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在宅ワークの歴史からひもとく、昔と今のテレワーク事情とは?

コロナ禍においてニュースやSNSでもよくテーマにあがっていたので、「テレワーク」「在宅ワーク」という言葉をご存じの方は多いのではないでしょうか?今まで取り入れていなかった企業がテレワークを試験的に導入した、というケースもあったようです。「テレワーク」を発祥から紐とくと、社会情勢と切っても切れない関係があることが分かります。その歴史をなぞりながら、昨今のテレワーク事情について学んでいきましょう。

テレワークとは

「テレワーク(Telework)」は「ICT(情報通信技術)を活用した場所や時間にとらわれない柔軟な働き方」と定義されています。

「テレ(tele)」は「遠く」あるいは「離れて」、「ワーク(work)」は「働く」という意味で、テレワークは「遠く離れて働く」ことを指します。

具体的にはサテライトオフィスやオフィス以外の場所(自宅など)で「従来の固定された職場環境から離れて働くこと」です。 

テレワークを実施している人は「テレワーカー」や「在宅ワーカー」と呼ばれ、テレワークの代表的な働き方には在宅勤務やモバイル勤務などがあります。

近年はタブレット端末やスマートフォンのような高機能モバイル端末が増え、高速インターネット回線の普及もテレワークの強い味方となり、働く環境やワークスタイルがこれまで以上に多様化しています。

次の項では、テレワークの誕生からその歴史を紐解いてみましょう。

テレワークの誕生

テレワークは1970年代のアメリカで生まれた概念ですが、元々は「テレコミュート」という言葉が使われていました。当時、ロサンゼルスでは自動車交通量の増加に伴う大気汚染や石油危機といった不安要素を抱えており、環境保護や社会情勢への対策として在宅勤務が推奨されるようになりました。ただ、この時代には現代のような高速ネットワーク回線が普及していなかったため、在宅での仕事環境が整っていませんでした。結果、テレコミュートは世間に浸透しなかったようです。 

1980年代、パソコンが普及し女性の社会進出が広がり始めるにつれ、改めてテレワークという働き方が注目されるようになりました。時を同じくしてアメリカ本土は2度にわたる大震災に見舞われましたが、その際にテレワークは有事におけるリスク分散としても有効な手段だということが認識されるようになりました。

インターネットの普及と相まってテレワークの導入が進み、オフィスのコスト削減や効率化を図れる企業戦略として、テレワークを取り入れる流れが加速したのもこの頃だと言われています。2001年の同時多発テロの際にも、テレワークを導入していた企業がいち早く事業を再開できたケースに注目が集まり、時代の流れがよりテレワークを後押しする形となったようです。

日本におけるテレワークの歴史

誕生のきっかけ

誕生のきっかけ

日本でテレワークが最初に導入されたのは1984年、NECが東京都武蔵野市にサテライトオフィスを設置したのが始まりだと言われています。1990年前後、日本はバブル経済の真っただ中でした。都心オフィスのコストは高騰しており、回避案として郊外部に職住近接型のサテライトオフィスを設置する試みがあったのです。

従業員が働きながら育児や介護にとりくめる環境をテレワークによって整えることで、大手企業は売り手市場の中でも人材を確保できるようにしました。三菱マテリアル株式会社やNTTなどもその流れに加わったようです。

時代の影響

しかし、バブル崩壊とともに日本でのテレワークブームは終わりを迎えます。1990年代後半~2000年前後に再び回復の兆しがみられるまで、サテライトオフィスは次々と閉鎖されました。

2000年以降は、厚生労働省をはじめとした省庁よりテレワークの導入や運用に関する提案がなされます。従来のようなサテライトオフィスの実験的設置やガイドブック刊行、障害者や高齢者向けのテレワークセンターの設置などその取り組みは幅広く実施されました。また、テレワーク支援のための融資を実施するなどの後押しもあったことで、徐々に全国規模で普及するようになります。

しかし、リーマンショックによってこの取り組みは再び衰退してしまったのです。

テレワークの現在

「少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少」「育児や介護との両立」など、働く方の「ニーズの多様化」への対策として、2010年後半から厚生労働省が「働き方改革」を推進するようになりました。これを皮切りに、テレワーク・副業・兼業のような柔軟な働き方ができる環境整備が企業単位でも広がっていきます。

テレワークといった働き方は、生産労働者となったミレニアル世代の「従来の枠にとらわれず、自分らしく働ける環境」へのニーズとも合致しました。また、2020年以降のコロナ禍への対策としても見直され急速に導入が進んでいるようです。オンラインセミナーや会議などに利用できるツールも充実したことで、今まで以上にテレワーク環境が整っていると言われています。

テレワークの仕組みとは


就業形態の分類

テレワーカーの就業形態は大きく2つに分かれます。

雇用型テレワーカー

事業者と雇用契約を結んだ労働者で、自宅などで勤務する者のことです。ICT を活用して場所や時間にとらわれない柔軟な働き方をしています。

自営型テレワーカー

「非雇用型テレワーカー」ともいい、働き方は雇用型テレワーカーとほぼ変わりありませんが、個人事業主やフリーランスの方を指しています。SOHO ワーカーや MB ワーカーと呼ばれることもあります。自営型テレワーカーの中でも主に自宅で副業的に仕事をする方を「内職副業型テレワーカー」と分類するケースもあります。

意識調査の結果

テレワーク導入に関して、労働者と企業の意見は一致しているのでしょうか?その現状をアンケートから探ってみました。

労働者側の意見

日本労働組合総連合会の調査によると、2020年の4月以降にテレワークを行ったテレワーカーの7割程度が「テレワークは勤務日の5割以上」と回答しています。また、「テレワークの継続を希望」するテレワーカーは8割に達していることがわかりました。

継続を希望する理由は様々ですが、少なくともテレワークを経験した方の多くはこの働き方にメリットを感じていることがわかります。

管理職側の意見

一方、テレワークを経験したことのある管理職とそうではない管理職の間では、テレワークに関する認識がやや異なることがわかりました。

テレワークの経験がある管理者の約7割が、コミュニケーションツールを活用することでマネジメントを実践できていると感じていたようです。テレワークの経験がない管理職は、メール以外の連絡手段を活用することができずマネジメントに戸惑った経験があったことを、導入に前向きになれない理由として挙げているようです。

テレワークの普及による効果

社会情勢とともに形を変えて普及しつつあるテレワークですが、現在では大きく分けて3つの良い効果をもたらしているという意見があります。

(1)  社会的側面
「働き方改革」に乗っ取った勤務形態、労働人口の確保、生産性の向上、地方創生

(2)  企業側の利点
有事の業務継続、人材の確保、コスト削減と生産性の向上

(3)  労働者の利点
多様な働き方の実現、仕事と家庭の両立、通勤の負担の削減

テレワークの普及による特徴的な変化をさらに2点ほど紹介します。

地方進出する企業

Jcast会社ウォッチが2022年に発表した記事によると、2021年に本社を移転した企業は全国で2258社にのぼります。首都圏(東京都・神奈川県・千葉県・埼玉県)から地方へ本社または本社機能を移転した企業は、前年から2割超の増加となりました。

一方で、地方から首都圏へ本社を移転した企業は328社で、2021年における首都圏の本社移転動向は11年ぶりに「転出超過」となりました。

首都圏にオフィスを設置することが以前は一種のステータスとされていたようですが、近年の社会情勢を考慮して多様なスキルを持つ労働者を確保するためには、「首都圏であること」「本社勤務であること」といった枠組みを柔軟に変える必要があったと考えられています。

ワークライフスタイルの変化

働く場所の選択肢が増えることで居住の選択肢も広がるようになりました。都心にこだわる必要はなく、中には郊外でも広い住宅を探す方やテレワーク環境が整っている物件を選んだりする方もいるようです。また、通勤時間が減ることで自由に使える時間が増え、家庭のことや趣味に使う時間を確保することができるといった利点もあります。

場所や時間の自由度が広がると副業や兼業を検討することもできます。「働き方改革」以前は情報の社外流失などネガティブにとらえられることが多かったのですが、「働き方改革」以降は企業の就業規則にも変化が見られ、本来の業務に支障がない範囲でも働けるようになりました。

テレワーク導入が難しい場合も

テレワークの利点や効果などをお話してきましたが、中には「テレワークの導入は難しい」という企業もあるようです。特に公務員・医療介護職・接客業・生産製造業では業務そのものをデータ化することが難しく、多くの段階で人の手を必要としていることなどが理由に挙げられます。

しかし、全面的なテレワーク導入が難しかったとしても、経理や事務などデスクワーク中心の業務であれば部分的な導入は可能だと考えられています。勤怠管理・スケジュール管理・チャットワーク機能といった内容は、業界に関わらずICTツールを活用することができるのではないか、といった意見もあるようです。

まとめ

テレワークという概念はもともとアメリカ発祥ですが、背景には不安定な社会情勢や環境汚染があり、それらの問題への対策から始まったワークスタイルです。

実際に普及したのは1980年代にインターネットが発展してからですが、その後を追うように1990年代前後からは日本でもそのシステムが取り入れられるようになりました。

現代ではテレワークに対する社会や政府の捉え方に広がりが見られるようになり、ワークライフバランスを大事にしたいと思う方や、副業や兼業をしている方の後押しにもなっているようです。オンラインセミナーやオンライン会議も活発になったことで、インターネット環境が整っていれば働く場所を選ばずに仕事ができるようにもなりつつあります。大手企業の中には首都圏のオフィスを手放し、地方創生のために移転するケースもあります。

時代の変化とともにテレワークの意義や目的も変わりつつあります。経験のない業界では導入しづらいといった意見もあるようですが、部分的であればICTツールの導入などによって工夫することも可能だと考えられているようです。企業だけではなく個人の働き方の選択肢として、また、より生産性を高め効率的に作業できるという意味でも、テレワークは受け入れられているようですね。

今後はさまざまな便利なツールが現れ、現在はテレワークが難しい職種にもテレワークが広まる、ということもあり得るかもしれません。


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