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薄紫のとばりの向こう

春の花といえば多くの人が桜を思い浮かべるのだろうが、私は藤の花が大好き。

桜が散って少ししてから見頃を迎える藤の花。垂れ下がる房がカーテンのようで、優しい春風になびく姿が本当に美しいと思う。陽の光を受けて薄紫の影を作り、人を温かく受け入れる。

去年、三千院の方を旅行したとき見た山藤に魅了されて、今年も藤の花を見に行ってきた。今回は宇治の平等院。世界遺産と藤の花の共演は実に見事で、明るい日差しとしっとりとした藤、そして堂々と雅な鳳凰堂のコントラストが最高だった。

この季節見頃を迎えるのは藤だけではなく、鮮やかに咲くツツジや可憐な山吹、洒落た花をつけるボケの花なんかも綺麗。また、花々に負けじと陽の光を集めているのは青紅葉で、最高に明るい黄緑の葉に心が躍った。

自然が色とりどりで華やかな季節。日本の春は、いつでも素晴らしい。

ベンチに座って藤の花を眺めると、ふとした瞬間目の前の景色を怖れる自分に気づく。藤の花弁が波のようにこちらに迫ってきて、その美しさと芳しい香りに飲まれそうになる。 美しすぎて、少し不気味なような、異世界に誘われそうな妖しさ。

人間は花を見て美しいと言うけれど、花からしてみたら美しくあるのは種の保存のためで、美しくあることそれ自体が目的ではない。美しさや良い香りに誘われた他の動物たちに花粉を運ばせて、自分たちの子孫を残す。打算的で、利益のための美。

美しくなければ生きていけない。

妖しく毒気ある美しさの理由は、こういったところにあるのだろうか。

兎にも角にも、藤の花はこの上ない美しさだった。
将来は、小さくていいから、庭に藤の花を植えたいなと思った。

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