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【超短編小説】N氏の改心

 N氏は膝に乗る猫を撫でながらスマートフォンを操作し、どこかへ電話をかけた。
「お電話ありがとうございます、ネコのサブスク、ネコサブのA山です」
「ネコを返却したいのですが……」
 そう、今N氏の膝の上で喉をゴロゴロ言わせているネコはサブスクのサービスでやってきたネコである。ネコサブは会員に対して好きなタイミングでネコや飼育道具を貸し出し、好きなタイミングで返却ができるという画期的なサービスであった。
 N氏も試しにこのネコサブを利用してみたのだが、ネコは思っている以上に世話が大変で、N氏の言うことを聞いてくれない。N氏が大事にしていたアンティークの花瓶をネコが壊してしまったのが決定打。N氏はネコを返却することにした。

 後日、ネコサブの担当者がN氏の家にやってきた。N氏は彼を快く迎え、ケージに入れたネコを手渡そうとした。
「今、ネコを持ってきます……」
 しかし、担当者は背後からN氏を羽交い締めにする。
「な、何をする! 離せ!!」
 ぞろぞろとやってくるネコサブ担当者たちは、あれよあれよという間にN氏をワゴン車へ連行してしまった。
 
 数時間後、ワゴン車から出てきたN氏はボロボロに泣いていた。泣きながら家に転がり込み、ケージからネコを取り出し、抱きしめ、そして声をあげて泣いた。ネコは迷惑そうな顔をしていたが、ネコサブの担当者たちは晴れ晴れとした表情を浮かべていた。
 好きなときにネコを返却できるという触れ込みのネコサブだが、返却希望の飼い主に動物愛護の映像を延々と視聴させる。特に殺処分の映像は効果覿面で、身勝手な理由でネコを返却しようとした飼い主の大半は、これでネコの返却を思いとどまる。
「しかし、今回はちゃんと思いとどまってくれてよかったですね」
 口を開いた部下に、上司は朗らかな笑い声を上げた。
「そうだな」
 そして、今回は使わなかった仕事道具の鞄を開けた。
「コイツの出番がなくてよかった」
 拳銃が、静かに光っている。
 動物愛護の映像を見せても考えを改めなかった飼い主は、これで処分されるのだ。ネコにとっては可哀想ではあるが、飼い主が死んでしまう仕方の無いハプニング・・・・・・・・・・は、いつの世にもある話なのである……。


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)