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【超短編小説】値段は気にしないので

「この本、ください」
 その言葉にサークル主は飛び上がって喜んでくれた。特殊加工でギラギラになった表紙のせいで単価が爆発した結果、通常の相場よりもはるかに高い価格で頒布せざるを得なかったのだ。
 文字通り「薄い」本に千円札を二枚差し出しながら、客はこういった。
「値段は気にしないので!」
 ファンタジー小説に出てきそうな魔導書のような本をウキウキで抱えた客は、カバンに戦利品をしまってから他のサークルを回った。
「値段は気にしないので……」
「値段は、気にしないので」
「あ、値段は気にしないので」
 すでに諭吉が数人消し飛んでいるが、金銭感覚が狂ったヤツが出した本を、金銭感覚が狂ったヤツが買うだけの話である。
 24ページ、漫画。B5。700円。
 100ページ、小説。文庫サイズ。1500円。
 60ページ、イラスト集。A4。2500円。
 鈍器と化したカバンを抱えながら、あちこちを歩く。
 ふと、その客はとあるサークルの前で足を止めた。スマホをずっと見ていたサークル主が顔を上げて、ニコッと無理な笑い方をした。テーブルの上には何冊かの本が並んでいる。表紙絵の傍のポップには「36ページ、漫画。B5。100円」とある。コピー本にしても随分と破格な価格ではあるが、しっかり印刷会社で刷られた本だった。
 どうぞ、と勧められた本に、客は笑顔で言った。
「値段は気にしないので……」

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)