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遠距離介護~思い込んだら試練の道を

実家で弟と暮らす父に異変が起きました。

朝の4時にスーパーに行く気満々で外出して転んで負傷した父は、さすがに凹んでいた。時間の感覚がおかしいという事実にも認識が追い付いたようで、「なんでこんな状態になってしまったのか。」と繰り返し問う。
気持ちは大変よくわかるんだが、
「それは、わたしが訊きたいよ?」

わたしが新型コロナウイルスに感染してしまったため、弟は仕事を休んだり時短にしてもらったりして、通院付き添い(精神科、内科に加えて整形外科と外科も追加されてしまって大変)に家事にと大変な中、この父とのかみ合わないor答えの出ない問答に対応するはめになり、かなり疲弊しているようだ。申し訳ない。
弟を助けて父の面倒をみてくれている叔父も従姉も疲れが出てきたころ、わたしの療養期間もまもなく終了するというときだった。

「今、兄ちゃんの様子を見に来てんけどな・・・おれへんねん。」

夕方、おかずのおすそ分けを持って、実家の様子を見に来てくれた叔父からの電話だった。
父とはこの1時間ほど前に家電で電話したばかり。
けがはずいぶんよくなって手の包帯もとれて楽になったと話していた。
気も大きくなって散歩にでもいってしまったのだろうか・・・
しかし夕暮れ時、視界もよくない時間帯、また転んでしまったら・・・
どうする?警察?
でも散歩かもしれないし・・・徘徊?道に迷う可能性もある?

1時間後、父はふらりと帰ってきた。
「買い物に行ってた。」と話すが、買い物の荷物など持ってなかったそうだ。お店まで行って気が済んだのか、買い物の仕方がわからなくなったのか。
どうも『買い物に行かないといけない』という思い込みが強まってしまった結果、外に出てしまったらしい。しかも父がここ20年行きつけにしているお気に入りのスーパーはうちから徒歩40分。体力自慢の父がこのスーパーに通うことにこだわっていることは知っていたが、こんなに執着しているとは・・・道中には3つほどスーパーはあるんだが。
そう。前回転んだときも、このスーパーに行こうとしてのことだったのだ。

思い込んでしまったら止まらない。
もともとがマイペースの権化のような父なのだ。
もともと小さかったリミッター(普通であれば他人の迷惑とか世間体とか諸々考慮するところ)がさらになくなっているのだろうか。
けがが治るまではひとりで外出してはいけないと話したが、どこまでわかっているのかは不明。叔父の心労を増やしてほんとうに申し訳ない・・・

子どものころから住んでいる町で年を重ねたので、びっくりするような路地まで熟知している父だが、念のためGPS発信装置をポチった。かばんを持ち歩く性質じゃないし、仕込むなら財布か・・・?
ついでに介護用品を見繕い、立ち上がりを助けるサポートスタンドやら着替えるときが辛そうだったので着替えのときに座れる簡易な椅子などもポチる。ポチることでわたしは商品とたぶん安心を買っている・・・ネットありがとう。

療養期間も済み幸い後遺症もないようで、週明けに実家に行く予定の週末の電話だった。電話口の父は少し苛立っているようだった。

「なんで今日が1日やねん!」

意味がわからない。今日は10月1日なので。
「家のデジタル時計もテレビも10月1日っていうけど、今日は8日じゃないのか。」
さらに意味がわからない。なぜそんなに証拠がそろっているのを確認してなお8日だと主張するのか。逆になぜ8日だと思えるのか。
「お父さん的には8日かもしれんけど、世間は1日で動いてるからなあ。」「もうええわ!」・・・こっちこそもうええわ、やわー。
思い込みで暦までいじりだすとは予想外。

週明け実家へ。地域包括センターの担当の方にも時間をとってもらった。
父の急激な変化に困っていること、とにかく弟が無事勤務できるようにしたいこと、わたしが遠方住みのため頻繁には来られないこと等々、じっくり話を聞いてくれた。ありがたい・・・。
早々に介護保険の申請もしてもらうことになった。
そして弟の家事負担を少しでも減らすため、高齢者ようの配食サービスを紹介してもらった。これなら介護保険に関係なく利用できる。
父の食事の心配をしなくていいのはかなり助かる。
考えてみれば当然のことなのに、教えてもらうまで頭に浮かばなかった。
うちの父は割と料理をする人だったので、今までそこを心配したことがなかったのだ。食事さえきちんととれていれば、「買い物にいかなくては」という焦りも減るだろう。早速翌日から配食をお願いした。
翌日、配食の受け取り方、電子レンジの使い方、器の返し方などをいっしょに確認。味も好みにあったらしい。よかった。

「いつになったら外出してもええの?」
まあ、昼一人で家にいるのは退屈だろうなあ・・・。
「顔の内出血が引くまではちょっとあかんなあ。脳内出血もこわいし。」
「ふーん」

このとき、父の中で新たな『思い込み』があったことに、わたしは気づかないまま帰宅したのだった。

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