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ドライブ・マイ・カー

人によって好みがはっきり分かれそうな「ドライブ・マイ・カー」(2022)
(この投稿を金曜ロードショーの「グレムリン」見ながら書いてます。なんたる作品ギャップ!!)

※Filmarksより
※Filmarksより

亡くなってしまった家福の妻、“音”。わたしは、最初観ていて怖かったんです、この“謎人物”音さんが。抑揚のない声で録音されたカセットテープが、BGMみたいになにかと流れてきて怖さと謎さに拍車をかけているのですが。(あとヤツメウナギも怖い。)
でもこの感覚、家福が音のことを全く分かってなかったのと同じなのでしょうね。


映画は全体を通して、永久に静かな音楽のよう。もはや詩。その要因として、主人公、家福が演出する劇中劇『ワーニャ伯父さん』が多言語でやりとりされていたのが大いに影響していると思いました。ワーニャ役は日本語で語り、他の役者も中国語に韓国語に…ソーニャ役に至っては手話だし。だから物語の内容がダイレクトに伝わってこない。
『ワーニャ伯父さん』はこの作品の鍵になるはずなのに、それがよく分からないから、ますますこの映画を静かにさせてる。
はっきりと掴めないから、観た者がどのようにでも捉える余白があるのだと思いました。

途中から舞台が広島に移りますが、瀬戸内の静かな海が、映画の雰囲気ととても合っていました。わたし自身生まれも育ちも瀬戸内ですが、この辺の海は本当に静かなんです。

わたしは、チェーホフの『ワーニャ伯父さん』を全然知りませんでした。でも、登場人物みんなそれぞれ葛藤や苦しみを抱えていて、それでも生きていく、みたいなお話なのだろうと思っています。そしてもちろん、映画の登場人物ともこのお話はリンクしているわけです。
「生きるって、なんて辛いんだろう」
「ワーニャ伯父さん、生きていきましょう」
劇中劇の最後、この台詞が出てきます。
大まかに言えば、この映画もまさにそういうことなのでしょう。
ラストシーンからすると、希望のある終わり方です。

人はみな、重たい荷物を背負って、それでも生きていく。

不倫してても、人を殺してても、みんな知らん顔して生きている。
それと同時に
心の中で自分を責め続けていたりする。
家福は、みさきに絞り出すようにして自分の中にあった気持ちを吐き出しました。
「もう取り返しがつかない、どうしようもない。」
「残ったものは、死んだもののことを考え続ける。それがどんな形であれ。
そうやって生きていかなくちゃいけない。」

矛盾しているけど、それが人間なんだと。

当初謎でしかなかった家福の妻“音”のことも、なんだか理解できます。
みさきが音を、嘘も矛盾もない「ほんとう」と言ったのは、そういうことなのではないかな。


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