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応援団長は昭和生まれ          【エッセイ:カフェ物語3】

学生の多い街でカフェをやっていると
お会計の時が本当に難しい
今時の デートでの支払い事情 に悩まされる

「今時のデートは 割り勘 ですよ」
と女子学生スタッフからは聞くけれど
「そりゃ 払ってくれると カッコよく見えます」
とも言うし、、

取り敢えずお会計の時は
「お会計は別々でよろしいですか」と聞くようにしている

これなら
たとえ割り勘でも 男性は「はい」だけで済むし 

逆に「いえ まとめてお願いします」と言えば
株が上がるな と思えるからだ

難しいのは
一つのデザートプレートを二人で食べるというパターン

デザートプレートを折半で
プラス 各々のドリンク ということなんだろうけれど
一人が550円のコーヒー
もう一人は630円のハーブティーを頼んだとしたら 
ハーブティーを頼んだ人が80円多く払うことになってしまう

何も間違っていないが、多く払うのが女性の方だとしたら
≪全部の合計を半分にしてよ≫と思うかなぁ とか
男性も正当な額を払っているのに
≪この人せこいって思われていないかな≫
と不安になったろどうしよう
と余計な心配をしてしまう

あれこれ本当に難しい


応援団長は昭和生まれ


その日は ゴールデンウイークも終わった気持ちの良い日曜日だった
少しくすんだグリーンのポロシャツに薄手の上着
ヴィンテージデニムをカッコよく履きこなした長身の若者が
女性をエスコートしようと重たいガラスの扉を押し開いた

「カラーンカラーン」

「いらっしゃいませ」

「カラーン、、、、カラーン、、、」

きっとハリウッド映画のワンシーンのように
スマートに女性を店内にエスコートしたいのだろうが
このお店の扉はとにかく重たい
そのうえ押して入るタイプだから
女性が店内に入るまで扉を片手で押さえておかなければ
すぐに閉じてしまう

その若者は店内に一歩踏み込みながら両手でぐっと扉を開き
さっと足を戻して女性をエスコートしようとするのだけれど
重い扉が戻ってくるので
押しては戻り押しては戻りを繰り返した
「カラーン、、、カラーン、、、」

結局 下半身は外に出したまま上半身を店内にグッと傾けるという
なんとも気の毒な態勢で扉を押さえていた
女性も入るタイミングが分からずに入り口で困っているし
スタッフが慌てて駆け寄ると 店内の他のお客さんの注目を浴びてしまうし
どうしよう
取り敢えず手元で用事をしているふりをしながらその瞬間をやり過ごした

無事に入ってきた二人はテーブルを決めるときも座るイスを決めるときも
とにかくぎこちなかった

『きっと 学生同士やろな
 絶対 初デートやわ
 多分 男の子から誘ったんちがう
 大丈夫かなぁ がんばれー』
スタッフ同士 目で会話してしまう

きっと見ないで欲しいだろうし応援も心配もされたくないだろうけれど
残念なことにランチのお客さんが帰ってヒマな時間帯になってしまったから見えてしまう
勿論 全く視界に入りませんよと忙しいふりをするけれど
気になって気になって全神経を研ぎ澄まして感じ見ようとしていた

会話と会話の間の沈黙は こっちまでが苦しくなる
9:1の割合でテーブルを見ている二人は
わずかな確率で目が合ったとたんに
視線が宙に泳いでしまう

『あー もう がんばれー
 君、なんでそんなに自信なさげなの
 彼女は確かにとってもかわいくて魅力的だけど
 君も十分かっこいいよ
 パーツは まぁ普通だけど おしゃれだし とにかく雰囲気がイケメン
 絶対大丈夫だから もっと自信もって ドシッと構えたらいいのに』

大きなお世話のアドバイスで応援してしまう

お節介なおばちゃんは すっかりこのイケメン学生の応援団長になっていた
これは最後まで応援しなければ
"難関お会計"もスムーズにこなしてもらわねば
と気合が入る

いよいよその時が来た
デザートもそれぞれ別々に頼んでくれているし
一皿をシェアするという厄介なパターンではないから楽勝だ
と安心したのも束の間
しくじってしまった

「お会計はご一緒でよろしいですか」

と聞いてしまった


なんてことぉ
恥をかかせてしまったらどうしよう

「はい 一緒でお願いします」
すかさず返ってきた返事にホッとした

「合計で2300円になります」
笑顔でイケメン学生を見ると

彼は後ろにいた彼女に向かって
「1150円頂戴」

、、、、、


『まぁ、そうだよねぇ
 今時の若者は割り勘が普通やもんね
 いやぁ、うん
 いいと思う
 今時やねぇ』

そう心でつぶやき動揺を鎮めようとした

『本当にそれでいいと思う
 男性が払うものだなんて一昔前のことだし 昭和やし
 実際、昭和の女性も お財布を出して払うそぶりはしなきゃとか
 払ってもらってばかりじゃ申し訳ないな 次は自分が払おうとか
 どれぐらいの頻度でこちらが払うって言えばいいか困るなぁなんて
 それなりにしんどかったもの
 きっちり割り勘だと気持ちが楽やわ
 うん、いいよ
 生きやすい時代やと思う』

そう昭和生まれのお節介おばちゃんは
素直に今の時代を受け入れ 頷いた


『いや、、、
 でも、、、
 せめて1000円頂戴でいいんちがう?』


『端数ぐらいは払ってあげてよ~』
と昭和生まれのお節介おばちゃんは思ってしまうのです


    ~カフェ物語 4 につづく~





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