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それって意味あるの?と言っている場合ではない

本屋大賞受賞で話題の「成瀬は天下を取りに行く」を読んだので感想を書きたい。ちなみに近所の本屋では売上ナンバーワンとして平積みをされていた。

あらすじ
滋賀県に住む女子高生、成瀬がコロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、ローカルテレビ中継に映る、というお話し

あらすじだけ聞いても、???という感じになると思う。特に目立った事件や心理的葛藤などはなく、滋賀県に住む平凡な(実は平凡ではないが)女子高生2人のお話しである。

「それになんの意味があるの?時間の無駄。くだらない。」
というようなことをよく親から言われていた。私は、絵を描いたり、小説を読んだり、映画を観たり、なにかちまちま作ったりするのが好きだった。しかし、親の言い分では、そのような「生産性」のない行動は無駄であり、意味がなく、将来につながる役に立つ行動(具体的には勉強)にもっと時間をそそくべきであると言うことであった。

また、私は大学時代映画サークルに入り、映画を撮っていたが、その時も「映画を撮る意味ある?」みたいなことを友達から言われたことがある。言い換えると、「どしろうとが映画を撮ったところで、有名になれるほどすごいものが作れるわけないのに、それってやる意味あるの?」ということだろう。

「成瀬は天下を取りに行く」にかかれた価値観はそれとは真逆である。
成瀬が夢中になるのは、巨大シャボン玉作り、滋賀のローカルテレビの映像に毎日野球のユニフォームを着て写り込むこと、M-1グランプリの予選に出場する(予選敗退)等どれもこれも、「はて、なにやってるの?」と言いたくなるような、意味のない(社会的賞賛から離れた)ことだ。
しかし、読者からすると自分もその世界に混ぜてほしいと思うほど、とても魅力的でうらやましく感じられる。
その世界には、他人との比較がない。
自分が心から夢中になれることと、友情がある。
他者から見て一見意味のないことに夢中になり没頭すること、そしてそれを一緒にやってくれる仲間がいること、それこそが人生の豊かさだなと思った。

人生に意味を求めすぎると人は病んでいく。
もちろん仕事上での効率や意味を考えることは大事だが人生全体にそれを適応すると、自分の情熱がなくなり、精神を病むように思う。
精神を病んでしまった人がよくいう(私もこの状態になってしまった)、
「役に立たない(社会的賞賛が得られない)と自分には存在価値がない」に近いものを感じる。

また、なにかに夢中になっている人を笑い、自分は必死で努力はしないものの批評する側に回って溜飲を下げている人は結構多い。(偏見だが、高偏差値の人に結構いる気がする)そういう人ほど「自分は何者かになってやる」という野心を密かに持っていたりして、それが叶わないと精神を病んだりする。

「それって意味あるの?」と言っている場合ではない。自らはまって没頭し、一緒に楽しむ中で仲間ができて人生がどんどん楽しくなっていく。「何者かになった」と周りから思われている人もスタート地点はこれじゃないだろうか。

大袈裟かもしれないが、「成瀬が天下を取りに行く」には人が幸せになるにはどうすればいいか、ということを教えてもらった。

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