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【短編小説】後から来た人のために

 雨玉ポツリは中堅ジャンルの同人物書きである。
 定期的に新規参入者がやってきたり、一時的に別ジャンルで活動していた人が戻ってきたりと、バランス良く人の出入りがある。pixivのランキングを占拠する程の力はないが、オールジャンルのイベントでそれなりにスペースが埋まるくらいの人口だ。
 そんなジャンルで物書きをやっている雨玉ポツリだが、そろそろ過去に書いた作品を消そうかと考えた。
 技術が拙いのもそうだが、ブクマも評価も平均以下。ブクマに関しては無いものもちらほらとある。
 いきなり全ての作品を消してしまったら、フォロワーたちが驚くかもしれない。雨玉ポツリはTwitterで作品整理予告のツイートをした。

 ――pixivの作品ですが、そろそろ整頓しようかと思っています。いきなり消えて驚くかもしれませんが、単なる整頓なので気にしないでください!

 すると、フォロワーたちがぽつぽつと反応を示した。
 ――ポツリさん作品消しちゃうんですか!?
 ――新規で沼った人向けに残しておいてあげて……ください……。
 泣き顔の顔文字だったり絵文字だったりを添えたツイートを見て、雨玉ポツリは少し考えた。確かに、過疎ジャンルにハマっていたとき、pixivに古い作品が残っていたのを見て狂喜乱舞した経験がある。自分の作品がそういった方々の供給になるのであれば、残しておくのも悪い話ではないだろう。
 雨玉ポツリはちょっと嬉しくなって、「予定は未定です」と呟いた。フォロワーたちが一斉にいいねを飛ばす。数字がヒュンヒュンと上がっていく。
 雨玉ポツリは頬を紅潮させて、pixivの作品管理ページを閉じた。


 数ヶ月後。
 再び、雨玉ポツリはそろそろ過去に書いた作品を消そうかと考えた。
 技術が拙いのもそうだが、ブクマも評価も平均以下。ブクマに関しては無いものもちらほらとある。
 いきなり全ての作品を消してしまったら、フォロワーたちが驚くかもしれない。雨玉ポツリはTwitterで作品整理予告のツイートをした。

 ――pixivそろそろ整頓するかもしれません。古くて恥ずかしくなってきたので……。

 すると、フォロワーたちがぽつぽつと反応を示した。
 ――え、ポツリさん作品消すんですか!?
 ――新参を沼らせるために取っておいてくれ!
 泣き顔の顔文字だったり絵文字だったりを添えたツイートを見て、雨玉ポツリは少し考えた。ブクマも評価も閲覧も特に増えた様子はない。通知は常に最新の作品に固まっていて、それだって滅多に来ない。新しくこのジャンルにハマった人はちらほらと見かける。雨玉ポツリだってそんな方々と相互フォローの関係になったりする。しかし、だからといってこれと言った変化はない。
 雨玉ポツリはちょっと躊躇ったものの、「予定は未定です」と呟いた。フォロワーたちが一斉にいいねを飛ばす。数字がヒュンヒュンと上がっていく。
 雨玉ポツリは唇をとがらせながら、pixivの作品管理ページを閉じた。


 更に数ヶ月後。
 再び、雨玉ポツリはそろそろ過去に書いた作品を消そうかと考えた。
 技術が拙いのもそうだが、ブクマも評価も平均以下。ブクマに関しては無いものもちらほらとある。
 いきなり全ての作品を消してしまったら、フォロワーたちが驚くかもしれない。雨玉ポツリはTwitterで作品整理予告のツイートをした。

 ――pixiv、整頓する予定です。沢山読んでくださってありがとうございました。

 すると、フォロワーたちがぽつぽつと反応を示した。
 ――ポツリさん神作品消さないでぇ!
 ――新参を沼らせるために取っておいてくれ!
 泣き顔の顔文字だったり絵文字だったりを添えたツイートを見て、雨玉ポツリはため息をついた。ブクマも評価も閲覧も特に増えた様子はない。後からやってきた新参者に物書きが数名居て、その人たちが作り出す小説が素晴らしいものだった。雨玉ポツリも瞬く間にファンになった。書き出しからしてレベルが違うのだ。ぱっと見た瞬間に理解できてしまう。レベルが違いすぎる。
 しかし、「消さないで」とすがりつくフォロワーの中に、その大好きな物書きがいたので雨玉ポツリは考えた。頭を掻きむしって、リプライを読み返して、また頭を掻きむしった。
 雨玉ポツリは結局、「予定はちょっとまだ分かりません」と呟いた。フォロワーたちが一斉にいいねを飛ばす。数字がヒュンヒュンと上がっていく。
 雨玉ポツリは無表情で、pixivの作品管理ページを閉じた。


 雨玉ポツリは考えた。今日は嫌な天気だった。雨の日の夜はどうして妙に明るいのだろうか。そこまで考えて、あの大好きな物書きならこの描写をどのようにして綴るのだろうかと考えた。
 人は増えてもブクマは増えない。それどころかブクマをした人がpixivのアカウントを引っ越した影響で減る始末だ。閲覧も評価も特に変動がない。読み返せば理由は分かる。あまりにも文章が拙すぎる。ハウツー本を読んだどころでこれといった上達はなく――いや、ないというのは言い過ぎた。確かに少しは上手くなっている。ビフォーアフターで並べたら違いはハッキリと分かる。
 しかし、それでも数字は増えない。周りに素晴らしい作品が多すぎる。
 雨玉ポツリは、自問する。
 消さないでくれとすがりつくフォロワーの中に、自分の作品をブクマしている奴が居たか? 評価してくれる奴は居るのか? 感想をくれた人は?

 ――今後、そういった人が現れる確率は?


 雨玉ポツリは予告なしにpixivの作品を消した。
 事後報告を呟くと、みんな「消しちゃったんですか!?」「うう……寂しいです」などとリプライをくれた。ありがとう、と返事をする雨玉ポツリは、晴れ晴れとした気持ちでpixivの管理ページを閉じた。
 布教なら他の小説が一役買ってくれるだろう。煌々と燃え上がる焚き火の傍で、マッチの炎で暖をとる必要はない。消したいなら消してしまえばそれでいい。痕跡がなければ「消された」などとは思わない。消えた作品や読めなかった作品の「存在」そのものを消してしまえば、新たにやってきた旅人が肩を落とすことなどないのだから。
 ああ、ここで火に当たれなかった、とは思わない。
 
 ここにはなかった、次に行こう。

 ……そう思うだけなのだから。

気の利いたことを書けるとよいのですが何も思いつきません!(頂いたサポートは創作関係のものに活用したいなと思っています)