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【超短編小説】大団円!

 あるところに、ヒーローがいました。そのヒーローはとても強いので、どんな悪人もけちょんけちょんにやっつけてしまうのです。人々は最初の頃は「ヒーローさんありがとう」と言いました。しかし、そのヒーローは悪人を倒すことに夢中だったので、周りの被害はお構いなしでした。

 あるとき、悪人は子供を人質に取りました。
「こいつの命が惜しければ――」と言った辺りで、ヒーローは人質の子供ごと悪人を殺しました。
 一人の命で多数が救われるなら安い物だとヒーローは言いました。これにはさすがの悪人もドン引きです。勇敢な若者が何人か、ヒーローを止めようと戦いを挑みました。が、結果は言うまでもありません。
 いつしか人々はヒーローに怯えるようになりました。ヒーローを呼び寄せる悪人にも怯えるようになりました。ヒーローは心配するなと言って悪人を倒します。ついでに家もいくつか壊します。心配するな、とはどの口が言うのやら。

 いよいよ悪人の親玉がやってきました。ヒーロー最後の戦いです。家もビルも公園も橋も電波塔も何もかもを巻き込んだ超ド級の大激突です。しかし、ヒーローはこれに勝ちました。
 親玉は言いました。
「流石だな、ヒーロー。しかしお前はこれでよかったのか? お前が守りたい物は全てお前が壊して木っ端微塵だ、守りたい人は皆逃げて散り散りだ。周りを見てみろ、これがお前の望んだ結末か?」
 ヒーローは辺りを見渡しました。
 本当に、ここに街があったのでしょうか? 大量のガレキとくすぶる炎。空は煙でいっぱいです。
 ヒーローはしばし沈黙しました。そして、口を開きました。
「お前は何か勘違いをしているようだが――」ヒーローは必殺技の構えをして言いました。
「俺は悪人をぶちのめしたいだけで、人を助けようだの街を守ろうだの、そんな意識は微塵もない」
 唖然とする親玉は次の瞬間、ヒーローのスペシャルキックであえなく倒されてしまいました。

 こうして街は焼け野原、人々は逃げて散り散り、完全なる廃墟と化した大地でヒーローは勝利の雄叫びを上げます。
 そんなヒーローに石を投げる人々がいました。彼らは泣きながら「よくも俺たちの街を!」と言います。
 ヒーローは首をかしげて、こう言い放ちました。

「だったら、どうしてお前たちが立ち上がって怪人を倒そうとしないんだ? 他人に勝手に期待するから、こうなるんだろう。さっきも言ったが、俺は悪人をぶちのめしたいだけで、人を助けようだの街を守ろうだの、そんな意識は微塵もないんでな……」


気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)