遠くから聞こえる、異国のイラッシャイ末世。
夜22時、
仕事終わりに
「これからどこかご飯でも行くか?」
と盛り上がり、
数人で向かった先は、異国の食堂。
タイ料理屋さんだった。
月がまんまると光る夜、
駐車場の前には
車から降りてきた人と人。
タイ語が飛び交い、
何も聞き取れない中、
なんか楽しそうな雰囲気が伝わってきた。
数人で
なんのアポも取らずにやってきた日本人を
温かく迎えてくれるタイの人。
微笑みの国というくらいだ。
笑顔が眩しい。優しい。
「イラッシャイマッセェ~イ!」
なんか嬉しい。ツとかャとか
日本のいらっしゃいませより、
カーニバル感がある。
いらっしゃませの発音がすごく好き。
渡されたメニュー表を見ながら、
見慣れないタイ料理を目にして
わけもわからず、
とりあえず無難そうなメニューを選ぶ。
「ま、トムヤムクンかな~」
「カライヨ!!」
と隣でメニュー表を見ながら
1つずつ説明をしてくれる店員さん。
「じゃあ、このガパオライス~」
「ウン、ワカッタ!」
あまり目にしないタイ料理を
1つずつ吟味しながら選んでいく。
その間もずっと隣に寄り添ってくれる店員さん。大きな唐辛子をザルに乗せて、
「コレ、ハイッテルヨ!カライヨ!ダイジョブ?!」と笑いをとることも忘れないそのサービス精神に嬉しさと涙が込み上げてくる。
運ばれてきた料理も美味しく、
「コレ、サービスネ!」と
パイナップルやスイカを剥いてくれたり、
初めて来た私たちには勿体ないくらいにおもてなしをしてくれた。
夜が深けるほど、
どこからか人が集まってきて
時間がゆっくりと過ぎていった。
「いい時間だったな」と
その日を思い出しては余韻に浸る。
お腹が空くと。
あのタイのお母さんの顔が見たくなると。
月の明かりに導かれて、
また遊びに行ってしまう。
「イラッシャイマッセ~イッ!」
あの時と同じいらっしゃいませが聞こえて、
足を踏み入れると
あの時のお母さんが、
「マタキタネ!」と笑顔で出迎えてくれる。
あの日と変わらずに美味しい料理。
いや、あの日よりも美味しいかもしれない。
何を隠そう。
もう私の舌はタイ料理に染まってしまった。
脳内まで恋をしてしまったのだ。
あのカライ味が欲しくてたまらない。
「アナタ、バンドシテル?」
美味しい料理に舌鼓んでいた時、
お母さんに声をかけられた。
「え?」
と私のスプーンが止まる。
「アナタ、SHISHAMOノヒト二ニテル!」
あのガールズロックバンド
SHISHAMOのメンバーだと勘違いしてくれたお母さんに嬉しくなってしまい、
「そうそう!そやねん!今年紅白でるねん~」
と得意げに言った瞬間。
表情が一変、
お母さんは無言になった。
さっきまで通じていたはずの
日本語が急に通じなくなった。
「ア~」
とお母さんが見えるはずのない空を
見上げていた。
微笑みの国、タイ。
は嘘だったのだろうか?
私は人間不信になった。
越えられない夜はない。
止まない雨もない。
スベラナイ話もないはずだった。
それからも、あの「いらっしゃいませ」が聞きたくて、私は何度もあのタイ料理屋さんに通った。
コロナ禍で経営が厳しくなる中も、
なんとか光を絶やさずに
営業を続けてくれたらしい。
10周年記念のTシャツができたから!と
店名が入ったド派手なピンクのTシャツを、「センデンシテネ!!アゲルヨ!」と渡してくれた。
「え~いいよ~」と言いながらも
密かに気に入っている。
夏には私のパジャマになる。
今日も遠くから異国の
「イラッシャイマッセ~イ」が聞こえる。
今日は、
お気に入りのガパオライスじゃなくて、
パッタイ、頼んでみよっかな。
辛いやつ。
もっと精進して参ります!!🧡 応援よろしくお願いします📖 (本代にします🙇♂️♥️)