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二次創作と著作権侵害【弁護士監修記事】

TwitterのTL上に好きなキャラクターのイラストや二次創作マンガをアップした経験はありませんか?

特に、イラストレーターや漫画家といった方たちの間で、二次創作はごく一般的に行われている行為といってしまってよいと思います。

ただ、二次創作というものは非常にデリケートな問題を孕んでいる表現です。場合によっては大きなトラブルを引き起こす原因になることも……。

そこで今回は、弁護士・河野冬樹先生(@kawano_lawyer)監修の下、二次創作に潜むリスクについて解説を試みたいと思います。

ゲームのキャラクターと二次創作

二次創作の形にもいろいろなものがありますが、ここではゲームのキャラを使った二次創作について考えてみましょう。

というのも、先日、友人はこしろさん(@white_cube_work)から、こんな質問を受けたからです。

Q:ゲームのキャラを使って二次創作を行い、SNSにアップするのって著作権侵害になるんですかねえ?

そりゃまあ、気になりますよね。

だって君、この間某ゲームのアレでものすごくバズったし、何ならネットニュースにも取り上げられましたしね。

私としても、彼女が公式様に詰められる姿は見たくありません。

…ですが。

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結論から申し上げます。少なくとも今回のような場合、答えは「フツーにアウト」です。

二次創作はグレーと言われることがありますが、何のことはない。本件のようなケースでは、一点の曇りもなく真っ黒です(笑)。

なぜそんな結論になってしまうのでしょうか。以下、まじめに考えてみようと思います。

ゲームのキャラは「著作物」?

まず、そもそもの前提として、ゲームのキャラが著作権法上の「著作物」にあたるのかについて検討する必要があります。仮に「著作物にあたらない」とすると、そもそも著作権法で保護される対象にならないからです。

そして、ここからがテクニカルなお話。実は、ゲームなどに登場する「キャラ」そのものは「著作物」にはならないとされています。

たとえば、キャラの名前だけを借りて、まったく別の作品・キャラを作っているような場合は著作権侵害とは言いがたい(場面描写などまで似ている場合はもちろん別ですよ!)。

しかし、「キャラ」を描いたイラストなどの表現物は「著作物」に該当し、著作権法の保護を受けます。

つまり、ゲームのキャラというよりは、ゲームのキャラを描いたデザイン画などが保護されるイメージですね。

二次創作の法的位置づけって?

それでは、ゲームのキャラを描いたイラスト(この場合は、ファンが自主的に描いたもの)の法的な位置づけはどのようなものになるのでしょうか。もともとの著作物に、新たな創作を加えて誕生した作品を「二次的著作物」といいます。

で、この「二次的著作物」にあたるのかという判断についてなのですが、二次創作で描かれたイラストは、当然のことながら元々のイラストの特徴を踏まえ、なるべく似せて描かれているわけでして。

明らかに、著作権法にいう「二次的著作物」にあたると考えられます。

二次創作って違法なの?

それでは、二次創作もとい、二次的著作物を作ることについて、法律上どのような問題があるのでしょうか。

実は著作権法上、著作権者には、自分の著作物を勝手に改変・翻案されない権利があります。

つまり、著作権者に許可なく、もともとの著作物にアレンジを加えた二次的著作物を生み出す行為は、著作権侵害(具体的には、翻案権や同一性保持権の侵害)に該当する可能性があるのです。

特に既存のイラスト・漫画をベースにして、イラストや漫画で二次創作をやるような場合、当然元の絵柄に寄せますよね。そのため公式による二次創作ガイドラインがあるといった特段の事情がない限りは、アウトになる可能性が高いわけです。

※アニメをもとに夢小説を書いたり、なろう小説に触発されて自主的にイラストを描いたりするようなケースはまた別なのですが、それについては今回は割愛します。

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いやいや「私的利用ならセーフでしょ」という方もいるかもしれませんが、SNSに作品をアップする行為は、不特定多数の目に触れる時点で「私的利用」の範囲を超えているんですよね。

なので、商用目的かどうかに関わらず問題になります。私的利用であるかどうかと、商用目的かどうかはまったく別の話なんです。したがって、「私的利用だからOK!」という言い訳は通用しません……。


結論:今回のようなタイプの二次創作は著作権侵害になるおそれが極めて高い

発表したイラストが「元となったキャラクターの本質的な特徴を残している」といえる限り、著作権侵害に該当する=違法になるケースが多いと言わざるを得ません。

そして、二次創作のイラストというのは、元のキャラクターに似せて、というか特徴をとらえて描くのが一般的ですので……。

原作の著者に訴えられたらアウトになる可能性が高いといえます。警察に逮捕されるかもしれないですし、もともとの著者に「賠償金を払え」といわれても文句は言えません。

今後に向けてのアドバイス

ただし、著作権侵害は親告罪とされており、告訴がない限り刑事事件として訴追されることはありません。また、民事でも訴えられるケースはそこまで多くないようです。

つまり、違法は違法だけど、実質黙認されている状態であるといえます。

なぜこんな運用になっているのかというと、いちいち訴えるのが面倒という事情もあるでしょうが、それ以上に著者側のメリットが大きいからだと考えられます。二次創作には「作品の宣伝につながる」という面もありますので。

だってさ、みんな推しの作品には惜しげもなくお金を落とすし、がんばって布教活動もしますでしょ。実際、心当たりのある方も多いんじゃないでしょうか?

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もっとも、著者の許可を取らずに行う二次創作は場合によっては問題になる可能性がある行為です。特に、すでにある漫画やイラストをベースに、漫画同人誌や二次創作イラストを制作するような場合は、違法になりやすいといえます。

違法な場合でも何も言われないのは、作者の優しさや好意によって見逃してもらっているからです。

二次創作をする場合は、本来であれば著者の許可を取るべき…というのが筋。

クリエイター側としては決してそのことを忘れてはなりません。

もし「それでも、やる」というのであれば、(トラブル回避のためにも)せめて著者の利益を損なわないような配慮をするべきだと考えられます。

グータラこたつライター・ぽな氏の補足

過去には、ポケモン同人誌事件やドラえもん最終話同人誌事件のように、公式を怒らせてトラブルに発展したケースもないわけではないです。いずれも、公式にとっては「不利益が発生した(ないし発生する可能性のある)」と思われる事案でした。

特に、ポケモン同人誌事件については、作者である女性が著作権法違反で逮捕される事態に発展しております(なお、最終的には10万円の罰金刑が確定)。

ドラえもん最終話同人誌事件については刑事事件にはならず、民事の方も示談でカタがついた模様。ただ、作者側には、公式側への謝罪はもちろん、売り上げの一部の上納、在庫破棄といった厳しい和解条件が突きつけられることになりました。

※なお、著作権関連の法律問題はケースバイケースで結論がわかれる場合も多く、実際にはプロに訊かないとわからない…ということも多々あります。実際にトラブルに巻き込まれている方、巻き込まれるかもと不安な方は、早めに弁護士にご相談ください。



河野先生ご本人のコメント

本記事の監修に関してキレッキレのコメントをくださった河野先生が、Twitterで超タメになるツイートをされていました。二次創作に関わるイラストレーターさん・漫画家さんは必読です。

最近では二次創作ガイドラインを作っているコンテンツもあるようですが、なかなか事は単純ではないようです。実務家ならではの苦悩が伝わってきます……。

※ツイート転載にあたり、ご本人の許可は取っています。ご快諾くださり、ありがとうございます!

謝辞とあとがき

この記事は、まず、はこしろさんが私に解説記事執筆の依頼をし、私がその対価としてグラレコ作成をお願いして実現したものです(まさかの物々交換!)。

そして、河野先生は私の顧問弁護士でいらっしゃいまして、そのご縁から本記事の監修を引き受けて下さいました。

数々の鋭いコメントで、著作権法の奥深さを教えてくださった河野先生。

かわいらしく楽しいグラレコを描いてくださった、はこしろさん。

本当にありがとうございました。

グラレコや本記事をきっかけに、著作権法のやっかいさ・おもしろさを体感していただけたら嬉しいです。

追記【2020年11月30日 更新】

より記事内容中の記述に正確性を記すため、本文の加筆修正を行いました。今回のようなケースは違法のおそれが高い事例でしたが、なかには著作権侵害にあたらないようなタイプのファンアートも存在しうるからです。文脈を離れて誤解を招きかねない表現があったため、前後関係を考慮しながら文章を練り直すことになった次第です。今後とも情報の精度を大切に、頑張って良い記事を出せるように精進いたしますので今後ともよろしくお願いいたします。

最後まで読んでくださり、ありがとうございます。 もしサポートをいただけました場合、関係者への謝礼や資料費に使わせていただければと思います。 これからも良記事を書けるように頑張りますので、引き続きよろしくお願いいたします。