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歪を大事にしたい

踏んだ眼鏡を修理に出した
メガネ屋さんに壊れたメガネを見せると、あらあらと悲しんでくれる
メガネを大事にする人に悪い人はいない気がする

そしてそのまま修理に出す気でいたのにどうにかここで最善を尽くそうとしてくれる
優しい
単なる視力お助けアイテムというより、もっと大事な、それこそ体の一部かのような扱いだった

ただの物でも、きっと誰かの物になった途端それは宝物になる
なんとなくそのことをメガネ屋で気付かされた

人との関わりは気付かされることがあって面白いなと思った

そうして、悲しい顔をした店員さんが呟いた

「頑張ったけどこれ以上は無理そうです」

これが病院での会話なら悲劇だが、メガネ屋なので喜劇で済んでいる
そんなに悲しそうにしなくてもいいのに、と少し笑ってしまった
優しい人だ

すごく申し訳なさそうに修理の説明をしてもらった
どうやら1ヶ月くらいはかかるかも、修理内容によっては数日で終わったりもするとのこと

了承をし、宝物を預けて帰る

元々修理ではなく買い換えることを夫から提案されていたが、父親が買ってくれたこの眼鏡が良かったのだ

家に着いて、昔使っていたメガネを引っ張り出す

この眼鏡をかけていたのは新社会人になってからと数年間かぁ、とぼんやり思い出に浸る

これも宝物だなぁと感じる

ただのボストン型のメガネだったが色んな色が混じっていて綺麗なのだ
お客さんから伊達メガネだと疑われたり、同僚からは丸メガネもどきだと言われたりした

ただのオシャレなメガネじゃなくて、自分と同じ時間を過ごしてくれた相棒だ

そして現在修理に出されているのがラウンド型だ
もっというと楕円形
これは丸メガネもどきと呼んだ同僚に、本物の丸メガネもどきとは何かをわからせるために買った

が、結局1番似合う最強メガネとなった

そして古いメガネは度数が少し合っていないことに気づく
メガネを置いて自分だけ変わってしまったんだなと、悲しいのかなんなのかよく分からない気持ちになった

そして度数が合わない昔のメガネをかけて数日過ごしていると、早くも修理から帰ってきましたと連絡が来た

引き取りに行く途中、自分の欠けた一部を探しに行くようなこれまたなんとも言えない気持ちになった

お店について、内容を伝えた数分後
「こちらでお間違いないですか?」と、元のメガネの姿になった丸メガネもどきが現れた

照明のせいか、いつもよりキラキラと光っていた

修理された部分は1度切り離し溶接し直した跡があり、少し凸凹としていた

その歪さがなんとも愛おしい
誰かの手によって治してもらったのだろう
心の中でおかえりと呟く

「かけてみてもいいですか?」と聞くと快く了承してもらった
店員さんも笑顔で帰ってきたメガネをかけている自分も笑顔で、付き添いの夫も笑顔だった

この瞬間をCMにされても違和感が無いほどに暖かいシーンである

少し歪で綺麗なメガネは、昔の綺麗な頃の姿より素敵で自分に似合っていると思った
度数もバッチリで視界良好、また頑張れるぞという気持ちになった

そしてそのままお会計まで待機

メガネ屋での待ち時間は新しい出会いの時間だ
ゴツすぎるメガネや、昭和の漫画家のようなメガネ、透明すぎてもはやかけてないメガネなどいろんなメガネと出会った

夫が、「やっぱりあのメガネが1番似合ってたね」と言う

「やっぱりそう?」と答えた後、他のメガネを見るのはやめた

お会計の後、丸メガネもどきをかけて帰った
いつもより世界が明るく、はっきり見えた気がした
きっと間違いなくこの眼鏡は宝物だ

そう確信したのは、いつもより自分の足取りが軽かったから

全ての物はただの物では無く、思い出がある

そうやって思い出が重なった物は、
少し歪で愛おしいのだろう

そしてそれは、どれだけ歪になっても宝物であることに代わりない

帰ってきたマイメガネ



ぺしゃんこにした時のエッセイもあります
よければご一緒にどうぞ

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