日本を覆う氷河期世代の呪い
日本を静かに蝕んでいる呪いがある。それが氷河期世代の呪いだ。
氷河期世代とは25年前からおよそ10年間続いたバブル崩壊による経済不況時に社会へ出た世代のことだ。少子高齢化による人手不足により、大卒就職率が97%となった令和からは想像もできないことであるが、当時は大卒でも10人中4人が正社員として就職することができなかった時代だった。
就職に失敗した氷河期世代は、フリーターや派遣社員といった非正規雇用の道に進むしかなく、たとえ就職できた氷河期世代も、今とは比較できない過酷な社会人成果を余儀なくされた。
氷河期世代を今なお蝕んでいるのが『お前の代わりはいくらでもいる』という呪いである。高度経済成長期を生きた団塊の世代の下でうまれた氷河期世代は、その数が非常に多かった。そして氷河期世代が社会に出ようとするまさにそのタイミングでバブルが崩壊し、就職氷河期が到来した。
企業で働く団塊の世代を筆頭とした社員たちは、自分たちの雇用や給与を守るためにそれまで行っていた新卒社員の大量雇用、高卒の青田買いを一気にやめた。そのため、数が多い氷河期世代の若者たちを受け入れられる雇用先が足りなくなってしまったのだ。その結果、社会には正社員の職を求めて右往左往する20代の若者があふれることとなった。
就職戦線は空前絶後の買い手市場となり、バブル期にはパーティを催して企業が学生に『うちに就職してください!』とお願いしていたのが、180度変わって『お前の代わりなんていくらでもいるだぞ?』と学生を値踏みする時代が始まったのである。
事実、それなりの大学を出たにもかかわらず、もろくな就職先を見つけることができずにくすぶっている若者で町はあふれかえっていた。お前の代わりはいくらでもいる、という企業の言葉は真実だったのである。当時はそれなりの規模の会社が求人を出せば、20代の若者からの申し込みが殺到する時代であった。
つまり、企業は無限に来る申し込みの中からいくらでも若者をえり好みすることができたのである。フリーターの期間があったり大学を中退しているなど、経歴に少しでも傷があれば容赦なく不採用にされた時代であったのだ。氷河期世代は企業から完全に足元を見られていた。そのことを身をもって知っていたからこそ、氷河期世代は非正規雇用になって経歴に傷がつくことを過度に恐れ、ブラック労働にさらされても退職したり転職したりすることがなかなかできなくなっていったのである。
当時は『石の上にも三年』という言葉が尊ばれ、どれだけブラックな企業でも最低3年は努めて成長しておかないといけない、という価値観が蔓延していた。すぐにやめては転職の際に企業から『こいつはすぐに会社を辞める根性がない奴だ』と見なされて採用されづらくなるからである。
ブラック企業なんかすぐにやめて転職すべき、と言われる今から見れば、当時の社会は明らかに狂っていた。ブラック企業に長く務めたばかりに、心や体を壊してしまった氷河期世代は、20年たった今でもその後遺症に苦しめられている。
今ではすっかり不人気職の代名詞となった教員や保育士、介護士なども、当時は公務員!資格職!と首になりにくい職種として人気が出るほど、民間企業への不信感が若者の間に広まっている時代であった。なかでも公務員である教員の人気はすさまじく、大阪でも教員採用募集がかかればその倍率は10倍を優に超えるレベルであった。
当時の子供たちのなりたい職業の1位は野球選手でもサッカー選手でもなく公務員であった。Youtuberがなりたい職業1位になる今のほうがよほど健全な社会といえるだろう。10年も続いた長すぎる経済不況は日本社会そのものをすっかりディストピアに変えてしまっていたのである。
さらに氷河期世代にかけられた呪いはまだほかにもある。それは年相応の給与が得られていないという現実だ。あれだけ過酷な労働に晒されたにもかかわらず、氷河期世代の給与はバブルを生きた上の世代、少子化による人手不足で待遇の改善した下の世代に比べ、明らかに少ないのである。
氷河期世代はせっかく正社員として仕事を得ても、不景気のため下の世代がなかなか自分の部署に入社してこなかった。さらに事業の縮小などで就くはずだった多くのポストを失った。その結果、先輩や上司としてのマネジメントスキルを磨いたり、出世して役職を持ったりする機会を得られなかったのである。
当然昇給率も団塊の世代ほど高くはならなかった。さらに入社時に初任給も昇給が前提の安月給スタートであったため、その合わせ技で氷河期世代の給与はほかの世代に比べて年齢と加味すればとても低いのである。
さらに追い打ちをかけるのが、人手不足を解決するためにZ世代を呼び寄せるための初任給の引き上げた。若い世代の給与をアップさせるために、どうせ今更辞めないだろう、と会社から見下ろされている氷河期世代の給与が削られているのである。
このように、氷河期世代には今なお数々の”呪い”がかけられている。だがしかし、実は氷河期世代にかかわる”呪い”にかかっているのは、当事者の氷河期世代だけではない。ほかにも多くの人々が氷河期世代を取り巻く呪いにかかわり、そして蝕まれているのである。
氷河期世代の呪いがかかっている今まさに苦労しているのが……
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