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【長編小説】ノアと冬が来ない町 第十話 夏の終わり


 脳が情報を処理できていない。シノは目の前で眠る弟の顔を見つめながら思った。同時に、弟を早く助けなければという焦燥が、彼女の心を蝕んでいた。
「アカツキ!」
 気が付くと、シノは装置に手を伸ばしていた。操作の方法など分からないが、それでも動かずにはいられなかった。さっと現れた障壁魔術が、彼女の手を容赦なく焼く。その瞬間、ラスターが音もなく短剣を抜いた。
「ノア、ヒョウガ。構えろ」
 ラスターの視線はもう一つの扉にあった。自分たちが入ってきた扉の、ちょうど反対側にある扉である。おそらくこちらの扉の方がメインなのだろう。大きめに作られていた。五人くらい並んで入れるくらいの幅がある。
「ラスター、どう?」
「……あまり嬉しくないかも」
「人数は?」
「んー、数十人くらい?」
 会話の意味が分かっていなかったヒョウガだったが、いよいよその意味を理解する。徐々に徐々に、大きくなっていく足音が扉の向こうから聞こえてくる! 
 ヒョウガは真っ先に飛び出した。開きかけていた扉を氷で接着した。ぴきぴき、と響く高い音は氷が形成される音でもあったが、扉の向こう側にいる誰かたちの影響で、氷が解ける音でもあった。
「の、ノア! みんな、早く逃げろ!」
「逃げろ? バカ言わないでよ! せっかくここまで来たのに!」
 シノが「逃げろ」という言葉に過剰な反応を見せた。いつものヒョウガだったらここで食い下がらず、勢いに押されて黙り込んでいただろう。だが、今は状況が状況だった。
「だ、だっ、だからって、この数を相手するのは、っ!」
 扉が浮きそうになる。ヒョウガは慌てて氷を増強した。
 シノは薙刀を取り出し、障壁魔術に思いっきり斬りつける。が、やはりはじかれてしまう。ノアは障壁魔術の解析をしようとして、唇を噛む。意味がない、これは魔術ではない。濃密な魔力の塊が、ここに溜まっているだけだ。
 だとすれば解除方法は単純である。これに匹敵するだけの魔力をぶつければいい。だが、解除してから先が問題だ。誰もあの装置の操作方法を知らない。こういった機械は結構頑丈に作られているので、外側のカプセルを割るというのは非現実的だ。機械のボタンはじっと光っている。操作はできるように見えるが方法が分からない!
 何よりこの障壁魔術を破れるだけの魔力を持つ人物がいるかどうかが分からない。魔力増幅の魔術を用いれば、ヒョウガなら可能性があるかもしれない。ノアもシノノメもさすがにこの障壁魔術を吹き飛ばすほどの魔力は持っていない。ラスターに関してはそもそも魔力がないので論外だ。
「ラスター、どう? 操作できそう?」
「見ただけじゃさっぱりわからんが、あそこに取扱説明書トリセツみたいなもんがある」
 ラスターが示したのは装置の操作パネルの傍にある冊子のようなものだった。
「あれを見ながらならできるってこと?」
「分からん。中身が風化しているかもしれないし、見るまではなんとも」
「分かった」
 ノアはヒョウガが抑えている扉の方を見た。まだギリギリなんとかなりそうだ。
「シノ、ひとつ聞きたい。あの扉の向こうにいる奴らを幻術で抑えることはできる?」
「……幻術は精神を持つ相手にしか効かないわ。例えば犬猫には効くけれど、グールには無理。あの連中がどうなるかはやってみないと……」
「わかった。ひとまずやってみよう。もしもあふれ出たら俺が何とかする。こっちに」
 ノアはヒョウガの下へ急いだ。シノも後をついてくる。
「ヒョウガくん、君に頼みがある。あの装置を守っている障壁魔術に、君の魔力をありったけぶつけてほしいんだ」
「え? え、でもオレがここを離れたら……」
「そいつらの足止めはあたしがやる。あなたは障壁の方をお願い」
 ヒョウガはノアとシノの顔を交互に見てから、頷いた。
「カウントを入れるから……そのタイミングで何とかしてくれ」
「分かったわ。ありがとう」
「ノア、どうやって障壁魔術を壊せばいい?」
「魔力をぶつけるだけでいい。複雑な術式はいらないから、ありったけをお願い」
「うん……。分かった」
 ヒョウガはちらりとシノの方を見た。シノは頷いて、眼に魔力を貯める。
「五、四、三……」
 仄かに光を放つシノの瞳は、既に術式を発動している。ヒョウガがじりじりと後ずさりをして、障壁魔術を壊すのにちょうどいい位置を取る。
「二……」
 ノアは剣を抜いた。もしもこちらに奴らが転がり出たときは、ノアが片付けるしかない。
「一……」
 緊張が高まる。シノが息を吸ったタイミングで、ヒョウガが叫んだ。
「ゼロ!」
 バリン、と甲高い音を立てて氷が割れる。どっと雪崩れ込む町長の私兵はやはり全員バッジをつけている。しかし、それは目に見える範囲だけの話だ。シノの術が作動する。彼女の紡ぐ嘘が、彼らの中で真実となっていく。
 瞳術、そのうえで言葉にも魔力を載せる。そうすれば瞳術の効果範囲外にもこの暗示が効く。動けなくなる。動けなくなる。単純な指示ほど染みやすい。ただのゴーレムならこうはいかなかった。あれは幻術が効くタイプの連中だ。だが、これだけ大勢の奴らに術を展開するのは難しい。夢を利用すれば多少魔力の節約にはなるが、現実でこれだけ大規模な術を展開するとなれば体に負担がかかる。
 視界が赤くなる。血涙が流れ出たらしい。思っていたよりは早い症状の出現だ。鼻の奥からも何かがジワリとにじんだ。何か、なんてもったいぶらなくとも分かる。どう考えても血だ。
 はやく、とシノが願ったそのとき、背後で猛烈な寒気が渦巻いた。
「魔力増強の術を重ねた、あとはいつも通りに思いっきりやるだけでいい!」
 脳が揺れる。意識が歪む。ヒョウガの魔力に当てられたらしい。地面に倒れこむ覚悟を決めたシノだったが、その衝撃はこない。ノアの声がする。しっかり、とか、なんかそんなことを言っている……。
「本当に大丈夫か……!?」
 ダウンしたシノの様子はヒョウガの目にも映っていた。不安そうな彼に対し、ノアは堂々と言い放つ。
「大丈夫、いざとなったら俺がなんとかする!」
 実際、なんとかできるものなのかは分からない。が、ノアなら大丈夫だなという信頼があった。ヒョウガは跳躍した。足場となる氷を次々発生させ、更に高く上がる。高く、高く……天井スレスレまで登った彼は、天井傍の壁へ飛びつく。脚が思いっきり壁を蹴る。ヒョウガの体が勢いよく障壁魔術に落ちていく。拳を突き出し、魔力をまとい、立ちはだかる壁を砕きにかかる。勝算がある。この魔力は町のものではない。カプセルの中にいる精霊本人の魔力が濃縮されているのだ。だからこそ、だからこそだ! 同じ条件下の魔力であれば、例え相性不利でもそれを覆すだけの力が今のヒョウガにはある!
 服の一部が凍る。強烈な衝撃が拳の先から伝わる。力が歪んだ。
 魔力の爆発が衝撃波を作る。ヒョウガも一瞬意識が飛んだが、反射的に着地の姿勢を取った。体を起こすと、ノアの魔力の気配がある。障壁魔術でみんなのことを守ったのだろう。
 なんだか調子がいい。ヒョウガはその勢いのまま、この部屋に入り込もうとしている連中を抑えに向かった。その判断は正しかった。ノアがシノに魔力を分けている。どうやら魔術を使いすぎたことによる魔力不足の症状だったらしい。
「上出来じゃん! サイコー!」
 こんな状況でも元気なラスターは、早速冊子を手にうっきうきで操作を開始する。口元が歪む。自分が一番楽なパートを担当したのでは? と調子に乗ったのは事実だ。が、彼は気を抜いているわけではない。視界の端で扉が開いたことを捕えていた。
 ボタンを押しながら、背後で掲げられた剣を受け止めるために振り向く。
「あれ、町長さん? どうしたんですかこんなところで、奇遇ですねぇー!」
 ラスターが声を張ると、ノアたちもそれに気づいたようだ。町長はすさまじい剣技でラスターを始末しようとする。本来ならノアが加勢できればいいのだが、今のシノをほっとくわけにはいかない。
「今なら諸々不問とする。素直に武器をしまってこの部屋から出ていけ」
「あー、それはちょっと厳しいんですよ。俺たちこのカプセルの人に用事があるんで。開けてもらえます?」
「それはできない相談だ」
 剣の切っ先が顔の正面を捕えてきたので、ラスターは最低限の首の動きだけでそれを回避する。無防備な腹を思いっきり蹴り、そのまま気絶させにかかる。だが、町長には意地もあった。カプセルを守る理由もあった。――ここで倒れたら、ナボッケの町が滅んでしまう。
 起き上がった町長の気迫にさすがのラスターも一瞬ひるんだ。追い詰められた殺人犯がやけくそになったときのそれによく似ている。
「がああああああああ!」
 けだものの雄たけびを上げてラスターに襲いかかる町長は、もう剣を持っていなかった。さすがに殺すわけにはいかないので、ラスターは甘んじて町長の体重を受け止める。そのままもみあいになり、町長は伸びた爪でラスターの眼球をえぐりにかかる。ラスターは町長の顎に思いっきり拳をねじ込んだ。しかし気を失う気配がない。
「わだしは! 町長だ! ナボッケの町を! 守るのは! わだしの責任だ!」
 その汚い叫びに、シノもさすがに目を覚ました。異様に重い唇をこじ開けて、シノはノアの名を呼んだ。上手く呼べていたかは分からないが、それでもノアは気づいてくれた。
「シノ!」
 ノアの声がする。シノはぼんやりとした頭で目元をこすった。
「痛みやしびれはない? 俺のこと分かる?」
「あ、あ……たし、あたし」
「魔力の使い過ぎで倒れたんだ。無茶をさせたね。ごめん」
「アカツキは? アカツキは、どう……」
 シノがふらふらと起き上がる。彼女が見たものは未だ装置で眠るアカツキ、町長ともみ合いになるラスター、大量の私兵を一人で抑えるヒョウガの姿だった。
「シノ、無理をしないで」
「あの装置、あたしにも操作できる……?」
 一歩、足が動く。転びそうになる体を、ノアが受け止める。
「説明書があるってラスターが言ってた。それを見ながらなら、もしかするかも」
 シノの指が、動く。彼女は自分の額に指先を当てて、言葉を紡いだ。
「夢と熱の加護を受け幻を司る精霊、シノノメよ。あなたは強い。どんな機械だって上手く操作ができる。あなたは弟を救うためならなんだってできる……。まっすぐ歩くことも、背筋を伸ばすことも、魔力を動かすことだって……」
 ノアは目を見開いた。彼女は自分に幻術を展開している。彼女が言葉を紡ぐたびに、彼女はその言葉通りになっていく。
「行ってくるわ」
 ばき、と氷にヒビが入る音がする。ヒョウガの方がもう限界に近いらしい。もしかしたら私兵の大半がここに投入されているのかもしれない。
「無理はしないでね」
「大丈夫。ありがとう、ノア。あなたの魔力、結構なじんでる」
 シノはそう言って、機械の方へと駆け出した。ノアは少しだけシノの背中を見送ってから、ヒョウガの方に加勢に向かった。
「ノア! シノはもう大丈夫なのか?」
「ひとまずはね。今は彼女が装置の解除に向かってる」
 ノアはヒョウガの氷に剣を添え、魔術強化を施した。私兵の向こうでも魔術のようなものが展開されているが、精霊と契約したヒョウガの魔力に加えてノアの魔術強化が施された氷を突破できるほどのものではないようだ。
「シノって器用なのか? あの装置を解除できるのか?」
 ヒョウガの疑問に、ノアは少し間をおいてから答えた。
「そういう『こと』になってる」
 装置がわずかに光った。設定メニューが稼働したという意味だ。それを理解できた唯一の人物、町長はラスターをはねのけてシノのところへ向かおうとしたが、足をもつれさせて転んだ。ラスターがナイフを投げたのだ。
 シノは息をついた。凄まじい形相の町長がこちらに飛びかかってきたのでさすがに心臓が止まりそうになった。彼が再びラスターともみ合いになったのを確認してから、ディスプレイを確認する。メニューのような何かが表示されている。シノは取扱説明書らしき冊子をめくった。カプセルの開封方法についての詳細を探す……。当然、それを町長が許すわけがない。再度ラスターを放り出してシノに襲い掛かろうとするも、それをみすみす見逃すラスターではない。
「ちょっと、どこ行くのさ。せっかく楽しくりあってんだから最後まで付き合ってくれよ!」
 その声は、あえて張っていた。シノに聞こえるようにという気遣いだった。
 ページをめくる手が止まる。魔力源封入器の開き方。これだ! メニューは開いてある。ここからその他を選択し、封入器の項目を選択する。すると、目当ての文字がそこにあった。
「ロック解除の上、カプセルを開ける」
 迷いなどない。遠慮なくそのメニューを押した。しばらくおまちください……の文字が出て、光っていたボタンが急におとなしくなる。アカツキに伸びていたコードが次々引っ込んでいく。町長がへたり込んだ。ラスターの攻撃の手は緩まず、勢い余った拳は町長の頬に食い込んだ。
 ノアとヒョウガも機械の動きに気が付いた。透明なカプセルが、ゆっくりと開いていく。シノは機械に足をかけ、カプセルの前に進む。アカツキは眠っている。頬に触れると温かい。肉体の内側から上がる熱だ。シノは震える手でアカツキを固定していたベルトを外す。胸元を見ると規則正しく上下しているのが分かる。呼吸をしている。生きている。
 シノは、そっと彼を受け止めた。普段なら彼の体重を支え切れないところ、幻術を自分に展開しているので問題ない。
 シノは、ゆっくりと口を開いて――
「アカツキ……」
 名を、呼んだ。
 めでたしめでたし、の雰囲気に包まれている中、ヒョウガが氷の一部分を解除する。町長の私兵は魔力を失ったようで、動かなくなっている。その様子を見たノアは氷を解除するようヒョウガに告げた。一瞬で姿を消した氷を見た瞬間、私兵たちはゆっくりと部屋に入ってきた。敵意はなかった。
「あんたも災難だよな」
 うなだれる町長に、ラスターは話しかけた。
「冬を拒んでニセモノの夏を作るなんて、そんなことをしなけりゃよかったんだ」
 町長は、は、と息をついた。笑っているのだ。
「私だって、そんなつもりはなかったんだ」
 ラスターは眉をひそめた。
「彼ができると言ったから……」
 そのとき、機械の奥に設置されていた投影機がゆったりと動き始める。全員が壁に注目した。
「町長、地下の私兵の皆様、町民の皆様。副町長です」
 あ、とラスターが声を上げた。見たことがある。あれは確か、町長の家の入場チケット売り場にいた男だ。
「ただいま、町の夏を作り上げていた装置の停止が確認されました。こういった不具合もたまにはあります。現在ナボッケの町の気温は最高三十二度のところ、徐々に下がり始めております」
 私兵が、ノアたちの傍を歩いていく。機械のような動きで、歩を進めていく。
「……待って?」
 はっとしたところで、遅い。
 装置は止まった。魔力の源になっていたアカツキが取り出された以上、ナボッケの町に満ちていた魔力は徐々に消滅する。一方で、その魔力で動いていた私兵たちは装置の停止とともに動けなくなるはずだ。だが……彼らは動いている。
「ラスター、地図!」
 ノアの声に、ラスターは地図を丸めて投げてよこしてきた。あわてて地図を開いたノアは、今の居場所をよく見る。

 魔力炉(メイン・・・

 町長の家とは反対側、ナボッケ霊山から伸びる地下のルートを見る。独房らしき絵がある。これがおそらくヒョウガが閉じ込められていた場所だろう。そこから更に奥の方。ノアは目を見張った。

 魔力炉(予備)

 どうして気付かなかったのか! 肝が冷える。シノとヒョウガが飛んできて、同じようにして地図を見る。
「待てよ。まずそもそも、同じ魔力を持つ者って存在しないんだろ? それこそ精霊とその精霊と契約した奴が同じ魔力を共有するって話はあったけどさ!」
「ヒョウガくんの言うことは正しいよ。だけど私兵はアカツキの魔力を変換した魔力で動いていたんだ。それ以外では動かない。今も動いているってことは、アカツキの魔力を変換したあの魔力が、予備の魔力炉から――」
 ノアの言葉が途切れた。
 すさまじい断末魔が、部屋に満ちたからだ。
 私兵たちは町長に群がっていた。彼らは高く上げた拳を、武器を、惜しみなく町長めがけて振り下ろしていた。床にじわりと血が広がる。力を失った脚が投げ出されている。ノアは思わず止めに入ろうとしたが、いつの間にかこちらに来てたラスターが腕を引く。
「ラスター、いったい何が」
 ラスターは無言で首を横に振った。
 もう間に合わない。もう死んでいる。今出ていけば、今度はノアがひき肉にされる。
「いったい、どういうことだ?」
「私兵を動かしていた魔術は町長のもので、魔力は町の魔力……でも今は違う。魔力のもとが変化したということは、私兵を支配下に置いたのは……」
 ノアは私兵たちをみた。
 町長をぐちゃぐちゃにして満足したらしい私兵たちは、そのまま動かなくなった。ぴきぴき、と音がする。体に魔力が巡るのが見える。町の魔力とは別の魔力が明らかに漏れ出ている。
「あ、ああ……そんな……」
 その正体を真っ先に見抜いたヒョウガが、その場に座り込んだ。
 ノアは映像を見た。副町長は何事もなかったかのように、ぺらぺらと言葉を続けている。その後ろに、見たことのある装置のが映りこんでいる……。
「しかし、我々は本日、予備の魔力炉を動かすための魔力源を手に入れました。皆さまご安心ください、ナボッケの町の夏は終わりますが――」
 言葉が、途切れる。映像の向こうに、今のナボッケの町が映し出されている。
 夏にふさわしくない猛烈な吹雪が、町を白く染めていた。
「新しい冬を迎えて、生きていきましょう」
 映像は真っ白な世界を延々と映し出しながら、やがて消えてしまった。


 カプセルの中で、魔力がゆったりと吸われているのが分かる。中から出る手段はないらしいが、特に悲観はしていない。もとより食事も睡眠も不要な身。
 だが、事態は悪化しているといえるだろう。
 放送を終えた副町長がゆっくりとこちらに振り向く。いい笑顔だ。首を刎ねたくなる。
「貴様の目的はなんだ?」
 カプセルの中で、コガラシマルは問いかけた。
「魔力の研究ですよ」
 副町長はそう答えると、機械を軽く操作した。
「町を発展させるのが目的ではないのか」
「私はこの町がどうなっても知ったことではないんです」
「民がどうなろうと構わないと?」
「別に構いませんよ。自分たちでなんとかすればいいんじゃないんですか? 冬の備えがあれば生き抜くのは容易でしょう。私としてはこの貴重な装置が失われるのが惜しいだけですので……」
 副町長は別の装置を起動する。壁に地下の地図が現れ、赤い点がメインの魔力炉がある部屋に集っている。その他に緑色の点が散らばっている。説明がなくとも分かる。赤い点が侵入者で、緑の点は私兵たちを示しているのだろう。
「あなたの魔力をお借りして、侵入者を殲滅します」
 ……赤黒い感情がコガラシマルの体を駆け上っていったが、どうすることもできなかった。



気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)