができた点が、いろんな意味で大きかったですね。

ネーミングとも関りの深い街区のデザインは、マスターデザインアーキテクトを清水卓さん、マスターデザインランドスケープアーキテクトを平賀達也さんという街区開発の第一人者のお二人が手掛けています。二人の意志としてもこの場所は商業の匂いがするというよりは、人が豊かに暮らしていくウェルビーイングな街だろうということで一致しました。基盤となるコンセプトから全体を統一するイメージができています。

コンセプトから派生していくコンテンツアイデア

内島
コンセプトである「空と大地と人がつながるウェルビーイングタウン」から、来た人にその世界観を感じていただけるようにコンテンツが提案されていきましたね。

明山
初期の企画書の段階で温泉を掘るという話がありました。小林さんがお話になっていたように「ウェルネス」から心身ともに健康であるという「ウェルビーイング」に展開していく上で、インフィニティ・プールのアイディアが具現化されていきました。

「ウェルネス」だと、個人が気持ち良ければいいという話。温泉であれば一人で入れば済んでしまう体験です。それを「ウェルビーイング」という軸で考えた時には、水着着用のスタイルで、「みんなで入るって楽しいね」という行為と感情に結びつけました。そのことによって、温泉の要素も取り込み、かつみんなで過ごせるインフィニティ・プールの意味づけが明確になりました。つまり、身体の健康だけではなく、気持ちが満たされていく感覚をデザインしたことになります。

前述の通り、もともとクライアントの中では「空と大地がつながる」という言葉がありました。それを小西さんと小林さんのアイデアで「空をつなぐなら水を上に持って行こう」という話に展開させていきました。最上階に開放的なインフィニティ・プールがあれば、水面に空が映る。そして、目の前に広がる雄大な昭和記念公園と空のつながりが、圧倒的に気持ちいいし写真映えするスポットになります。

客室が広い理由もウェルビーイングというコンセプトにあります。3、4人でも泊まることができる設計になっており、客室の窓を全開しバルコニーに出て風を感じることができます。家族で行っても、グループで行っても一緒に温泉に入って楽しめる。「人と人がつながるからいいよね」という話から、「空と大地と人がつながる」という言葉にどんどん昇華されていき、企画もそれをコアにして進んでいきました。

そういうことを短期間で一気に骨格を組み上げた。それらのディスカッションはとても有意義で、何より楽しいものでした。

内島
今回のプロジェクトは関係者が多く、いろんなプロフェッショナルがチームに入っているのですが、それぞれの方から「POOL incでつくったコンセプトがすぐに飲み込めてアウトプットに表現しやすかった」という感想をいただきました。それは非常にありがたいことです。

明山
コンセプトが明快なプロジェクトはとても動かしやすいんですよね。
今回、ホテルにおいて特筆すべき点は、グローバルで活躍するインテリアデザイナーのグエナエル・ニコラさんが入ったことです。多忙な方なのでダメ元でデザインをお願いしに行ったのですが、第一声に「コンセプトがいいね」と言ってくれてチームに加わってくれることになりました。デザインのアウトプットも一発目からすごくいいものが出てきました。それは僕が今まで受けた空間におけるデザインプレゼンの中で最高のものでした。良質なコンセプトはアウトプットの質までも変えてしまうと感じています。

コンセプトがしっかりして機能していたら、やりたいことが明確になり、それが良い旗となる。結果的に関わる人がさらなる力を発揮することで相乗効果を生む。だからPOOLのみなさんと一緒に仕事をしていると、すごく楽しいんですよね。

ビジョンを共有することでチームがひとつになる

小西
広告はよくペルソナをつくってそこに、その商品やその場所との関り合いを書いていくということを手法とします。とてもていねいに、「この街で暮らす人たち、この街を想う人たちはどのような行動をするのか」ということを提案としてつくります。

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小林
例えば女の子、親子、カップル、夫婦など、設定したペルソナのストーリーをパワーポイントで3、4枚つくっています。設定はかなり細かく、ホテルに泊まった時からチェックアウトする時まで。小説的なものをつくっていくということは、POOLとしてもオリジナリティのあるものの一つだと思っています。

小西
もちろん都市開発でこのような手法を使っているところはあります。ただ、僕たちはそこに関して徹底的に精度を上げています。そこから「こういうサービスがあった方がいいのでは?」「こういう施設があった方がいいよね」「こういう動線はどうだろう?」と展開させていきます。

丹野
一般的に、「コンセプト」というのはユーザー向けだと考えがちなのですが、僕たちの場合そのベクトルがユーザーと同時にインナーにも向いていて。コンセプトが潤滑油となり、内部チームの活動がスムーズに進む。加えて、アウトプットとした時に、全体として統一感が出る。コンセプトによって結束できていますね。

明山
コンセプトが目的となり判断軸となる。それが、僕の最も共感していることです。世の中、「コンセプト」という言葉が乱立していて、奇をてらった言葉に過ぎないものもあります。その中で、軸がしっかりとしていて、精密に機能するコンセプトをつくることができるのがPOOLの強みだと感じています。

そこに加え、クライアントへの傾聴力は目を見張るものがあります。事前に資料に目を通したりすることも含めて、相手の話に耳を傾ける。僕もその点を大事に考えるタイプなので共感するのですが、クライアントの納得度が高い。それが結果的に、質の高いコンセプトにつながっているのではないでしょうか。

小西
GREEN SPRINGSを振り返ると、最初にいろいろお話をお聴きした。全員と接触したわけではありませんが、一度、この街へ東京の都心から人が動いて、世界から人が来るためにどうするかという、かなり理想論的なビジョンを掲げて、それに乗ってもらったというタイプのプロジェクトでした。リアリティがどこまであるかというよりは、どちらかというと「未来としてはこっちの方が楽しいよね」という理想を共有したという仕事の在り方でしたね。

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次回は、コンセプトから生まれたコンテンツや考えの伝え方についてお話します。ビジョンの描き方、コンセプトの立て方に続き、重要なコミュニケーションデザインです。

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Vol.3へ続く

文:嶋津亮太


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