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台本の読み解き方、演技プランを作るための9項目

前回の記事で、僕の演劇思考術の前提と、俳優が芝居を通じて伝えなければならないことは“その時、その役にどんな考えが湧き起こっているか”であり、それを体現するための準備とは“脚本の意図を読み取り、自分で役作り、構成、選択をする”という作業である。という事を書きました。この記事では、その準備作業の具体的な内容について記述していきます。


1、演技プランを作るための9項目

俳優が、台本を貰って現場に行くまでにやらなければならない準備作業は“脚本の意図を読み取り、自分で役作り、構成、選択をする”であると定義しましたが、その具体的な作業内容について記述していきます。台本を読み解き、演技プランを作るために必要な情報は何か? 台本から何を読み取ればいいのか? その作業内容は…

①    ストーリーラインを把握する
②    シーンの変化を見つける
③    役の欲求を理解する
④    役の状況と状態を理解する
⑤    役の関係性を理解する
⑥    役の時間を理解する
⑦    役の思考、感情を理解する
⑧    役の役割を理解する
⑨    キャラクターの構築

以上の9項目を読み解くことで、自分が何を、どう演じるべきなのかが見えてきます。

2、各項目の解説

演技プランを作るための9項目を一つずつ解説していきます。

①    ストーリーラインを把握する


まずやるべきことは、台本に書かれているシーンが「誰が、どこで、何をして、どうなる」シーンなのかを把握することです。登場人物が複数人いるシーンでは、その中の誰に一番大きな変化が起きるかで、このシーンにおいて誰がメインなのか、誰にフォーカスが当たるシーンなのかを見極めます。そしてその人物の主観で「何をして(メインの人物の行動)」と「どうなる(メインの人物が客観的にどうなったのか、もしくは主観的にどうなったと感じたか)」を把握する(登場人物全員に等しく同じ変化が起きるシーンは非常に稀)「どこで」の部分は、台本の柱書きを見ればわかります。

②    シーンの変化を見つける


物語というのは常に前に進み続けているものですから、脚本に描かれているシーンには必ず変化があります。シーンの始まりとシーンの終わりでは、何が変わったか? 客観的に見てわかるような状況や状態の変化なのか? 役の内面の変化(登場人物の関係性が変わる。新たな発見、もしくは何かを失うなど)なのか? ①のストーリーラインを見る作業と連動して、具体的にどんな変化が起きているのかを把握する必要があります。

③    役の欲求を理解する


シーンに登場する人物がこのシーンでやりたい事は何か? どうしてそれをやりたいと思っているのか? それに対して、どんな行動をしているのか? 欲求という言葉は「希望、願望、意欲、目的」といった言葉に置き換えて考えることもできます。

④    役の状況と状態を理解する


シーンに描かれている役を取り巻く環境を理解する。状況というのは、場所や時間など、人物の外側、目で見て分かる部分。状態というのは、心情や体調など、人物の内面、見た目で分からない部分。役がどこに、どのようにいるのか? という事を理解する。

⑤    役の関係性を理解する


シーンに登場する人物がどのような関係性なのかを理解する。この関係性を理解するためには、関係性というものを二つに分けて考える必要があります。主観的な関係性と客観的な関係性です。
客観的な関係性とは、【先輩と後輩】【先生と生徒】【刑事と犯人】など、登場人物の立場を客観的に言語化できるもの。関係性の説明に感情や思考が伴わないものを指します。
主観的な関係性とは、登場人物が相手の事を個人的にどう思っているのか、登場人物の思考と感情が伴うものを指します。相手のことが好きなのか、嫌いなのか、怖いのか、臭いと思っているのか、そしてその思考と感情を相手に対して見せているのか(相手に分かるように振る舞っているのか)いないのか。二つの関係性が明確になれば、相手役との距離感が掴めます。

⑥    役の時間を理解する


そのシーンにおける登場人物がどんな時間を過ごしてきたか。その概念は大きく四つに分けることができます。
1、長い時間。登場人物が生まれてから、シーンに至るまでの時間。
2、中くらいの時間。登場人物の関係性が生まれてから、シーンに至るまでの時間。
3、短い時間。シーンが生まれるきっかけになった所から、シーンに至るまでの時間
4、未来の時間。そのシーンで登場人物がどんな未来を頭で描いているか、どうなる事を期待し、予想しているか。
 

⑦    役の思考と感情を理解する


上記の①〜⑥までの情報をもとに、シーンで登場人物の思考と感情がどのように湧き起こり、それがどう変化していくのかを捉える。登場人物の思考と感情は必ずセットになって存在します。思考だけ、感情だけが湧き起こることはありません(いや、ないとは言い切れないけど、そのような状況を見たことも聞いたこともありません)思考と感情、そのどちらかが先に湧き起こっても、思考には必ず感情が伴うし、感情には必ず思考が伴います。
登場人物の思考と感情を掴むには、上記の①〜⑥で得た情報が全て成立するという条件のもとで、台本に書かれている台詞やト書きに対して、「なぜそうしたのか?」という問いかけを繰り返し行うことです。

⑧    役の役割を理解する


登場人物には必ず役割があります。登場人物がこのシーンでやらなければならない事は何か? それを体現するためにどんな行動をするのか? 言い方を変えると、あなたがこのシーンで表現しなければならない事は何か?

⑨    キャラクターの構築


上記の①〜⑧までで得た情報を元に、そのすべてが成立するには、どのような人物で、どのような行動をとる人間が望ましいか。その人物の欲求を果たしたい理由は何か、を構築していく。

3、組成構造

台本を、演技プランを作る9項目に沿って読解していく際に、①〜⑥までの作業と、残りの⑦〜⑨の作業を分けて考えることを推奨します。まずは①〜⑥までの情報を羅列する。それをひとまとめにして、組成構造を作ります。組成構造を作ることによってシーンで役がどのように描かれているか、シーンの始まりの役の状態を読み取ることが可能になります。
その組成構造に対して、⑦〜⑨までの作業を進めていきます。

4、まとめと注意点

以上の9点を軸に、
・①から⑥までの情報をもとに、役がどのように描かれているか?(組成構造)
・シーンで何を伝えたいのか、何を見せたいのか?(意図)
・そのために何をすればいいのか、どう表現すればいいのか?(役割)
・その役割を果たすためには、登場人物がどのような人物で、どのような考えをもち、行動するのが望ましいか(役作り、キャラクターの構築)
を構成していきます。この時に注意してほしい事は、この段階で、役の欲求、状況、感情、それをどう表現するか、と言う事をと決め切らない事。このパターンもあるな、あのパターンもあるな、と、あらゆる想定とその想定の数だけ芝居を準備する。これもホンを読む上で大切なスキルです。何故なら、そのシーンをどう描くのか、俳優にどのように演じてほしいのかを決めるのは、監督や演出の役割だからです。

5、芝居をする時に行う「選択」という作業

演技プランを作るための9項目に沿って、あらゆる想定とその想定の数だけ演技プランを作っておく。というのが現場で芝居をする前にやらなければいけない作業ですが、実際に芝居をする時には、想定したパターンの中から、これが一番理想だと思うパターンを選択して演じること。
いろんなパターンを持っている感じを芝居に出さないこと。それは俳優の思考であり、役の思考ではないからです。監督や演出に違うパターンを求められた時に、それもありますよと、違う選択肢を示せるように準備をしておくこと。
僕個人の感覚で言うと、役作りは粘土を捏ねるようなイメージです。脚本から得られる情報は粘土。まずはとにかくたくさんの情報を捏ねて、どんな形にもできるように、粘土が固まらないようにずっと捏ねとく。で、本番の際に無駄なものは削ぎ落として、現場で求められる形にして表現する、みたいなイメージで準備をします。

以上、俳優が役作りをするために、台本をどのように読み解けばいいのか、という作業内容を「演技プランを作るための9項目」として記述しました。演技プランを作るための9項目を活用すれば、台本を読むという準備作業の質を上げることは可能ですが、本を読み解けるようになれば“ホンが読める役者”になれるわけではありません。“ホンが読める役者”になるためには、台本の読解力だけでなく、演技プランを体現させるための表現力が必要です。読解力と表現力、その二つを併せ持って初めて“ホンが読める役者”になります。
文章の力で、表現力の向上がどこまで可能かは未知数ですが、次回からは、この表現力の底上げをするために必要な思考術についてと、演技プランを作るための9項目のさらに細かい補足などを書いていきます。


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