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【短編小説】僕の大事なパートナー
そろそろ家を建てようか、という話がポツポツと出始めたのでS夫婦はマイホームイベントへと足を運んだ。家そのもののブースの他にも、シンク、風呂、トイレ等々……家に必要なものの全てが一堂に会する様子に、S氏は感心した。パートナーであるS夫人はキッチン設備の方に目をやったので、S氏はS夫人を連れてそちらの方へと向かった。
「この調理台は広々としていてとても使いやすいんですよ。汚れにくい特別な加工もしてありますのでお掃除も簡単です」
S夫人の目が輝いた。S氏もその様子を見て嬉しくなった。しかしその気分も、担当者の次の発言で全て台無しになった。
「如何でしょうか? ご主人さまも、奥様が快適に……」
S夫人の顔がぽっと赤くなる。それと同時に、
「ご主人さま、というのは辞めて下さい。彼女は僕のパートナーです」
S氏は担当者に冷たく言い放った。
「僕と彼女は対等なんです。僕が上という訳ではありません。パートナーですから」
S氏はそう言って、S夫人の手を引いて会場を後にしてしまった。
夢のマイホームが現実になるワクワクに水を差されたS氏は少し不機嫌だった。S夫人は助手席で俯いている。アパートに帰宅した二人は手を洗ってから、S氏はテレビ前のソファーに、S夫人は台所に立った。
少しして、S氏がテレビ番組を概ね確認し終えた頃、S夫人がS氏にお茶を出す。
S氏はそれを黙って飲む。時計を見るともう十一時半になっていた。S氏は「飯!」とS夫人に声を上げる。
S夫人は時計を見て「早くない?」と確認したが、S氏は「飯!」と言って、昼のお笑い番組を見始めた。
S夫人は冷蔵庫の適当な野菜でサラダを作り、豚肉でささっと生姜焼きを作った。ご飯は炊いている時間がないのでパックのものをレンジでチンした。
それらが食卓に並んだタイミングで、S氏は食卓に着いた。
「箸!」
S氏の声にS夫人は即座に反応する。差し出された箸をひったくるようにして奪ったS氏は、黙々と食事をした。「おいしい」も「まずい」も言うことなく。
昼のニュースバラエティ番組が始まる。今日のテーマは「奧さん? 嫁? 妻? 配偶者の呼び方問題」という非常にタイムリーな話であった。
「ほらみろ、あのキッチン担当者もこれを見て勉強しろ! 時代は男女平等!」
S氏の口から米粒が飛び散った。
「男は仕事、女は家事! しっかり役割を分担して、平等に仕事を割り振る……夫婦は人生のパートナー! 全く、どうしてそれが分からない」
S氏はブツブツ言いながら、やはり米粒をまき散らしていた。
それを掃除するのは勿論S夫人の仕事である。
気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)