見出し画像

私は二階に住んでいる

私は二階に住んでいる。
お気に入りの帽子をかぶっている。
人に見られる仕事をしている。
私にはライバルがいる。
彼は一階に住んでいる。
彼もお気に入りの帽子をかぶっている。
私たちはいつもスポットライトの取り合いをしている。
私が注目される時があれば、彼が注目される時もある。
でも私は彼とは違う。
私は彼より魅力的だ。
彼を見た人々は足を止めずに去っていく。
私を見た人々は足を止めてくれる。
まるで何かを待つように。
待ち焦がれるような視線を容赦なく私に向けてくれる。
私はそれが嬉しかった。
私の存在をみんなが認めてくれているかのようで。
その時は調子に乗っていた。
それを後悔する事になった。
ある日の事だ。
私はいつも通りスポットライトの下でポーズを決めていた。
それをみんなが静かに見ていた。
だが、一人だけ私に見向きもせずに歩いてきた。
その時だった。
その人の体がぶれた。
まるで獣の金切り声のような不快な音と共に。
次の瞬間その人が血を流して倒れていた。
私はこの時の事を今でも鮮明に思い出せる。
私は後悔した。
私がもっと人を惹きつけることができていれば。
私にもっと魅力があれば。
私が見下していた一階の住人はこんな失敗をしたことがない。
彼は謙虚で誠実だった。
きっと私は彼に嫉妬していたのだ。
自分一人でもやっていけると思っていた。
それが慢心だと気づかずに。
彼がいないと私の存在価値もなくなる。
それから私は新しい帽子を買った。
心を入れ替えて働くためだ。
一階の彼にも同じ帽子をプレゼントした。
もう二度と同じ過ちを繰り返さないために。
私たちはこれからもスポットライトを浴び続け、人々の目を奪い続ける。
私たちは二人で一つの信号なのだから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?