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【超短編小説】また、二人で

 ホットチョコレートを手に「今年もお疲れさま」と笑い合う。些細な変化があったとしても、この時だけはいつも変わらない。
 木製のテーブルでは、ラスターが銀の腕輪を磨いている。新たに増えた毎晩の習慣だ。そこまでしなくても、とノアは笑ったが「俺が大事にしたいの」とやたら真剣な顔で言われてしまった。
 悪意ある魔術から装備者を守る宝石も赤く輝いている。それが壊れていないということは、まだなんとか危険な目には遭っていないらしい。
「来年もよろしくね、ラスター」
 マグカップを差し出しながら、ノアはラスターに声をかけた。ラスターは手品のようにして道具一式を片付け、腕輪を右腕につけた。
「こちらこそ」
 マグカップを受け取り、中身を一口飲んだラスターはしばし固まった後、ノアの顔をまじまじと見つめた。
「……何か入れた?」
 ノアは答えず、代わりに自分もホットチョコレートを一口飲んだ。
「酒か? なんか、ブランデーの類……」
「毒だったらどうする?」
「ショックでラスターちゃん泣いちゃう」
 そう言いながらもラスターはホットチョコレートをぐいぐい飲んでいる。ノアは近くの戸棚に手を伸ばし、小さな酒瓶を取り出した。
「この前、コバルトからもらったんだ」
「ええええ!?」
 ラベルを見たラスターが椅子から転げ落ちそうになる。ノアはそんな彼を見て目をパチパチさせた。
「……そんなに?」
「高級酒だよ高級酒! あんた、魔術には詳しくてもこういうのはほんと疎いな!!」
「入れない方がよかった?」
 寂しそうな顔で尋ねるノアに、ラスターの勢いは急激に失速する。
「え……」
 ラスターは、既に空になったマグカップの中身を見つめてから、ノアの目を見て、再びマグカップの中身を見た。
「それとこれとは、話が別かなー」
「おかわり、いる?」
 その問いに、ラスターは勢いよく顔を上げ、ノアに、マグカップを差し出した。
「ください」
「了解」
 時計の針が動く音がする。今年も残り僅かだ。来年に何が待ち構えているのか、ノアにもラスターにも分からない。ただ、二人でならどんなことでも乗り越えられるような気がする。
 二杯目のホットチョコレートを、ラスターは大事に味わった。即座に飲み干された一杯目との落差が面白かったのか、ノアの肩が軽く揺れていた。
 
 

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)