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大仏アフロヘアになった話

自身が美容師だからなのか
もともとの性格なのかはわからないが
髪型にこだわりがなく
別にどんな頭でもいい。

今回はそんな私に起こった事件の話をする。



ある休みの日の事だ。
突然パーマをかけたくなった。

なので以前から気になっていた
近所の美容室に飛び込んでみようと思った。

その美容室は全身全霊で
ローリング・ストーンズを推しており
一言で言ったら

ものすごくクセが強い。


通常であれば
初見で飛び込もうとは思わないだろう。
ただの好奇心だった。
怖いもの見たさというやつか。


店内に入ると
年配スタイリストの男性が出てきた。

ミディアムヘアを外巻きにして
(↑高見沢さん的なあれ)
色付き眼鏡
真っ赤な革のパンツ

所謂ロックの完成形である。


その段階でわくわくが止まらなかった。
彼は新規で飛び込んだ私に
嫌な顔ひとつせず聞いてくれた。

「今日、どうする?どんな感じ?」

まじか。
いきなり心の距離感詰めてきた。
でも、嫌いじゃない。


私は面倒を省く為、同業者である事を伝え
ざっくりとしたパーマイメージを話した。

「OK!じゃあそんな感じでいくね」

彼は爽やかに笑うと
おもむろにレザーを取り出した。
シザーではなくレザー。
なるほど。これは逆に新しい。
どんな感じになるか楽しみだった。


カットはとても手際よく
さすが熟練の技だなと思った。
会話は美容の話からロックの話など
多岐に渡って繰り広げられ
極めつけは目の前に置かれた雑誌。


海外ロックバンド名鑑だった。


ブレない。
微塵もブレない店である。
私は海外ロックバンドも好きなので
全く困りはしなかったが
一般的なお客様の場合はどうだろう?
このスタンスを貫くのだろうか?

突っ込みたい気持ちを抑えつつ
出来上がったスタイルを見る。

完璧だった。
とても丁寧で綺麗な仕事だった。
あぁ、やっぱり経験値はすごい。
この時点で私は全幅の信頼を置いた。


そして引き続き会話を楽しみながら
彼がパーマの準備をしていく。
使うであろうロッドを着々と用意していく。

その時ふと思った。


(ロッド細くないか…?)

パーマを巻くときに使う筒状のあれが
いやに細いものばかり並んでいる。
私の心は少しザワついた。

まぁトップやバックなどは
多少強めにかかってても困らないし
伸びるのを見越しての事だろうか。
大先輩だし、きっと何か意図があるのだろう。

ザワついた心を鎮め
頭頂からロッドを巻いていく彼の
丁寧で素早い作業を眺めた。

そしていよいよ顔周りに入ろうとした時
私は動揺していた。


(え、その細いので…いくの…?)


私の予想に反して
彼は細いロッドを巻き付け始めたのだ。

嫌な予感しかしない。
おいおい嘘だろ前髪もいくだと?
ほんの数センチしかない短め前髪に
その細いのいっちゃうの?
ねぇほんとに?正気なの?


ポンコツなりにも美容師。
ここまでの段階であらかた仕上がりは
想像出来る。

やばい。確実にやばいぞこれ。
でも薬剤によってはまだ希望がある。
弱めでかけてくれればいける。

巻き上がった綺麗な大仏姿を鏡で見ながら
私は心の底から祈った。


薬剤塗布の瞬間。

仕事で散々嗅ぎ慣れた
裏切らない強め薬剤の香りが漂った。

おわった。

極めつけに加温までし始めた。

もうダメだ。
大仏アフロが約束された瞬間だった。


仕上げの時にはもう放心状態で
前髪だけロールブラシを入れていた事しか
記憶にはないのだが
唯一覚えている事がある。

それは
彼が満足そうに鏡を持って
私の後頭部を見せながら言った一言。


「ロックだね♪」


その時の仕上がりがこちら。

美容室から帰宅直後である。

確かにロックだ。
80年代、いや70年代だろうか。

ここまでブレないのかこの店は。

もはや感激すらした。
こんなに清々しく代金を払ったのは
初めてなんじゃないかとすら思った。


というかスタイリストさんの人柄が
本当に素敵だったのだ。


だから、これはこれで。

さて。
明日からどうセットしようか。

ポンコツなりにも美容師。
やってやろうではないか。

そんな事を思いながら
帰宅後すぐ、無駄だとわかっていても
念入りにシャンプーをしたのは

ここだけの話だ。


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