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フリーランスは国に守ってもらえない?フリーランスが使える補償制度やセーフティネットを知っておこう

普段仕事をしている時にはあまり感じないかもしれませんが、私たちは様々な制度や仕組みに守られて生活しています。しかし、企業に所属していないフリーランスの場合はどうでしょうか。いざという時の保障はあるのでしょうか。

自由に働くことができるのが魅力のフリーランスという働き方ですが、「いざという場合の社会保障が心もとない」という声も散見されます。実際はどうなのでしょう?

今回はフリーランスに役立つ厚労省のガイドラインやさまざまな保障制度を改めて確認していきます。

厚生労働省ガイドライン

厚生労働省のガイドラインには、大前提として、フリーランスであっても不公正や不利益があってはならないという考え方があります。
ただし、実際に労働関係法令が適応されるかどうかは判断基準(働き方)によって異なります。

フリーランスと取引先事業者との関係性

どのような条件でフリーランスと取引先事業者が取引を行うかは、当事者間の判断に委ねられています。

フリーランスと事業者間では取引上優位な立場にあるのはどうしても事業者となるため、事業者の情報量や交渉力がフリーランス側より上回ることがほとんどです。結果として取引がフリーランスにとって不利な状況になりやすいのはかねてより問題視されていました。

ただ、一方的にフリーランスが不利になるような条件であったり、事業者が他の競争者に比べて有利となったりする環境は独占禁止法により規制されています。例えば以下の場合には公正ではない取引であると見なされることが多いようです。

  • 発注事業者が組織的に複数のフリーランスに不利益を与える場合

  • 事業者のある行為を認めることで、他の事業者やフリーランスに悪影響を及ぼすと考えられる場合

労働基準法と労働組合法における「労働者」の定義

雇用契約を締結していなくても、フリーランスが法律上の「労働者」と判断される働き方があります。労働者と見なされると、労働基準法や労働安全衛生法などのルールが適用されることになります。

少し固い表現も多いですが、法律における「労働者」の定義をこの機会にしっかりおさえておきましょう。

労働基準法第9条の「労働者」

労働基準法第9条において「労働者」は「事業または事務所に使用される者で賃金を支払われる者」と定義されています。

「使用される者」とは「他人(事業者)のもとで業務をしている」者のことであり、「賃金を支払われる者」とは「報酬が指揮監督下における労働の対価として支払われている」者のことです。雇用形態は特に指定されていません。

「労働者」に該当すると判断された場合には、労働基準法、労働安全衛生法、労働契約法などのルールが適用されます。

労働組合法における「労働者」

労働組合法における「労働者」の定義は「職業の種類を問わず、賃金、給料その他これに準ずる収入によって生活する者」であり、労働基準法第9条よりも広い意味合いとなっています。

冒頭でも少しお伝えしましたが、労働者と事業者では個別の交渉力や立場に差があり、契約が自由であることを理由に労働者側が不当な状況になりやすいため、労使が対等な関係で労働条件を決定できるよう促すのが労働組合法の役割だからです。

労働基準法と労働組合法の違い

労働基準法は「事業者」に対して「労働者」に対する一定の基準を「強制」しますが、労働組合法では「事業者との交渉を確保する」にとどまります。

整えられつつあるフリーランス向け制度

フリーランスは労働環境や条件によって不利な立場や不利益を被ってしまうことがあります。しかし、政府も全く対策をしていないわけではなく、近年次々にフリーランス向けの制度を打ち出しています。その内容を確認してみましょう。

労災保険

労災保険とは、労働者が仕事中または通勤中に起こった事故や災害に対して補償がもらえる制度のことです。フリーランスで前述した「労働者」に該当しない場合でも、要件を満たすと任意加入することができます。これを「特別加入制度」と言います。

自転車を使った貨物運送業が特別加入の対象に

労災保険に加入すると、仕事中のケガ・病気や傷害・死亡事故で補償を受けられます。これまでは自動車及び原動機付自転車を使用した貨物運送事業者を対象としていましたが、令和3年9月1日からは、自転車を使用して貨物運送事業を行う方も特別加入の対象になりました。

ITフリーランスも補償を受けることができる

自転車を使った貨物運送業の場合と同じように、仕事中のケガ・病気や障害・死亡事故で補償を受けられます。原則として以下の業務や作業を行う方が対象です。

  • 情報処理システムの設計、開発、管理、監査、管理

  • 情報処理システムに関する業務の一体的な企画

  • ソフトウェアやウェブページの設計、開発、管理、監査、セキュリティ管理、デザイン

  • ソフトウェアやウェブページに関する業務の一体的な企画その他の情報処理

労災保険特別加入の保障内容

具体的な保障内容は以下のとおりです。

  • ケガ等の治療費などの療養費

  • ケガ等で休む際の休業期間の給付

  • 治療後に障害が残った場合の給付

  • お亡くなりになった場合の遺族への給付

フリーランスをサポートしてくれる補助金や貸付制度

コロナ禍において収入が減ったフリーランスの方々も多いでしょう。知っておくと助かる、フリーランスの方も使うことができる補助金や支援金、貸付制度などをおさえておきましょう。

フリーランスも対象ではあるものの、中には申請条件が難しかったり、特殊な条件や期間・期限が決められているものもあります。ここで解説した補助金などは、ずっとあるとは限りませんし、条件なども変更となる可能性があります。利用を考える際には、省庁のサイトなどで常に最新情報を確認するようにしてください。

小規模事業者持続化補助金

小規模事業者持続化補助を利用すると最大50万円の補助が受けられます。注意点としては地域の商工会議所もしくは商工会の助言を受けて経営計画を策定する必要があることです。また、フリーランスでも「商工業者」でないと申請ができません。

ものづくり補助金

ものづくり補助金は簡単にいうと「今後の社会変動に適応するための投資を補助しますよ」という制度です。一般型だと最大1000万円という多額の補助を受けられますが、「最低50万円以上の設備投資」「設備投資によって事業を成功させるための計画策定」などが求められるため、条件はかなり厳しいものとなっています。

生活福祉資金の特例貸付

生活福祉資金の特例貸付は事業継続だけでなく生活面で支障が出ている場合に役立ちます。制度には緊急時用の「緊急小口資金」と、生活再建用の「総合支援資金」がありますが、どちらも無利子かつ保証人なしで借りられるものです。
住民税非課税対象の所得になっている場合は、返済が免除になる特例もあります。「当面の生活費にも困っている」という状況に陥った時に役立つ制度なので、万が一の時のために覚えておきたい制度ですね。

コロナ禍における支援金などのサポート情報

事業復活支援金

新型コロナウイルス感染症の影響で生活や事業に影響を受けた個人事業主やフリーランス向けに、新たに「事業復活支援金」という制度が創設されました。
コロナの影響によって2021年11月〜2022年3月のいずれかの月間売上が、2018年11月~2022年3月の月間売上と比べて50%以上減少していればこの支援金の対象となり、最大50万円の給付金を受け取ることができます。
それ以外の減少率でも最大30万円までの給付金を受け取れる制度です。

都道府県/市町村による支援金

コロナ禍における緊急事態宣言などの影響で売り上げが減少した事業者に対して、都道府県や市町村といった自治体ごとの支援金が設けられています。
お住まいの都道府県や市町村のページをチェックすれば、自治体独自の支援金についての記載があるはずです。中小企業向けポータルサイト「J-Net21」においても、自治体別支援金情報を確認することができます。

国民年金の免除

コロナ禍で減収した場合は、それを理由に国民年金の減免が可能です。しかし、納める金額が減ると将来の年金受給額も減ってしまうので注意が必要です。

新型コロナウイルス感染症特別貸付

日本政策金融公庫が実施する「新型コロナウイルス感染症特別貸付」という制度があります。こちらは支援や補助金ではなく貸付であり、利用には審査が必要です。
また、借入から3年後からは利子が発生しますので返済計画をしっかり立てておかなければなりません。
利子が発生する貸付ではありますが、資金の確保ができる一つの手段として覚えておくといいでしょう。売り上げが5%以上減少しているフリーランスは、最大8000万円までを無担保で借りることができます。

セーフティネット保証、危機関連保証を利用した貸付

今回のような世界的パンデミックももちろん含まれますが、自然災害などの影響によって資金繰りが困難となった際には「セーフティネット保証」や「危機関連保証(信用保証制度)」という制度を利用すれば、一般枠とは別枠で融資を受けることができます。

これらは次に解説する「セーフティネット貸付」より借入の上限は低いですが、売上が減少していれば認定される確率は比較的高いようです。

セーフティネット貸付

「セーフティネット保証」と名前が似ていますが、「セーフティネット貸付」は日本政策金融公庫が実施する貸付制度です。

この制度は、今は基準を満たしていなくても「今後減少が見込まれる」という条件をクリアできれば借りられるというのが大きな特徴ですが、あくまでも貸付ですので、利子が発生し担保が必要になるケースもあります。

フリーランスが知っておくべき保険と年金の基礎知識

フリーランスが利用できる保険と年金には国民健康保険と国民年金があります。

国民健康保険

「国民健康保険」は自営業者や退職者、無職の方とその家族のために自治体が運営する公的医療保険です。怪我や病気になった時、出産、死亡時に必要な給付を受けられる社会保障であり、後期高齢者医療制度対象者や生活保護受給者を除く全ての日本国民に対して加入が義務付けられています。
会社員や公務員からフリーランスへ転職する予定のある方は、原則として退職日から14日以内に居住の市区町村で加入手続きを済ませる必要があります。手続きが遅れると、加入すべき日に遡って保険料の支払いが必要になります。保険証がないままだと医療費を全額自己負担しなければなりませんので、注意が必要です。
国民健康保険は世帯単位での加入が必須であり、保険料は世帯全体の年収で決定するため、お住まいの市区町村ホームページや役所窓口で確認しておきましょう。

国民年金

「国民年金」は日本に住む20歳以上60歳未満の方すべてに加入が義務付けられている社会保障制度です。老後の「老齢年金」をはじめ、障害を負ったときの「障害年金」、亡くなったときの「遺族年金」を受け取ることができますが、そのためには保険料を必ず納めなければなりません。
国民の生活状況によって加入できる制度や保険料は異なります。会社員や公務員の方は第2号被保険者に該当し、「厚生年金」にも加入して「厚生年金+国民年金」を給料から天引きという形で会社と折半で納付しています。
フリーランスの場合は第1号被保険者に該当します。厚生年金の加入資格はないため、会社員からフリーランスとなる場合は国民年金に切り替えて全額自己負担する必要があります。会社を退職したら国民健康保険と同様に国民年金の加入手続きを行ってください。
国民の年金の納付がどうしても難しい場合、申請すれば免除・猶予制度を受けることはできますが、将来の老齢年金が少なくなる可能性があるので注意が必要です。

フリーランスが加入できない保険とは?

フリーランスが加入することができない保険に「雇用保険」「労災保険」がありますが、「労災保険」については先述したように特別加入が認められる場合もあります。

雇用保険

雇用保険は法人や個人事業主に雇われて働く人へ向けた制度なので、事業主であるフリーランスは加入できません。仕事を失ったり子育てや介護で休業したりしても、雇用保険による手当を受け取ることはできないのです。

労災保険

仕事中や通勤途中に発生した出来事が原因で怪我、病気、障害、死亡事故などに対して保険が給付される社会保障制度です。雇用保険と同じく労働者が対象となる保険なので、基本的にフリーランスは適用されません。
しかし例外として特別加入が認められる事業内容の方もいます。すでに解説した自転車貨物運送業やITフリーランスを含め、対象となるのは以下の方々です。

  • 建設の事業(大工、左官、とび職人など)

  • 漁船による水産動植物の採捕の事業(7に該当する事業を除く)

  • 林業の事業

  • 医薬品の配置販売事業

  • 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業

  • 船員法第1条に規定する船員が行う事業

フリーランスが万が一に備えるためには

会社員と比べると厚生年金に加入できないため将来の備えにおいてはマイナス面が取り沙汰されることの多いフリーランスですが、節税対策にもなる便利な制度も。

国民年金基金

「国民年金基金」とは、一定の掛金を負担すれば国民年金に上乗せして受け取れる年金です。将来の年金額が確定する、掛金は払込期間終了まで一定額、掛金は全額社会保険料控除の対象になるといったメリットがあります。
国民年金基金の掛金額は加入時の年齢や性別、プランにより異なります。加入できる対象の方は以下の通りです。

  • 国民年金に加入する20歳以上60歳未満の第1号被保険者の方

  • 60歳以上65歳未満の方や海外居住者で国民年金に任意加入している方

「国民年金基金」は少額からでも始められますが、一旦加入すると基本的に脱退できないことを覚えておきましょう。

個人型確定拠出年金iDeCo(イデコ)

近年話題になった「iDeco(イデコ)」は個人型確定拠出年金であり、金融商品を運用して60歳以降に受け取れるタイプの年金制度です。

毎月の積立金や運用する商品は自分で選択できます。着実に安定した商品かハイリスクハイリターンの商品かを考えながら決められるのも魅力です。フリーランスの場合は月額5,000円からで、国民年金基金とあわせてであれば6万8,000円まで積み立てが可能です。

金融商品を購入すると利益に対して高い税率がかかります。しかし、iDeCo(イデコ)の場合は運用期間中の利益には課税されません。控除対象となる点も嬉しいですね。

その時の収入に合わせて活用することができる柔軟性が大きなメリットですが、iDeCo(イデコ)は受け取るまで実際の給付額はわかりません。また、あくまでも金融商品ですのでリスクもあるのがデメリットです。

小規模企業共済

「小規模企業共済」は自営業者のために用意された退職金積立制度です。
掛金を積み立てることで、もし事業を辞めたときに、まとまったお金を一括または分割で受け取ることができるので、将来に備えることができます。

他にも「銀行に預けるより高金利」「掛金額は1000円から70,000万円で自由に設定できる」「掛金は控除される」といったメリットがあります。

もし、トラブルが起きてしまったら?

企業に勤めている場合は社内に相談窓口が設けられていることも多いですが、フリーランスの場合、トラブルが起きてしまったらどこに相談すれば良いのでしょうか。
雇用関係によらない多様な働き方をする方に向けた相談事業サービスとして「フリーランス・トラブル110」があります。こちらでは、相談から解決まで弁護士がワンストップで対応してくれます。相談は無料で匿名でも受け付けているので、トラブルが起こった際にはまず連絡してみると良いかもしれません。

まとめ

「備えあれば憂いなし」というように、フリーランスの方もいざという時の保障や制度をしっかり学び、必要な恩恵を受けられるように準備しておく必要があります。

保証や制度などの情報収集は怠らず、条件もきちんと確認しておきましょう。何かあった時に損害を最低限に抑える準備が必要です。
「働き方改革」以降、フリーランスに対して様々な制度や保障が増えています。メディアなどでもフリーランスへのセーフティネットの必要性が取り上げられることもしばしば。

今回解説した労災保険への特例加入や、フリーランスの方にも使いやすい給付金など、多くの制度が更新されています。知っておくと便利な制度が各省庁・都道府県・市区町村の公式サイトに記載されていますので、定期的に確認しておくと良いでしょう。

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