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【短編小説】私悪くないもん

 パティは魔女の女の子。毎日一生懸命魔法の勉強をしています。けれども、パティは上手く魔法が使えません。お母さんは「焦らず、ゆっくり、頑張りなさい」とパティを応援してくれます。パティはお母さんの応援に元気よく頷いて、今日も魔法の勉強を頑張ります。

 ある日、パティは魔女映画を見に行きました。大好きな魔女アニメの映画版です。そこで同級生のネネに会いました。
「わあ、偶然!」とパティは喜びました。
「ほんとに偶然!」とネネも喜びました。
 二人は一緒に映画を見て、一緒にご飯を食べました。

 二人は色々な話をしました。映画の話題から、アニメの話題になって、更に魔法の勉強の話になりました。
「パティは今、どのくらい魔法を使えるの?」とネネが聞きました。
 パティは正直に「初級の四だよ」と答えました。
 ネネは目を丸くしました。
「えっ? まだ初級の四なの?」
「そうだよ。今度、初級の五の試験を受けるんだ」
 パティは魔女かぼちゃチップスを食べながら答えました。
「私たちの年齢で、まだ初級の五なの、アンタぐらいじゃない?」ネネは少し苛立ちながら言いました。

 パティは少し困りました。ネネがどうして怒っているのか、分からなかったのです。確かに、パティは十歳なのに、まだ初級の五をクリアできていません。みんな、中級の三とか四にいるのに……。
「お母さんが、焦らなくて大丈夫って言ってたから、自分のペースで頑張りたいんだ」
 ネネは強くテーブルを叩きました。

「意志が弱すぎるよ!」ネネが大声を出しました。
「焦らなくて大丈夫って言われたからって、ほんとにそう思ってるの!?」お客さんが、なんだなんだとこちらを見てきます。恥ずかしくて、パティの顔は真っ赤になりました。
「だからこの前の授業で、一人だけホウキに乗れなくてもヘラヘラしてたんだ」
 ネネの言葉は止まりません。
「そうやっていれば失敗した惨めな自分を守れるもんね」
 ふん、とネネは鼻を鳴らしました。
「魔女映画とか、魔女アニメを見てる場合じゃないってことも、分からないのかな。そんなんだからいつまで経っても同じ失敗するんだよ」
 そう言って、ネネは去ってしまいました。
 パティはしばらく、そこから動くことができませんでした。

 すっかり落ち込んでしまったパティに、お母さんは驚きました。何があったの? と問いかけても、パティは何も言いません。
 確かに、パティは失敗したときに、ニコニコ笑います。それは、反省をしていないからではありません。失敗は、失敗。次に生かすために頑張ろう! そう思うと、自然と笑顔になるのです。
 ネネにはそれが、不真面目に見えていたということでしょうか?

 数ヶ月後、パティは魔女試験にチャレンジしました。
 結果は、惜しくも不合格でした。
 お母さんは、「大丈夫よ」と優しくパティに語りかけます。
 けれども、パティは笑うことができなくなっていました。次の試験を頑張ろうという気持ちもちっとも湧いてきません。ネネの言葉が突き刺さった心はシクシク痛んで、次も頑張ろうという気持ちを殺してしまったのです。

 結局、パティは魔法の杖を折って、魔女を辞めることになりました。お母さんとお父さんとは何度も話し合いました。あれだけ諦めなかったパティが、急に魔女を辞めると言ったのでお母さんは驚きました。
 お父さんはのんきに「まぁ、また魔女になりたくなったら頑張ればいいさ」と言いました。

 魔女小学校は魔女の学校なので、魔女にならない子供は通うことができません。パティは転校することになりました。これからは、人間の学校で、人間の勉強をすることになります。
 パティが魔女を辞める理由をみんな不思議がりました。「どうして辞めちゃうの、あんなに頑張ってたのに」と涙ぐむ友達を見ていると、パティはとても悲しい気持ちになりました。
 パティは魔女を辞めることになった理由を話しました。ネネになんと言われたのかを話したのです。

 その日、クラスは真っ二つになりました。パティのことを可哀想と思う人と、ネネの言ってることを正しいと思う人で完全に割れてしまったのです。ネネは顔を真っ赤にして叫びました。
「私悪くない、私悪くないもん!」
 頭に血が上ったネネは、パティの杖を奪いました。友達が何とかして杖を取り戻そうとしますが、ネネはその子を突き飛ばして叫びました。
「あんたなんかさっさと魔女をやめちゃえばいいのよ!」
 そして、パティの杖をポッキリ折ってしまったのです。

 先生が、異変に気がついて教室に飛び込んできたとき、そこはもう酷い有様でした。
 黒板も机もグチャグチャです。生徒たちの大半が倒れています。パティもぐったりとしたまま動きません。
 魔法の杖は、とても危険なものです。折れたりかけたりすると、魔法の力が爆発してしまいます。魔法の力が爆発すると、色々とよくないことが起こります。
 だから魔女は魔女を辞めるとき、安全な方法で杖を折り、捨てることになっているのです。
 先生たちが、まだ生きている生徒たちをなんとか助けようとしています。担任の先生に抱きかかえられたネネは、震える声で言いました。 

「私のせいじゃないもん」と。

 先生は上手く聞き取れなかったのでしょう。「なに?」と優しい声で尋ねました。しかしネネは、その言葉のニュアンスに「ネネを責めている」という存在しない感情を勝手に読み取ったのです。

「私のせいじゃないもん! 私悪くないもん! 私悪くないもん!」
 ネネは、そう言って暴れます。先生が困って、ネネを落ち着かせようと優しい呪文を唱えようとしました。
「私悪くないもん! 私悪くないもん! 私悪くないもん!」
 しかし、暴れたネネの手が、先生の手に当たります。先生の杖がはずみで転がりました。
「私悪くないもん! 私悪くないもん! 私悪くないもん! 私悪くないもん!」
 暴れたネネの足が、先生の杖を捉えて――。
「私悪くないもん!」

 魔女の杖は、使えば使うほど、魔力が中に溜まります。
 パティの杖が壊れたのは不幸ではありましたが、パティがまだ見習い魔女だったのが幸いしました。
 しかし、先生は何十年も魔女をやっています。
 膨大な年月により蓄積した魔力は、あっという間に魔女学校のみならず、魔女社会の全てを消し飛ばして……。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)