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【超短編小説】斜陽

 扉を強く叩く音がする。
 随分と乱暴な来訪者に俺は居留守を決め込んだ。まだ寝ていたい気分だったし、床に散らばる魔法薬の瓶を踏みたくなかったのだ。王都からやってきた薬製造のお偉いさんは俺が居ないと踏んだのか、扉を叩くのを辞めた。
 廉価で安全な薬が、俺たちの仕事を奪うのにそう時間はかからなかった。突然やってきた新しい薬には魔力が含まれていないので、魔力過剰の副作用が出ないと平和ボケの王都市民は大喜びでその薬を受け入れた。俺たちの同業者は大半が王都にかじりついて店をやっていたが、一日一本売れるか売れないかではどうにもならない。王都の魔法薬屋は次々に姿を消し、つい先日知り合いが最後の店を閉めた。
 結論を言うと、王都は今存亡の危機に瀕している。
 魔力を含めているのはあえて、の話だ。体内魔力に作用することにより身体の治癒力を高めるのが魔法薬の基本。それに魔物が原因の疾病に関しては奴らの魔力に抵抗するための魔力を薬に混ぜた方が効率がいい。魔力を使わない薬は確かに多少の効果はあれど、良く効くかといわれたら話は変わる。
 俺たち薬屋は別に王都にいなければならないってことはない。店を開けるも閉めるも俺らの勝手。馬鹿げた理想の薬のせいで、近いうちにあの国は自分で自分の首を絞めたまま終わりを迎えることだろう。俺は布団に潜り込んだ。小屋の外に再び気配を感じたのだ。乱暴に扉を叩き始めた客を無視して、俺は瓶をひとつ空けた。これを飲むとよく眠れるのだ。難点は――強烈な苦味が口の中を占めること。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)