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【超短編小説】誰かがこんなことを言いだした

 SNSのおかげで「あなたの作品が好きです」という意思表示は容易になった。ボタンをひとつ押すだけで「好きです」を送ることができる。
 しかし、誰かがこんなことを言いだした。
「でも、やっぱり感想がほしいな。スキだけだと物足りないから」
 読み手はみんな、「そうか、私の好きな作家はボタンによる意思表示よりも、作品の感想の方が好きなのか」と認識した。

 多くの読み手が感想をしたためるようになった。「読みました。今日の作品もとても素敵でした。特に主人公が――」というメッセージを送るようになった。
 しかし、誰かがこんなことを言いだした。
「長い感想は返事が疲れるから、手短にお願いしたいです」
 読み手はみんな、「そうか、私の好きな作家は作品の長文感想よりも、シンプルに一言二言もらう方が好きなのか」と認識した。

 多くの読み手が短い感想をしたためるようになった。「読みました。主人公の変化が印象的で、おもしろかったです」という簡潔でささやかなメッセージを送るようになった。
 しかし、誰かがこんなことを言いだした。
「読んだ時の『うひゃー!』って気持ちをそのまま伝えてほしい。他人行儀みたいな文章だと本当なのか分からなくなる」
 読み手はみんな、「そうか、私の好きな作家はメッセージよりも、素直に悲鳴や断末魔を直接送ってもらう方が好きなのか」と認識した。

 多くの読み手が叫んだ。「ひゃあああああ!」「ぎょえええええ」「あああああああ」
 Twitterでは140字程度に収まるように「(中略)」という言葉をはさんだりした。
 しかし、誰かがこんなことを言いだした。
「悲鳴だけ送られてきても困るので、悲鳴しかない人は黙ってボタン押すだけにしてくれないかな」
 読み手はみんな、「そうか、私の好きな作家は悲鳴を直接送るよりも、スキのボタンを押してもらう方が好きなのか」と認識した。

 多くの読み手が積極的に「スキ」や「いいね」などと呼ばれるボタンを押すようになった。たったこれだけで「好きです」という気持ちを送ることができる。
 しかし、誰かがこんなことを言いだした。
「でも、やっぱり感想がほしいな。スキだけだと物足りないから」
 読み手はみんな、「そうか、私の好きな作家はボタンによる意思表示よりも、作品の感想の方が好きなのか」と……。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)