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氷河期世代は何に怯えているのか?

次期総理大臣を選ぶ自民党総裁選において、予想外の事態が起きている。それが当初飛ぶ鳥を落とす勢いであった小泉進次郎議員の失速だ。

失礼極まりないフリー記者のインタビュー事件を追い風に受け、総裁へ向けて驀進していた進次郎議員にいったい何が起きたのだろうか?失速の大きな原因の一つに挙げられるのがその政策だ。

進次郎議員の政策は解雇規制の緩和(のちにマイルドになるよう訂正はしたが)など、ネオリベラリズム、新自由主義的寄りなものが多かったのだ。それに対し、意外なほどに世間の風当たりが強かったのである。特に進次郎議員の新自由主義的政策を快く思わなかったのが氷河期世代だ。

なぜ氷河期世代の中年たちは、自分たちと同世代である総理候補の進次郎議員にノーを突き付けたのであろうか?その理由が氷河期世代が最も恐れていることに進次郎議員が触れてしまったからに他ならない。

あの10年以上続いた極寒の就職氷河期を乗り越え、令和まで生き抜いてきたたくましい氷河期世代たち、彼らが最も恐れるものはなんだろうか?それはズバリ『正社員の座を失うこと』である。

売り手市場の今からは想像もできないだろうが、氷河期世代が20代のころはそれなりの大学を卒業しても正社員になれない若者が社会に溢れていた。彼らはフリーターや派遣社員として非正規雇用で働くことになり、低賃金で長時間の労働に晒されることとなった。飲食店での過労死などが大きな問題になった時代である。

氷河期世代の多数派である正社員の中年たちは、就職に失敗した同世代が非正規雇用の沼に頭まで沈んでもがいている姿を目にしながら生きてきた。今は正社員だが、若いころに数年間はフリーター生活を余儀なくされていたものも少なくない。

氷河期世代にとって正社員の椅子は非正規雇用沼に落ちないための命綱であった。そのため、氷河期世代の正社員たちは、何があっても正社員という綱を握りしめて離さないように生きてきた世代なのだ。

氷河期世代が20代~30代のころ、社会ではブラック企業が跋扈していた。灰皿を投げたり殴ったりといったパワハラや、残業代もろくに支払わずに長時間労働をさせるなどといった違法労働が当たり前に行われていた時代だったのだ

なぜ当時はブラック企業がデカい顔をして『人はありがとうを食べて生きていける』などと説法することが許されていたんだろうか?それは氷河期世代の若者たちが、正社員の立場を失うことを過度に恐れ、会社側の無茶な要求や扱いをすべて受け入れざるを得なかったからである。

強制参加の飲み会で一発芸を強要され殴られたり、朝8時から夜の10時まで働かされる過酷な、まるで奴隷のような労働環境だったとしても、夜勤ワンオペフリーターよりはマシだ。そんな狂った労働環境が社会に受け入れられていた時代を氷河期世代は生きてきたのである。

氷河期世代にとっての正社員の看板は、必死に守ってきたステータスであり、人生の安定を意味する称号となっているのである。正社員であり続けることしか、氷河期世代が安心して生きていく道はなかったのだ。解雇規制の緩和は、その称号を剥奪されるリスクを氷河期世代に連想させてしまったからこそ、社会から否定される結果となったのである

氷河期世代といえば、とにかく不遇な人が多い印象で語られるが、実は7割は子持ちであり、その多くはある程度安定した収入を持ち、マイホームを買い家族とともに生活している。子なし独身のロスジェネ世代もいるが、その数は子持ちの半分程度なのだ。

氷河期世代で人生の駒を進められた者と進められなかった者、その差はどこにあったのか?そう、それが正社員になれたかどうかだったのだ。筆者と同世代でまだ独身の友人は数名いるが、彼らはみな非正規雇用で年収400万に満たない。

今はモテなければ恋愛も結婚もできないと嘆く若者が多いが、氷河期世代のころは不安定な収入の男性が多すぎたため、まともな会社に正社員で勤めているだけで非常に大きなインセンティブを得ることができたのだ。氷河期世代にとって正社員であることは一種の"階級"であり、特権でもあったのである。

氷河期世代にとって、正社員であることは人生の成功と失敗を分ける決定的な要因だったのだ。だからこそ、氷河期世代は正社員の座にしがみつくことに今も必死なのである。氷河期世代は時代が変わった今も、あの就職氷河期のころのトラウマを抱え、非正規雇用に堕ちることに怯え続けているのである。

進次郎議員は最も数が多い、政治的イニシアティブを握る氷河期世代の多数の最も脆くて柔らかい、デリケートな部分を不用意に刺激してしまったのだ。

今回の進次郎議員の予想外の失速は、奇しくも日本の未来の形を浮かび上がらせることとなった。それが"氷河期世代の逆襲"が起こりうる未来だ。

団塊の世代からは軟弱者と侮られ、Z世代からはうだつの上がらないおっさんと嘲られる氷河期世代の反攻がまさにこれから始まる可能性が高いのである。

なぜ氷河期世代が今頃になってそんな力を持つに至ったのか?それは......

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