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ボアネルゲ

わたしはあなたのほかに
だれを天にもち得よう
地にはあなたのほかに
慕うものはない

 朝から雷雨の予報が出ていた。曇り空の下、僕は髪の毛を逆立てながら懸命に走っていた。僕の人生は今始まったばかりで、そんなに急ぐ必要もないのに、気がつくといつも息を切らせて走っている。走っていると、怒りが血液に溶けて身体中を駆けめぐり、いつしか僕は怒りの中に取り込まれていく。
 母が言うには、僕は生まれたときから何かに対して怒っている子だったという。お腹が空くと真っ赤になって泣き、おっぱいを飲む時も、まるで怒っているようにフガフガ言いながら飲む。だからちっとも栄養にならず、やせっぽちで貧弱な赤ん坊だったらしい。少し大きくなると今度は、誰かがケンカをしていると飛び込んでいってボコボコにやられて帰ってくる。年上だろうが、年下だろうが、相手が悪いと思ったら、謝るまで組み付いて離れない。さらに身体が大きくなると、カッとなったら見境い無しに拳を振りあげて、つかみかかっていくので生傷が絶えない。そのうち滅多なことでケンカに負けなくなって、母は毎日、隣近所に頭を下げていた。それでも母はそんな僕を、わりと肯定的に育ててくれたように思う。だからそのおかげで僕は中二になった今でも、自由に怒りまくっている。 家族は僕のことを、聖書に出てくる言葉から「ボアネルゲ」つまり雷の子と呼ぶ。

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