【創作】 海サークル

「誰がピンク色のルージュを塗らなきゃいけないだなんてルールを決めたんだ!」

僕は慣れた手つきで小さな入れ物から鮮やかなリップを小指に取り出し、少し指紋の付いた鏡を見ながらそれを唇に塗った

行ってきますと一人暮らしの部屋に挨拶だけして出ていく。大きな黒いリュックは自分が大学生だと証明する許可証みたいで、リュックに顔があったら照れていたに違いないと思う自分の顔も鉄火巻柄のマスクで熱い。

天然パーマの僕の髪は、自転車に乗る度に楽しそうに踊るもんだから。運動音痴で諦めたブレイクダンスをまた始めてみたくなるじゃないか。

眠たいだけの授業終わり。教授のホクロの数を数えてたら夜空ノムコウが頭の中で流れ出した月曜日。

向かう足先のビーチサンダルには水くらげが付っついていて、
海サークルだなんて入らなければ良かったと思った。

毎日海を眺めて、たまにはパシャパシャ入って
そしてちょっと昼寝をする。
最初は最高だなんて思えていたけど、
これが毎日だなんて聞いていないよ
そりゃあ夕焼けは綺麗だけどさ、
いいかげんお腹が空いたよ

顔がイカつい先輩は、究極の人見知りみたいで話しかけても砂浜をいじいじするだけだし、とびきり美人の先輩もいるけど(この人目当てで入ったと言っても過言ではありませんすいません) バイクにしか興味がないみたいで、海と籍を入れてその保証人をヒトデにするんだとか訳の分からないことを言っている。

たまに来る5歳くらいの女の子と海の浅瀬まで入って、
その子の白いノースリーブのワンピースの裾が濡れないように持っててあげるだけの数分間。

「いや、僕もね、大学に入ると彼女ができると思ってたんだ。だから、髪も染めたよ。LINEのアイコンも好きなロボアニメから適当に木の葉の写真に変えた。いや、緑色ってお洒落かなって思ってね。合コンなんてこの耳に入った事すらないし、僕の希望は夢だったんだ。夢。」

その女の子は言った。

「私もそんな綺麗なピンク色の唇になれるかなあ」

「うーんとね、いけるかもしれないね。
これは、化粧という魔法を使うんだ」

「へえー、それ、私の夢にしていい?」

「別にいいけど…
でもね、僕も本当は塗りたくないんだよ
でもね、塗らないと、僕は世間から怒られちゃうから。」

その女の子の白いワンピースはすっかり海に映る青空色に染まって、また今度ねって帰ってったけど、
それっきりその女の子と会うことは無かった。

先輩は飽きずにずっと海を眺めていて、
僕は終わりがないレポートとハイタッチするくらいの仲にはなりたいもんだけど、
でも、やっぱりカサついた自分の唇に浮くピンク色を想像すると、あー!と叫んで海になってしまいたいと思った。


空は変わらず青色だけど、
通り過ぎる人それぞれ、色とりどりの唇の色をしていて、
あーあ、なんて時代なんだよ〜なんて言ってたら
雨が降ってきた。

なんか悔しくて下唇を噛んでいたら、
血が出てきて僕の唇全体が赤色に染まった。

ぽたって地面に一滴落ちた。
これは僕の汗なのか涙なのかそれとも雨なのかは分かんない








パラレルワールドの私って、こんな感じなのかな笑
最近マスクなので、つい見えたら唇の方見てまいますよね笑





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