ボブ・ディランを聴いてみる

最近ボブ・ディランを聴いている。僕が主に関心を寄せているのがその歌詞だ。というのも周知の通り、彼は2016年度にノーベル文学賞を受賞しており、僕の文学的関心が掻き立てられてしまうのだ。今回はそんな彼のあまりにも有名な曲”Blowin' in the Wind"についてのちょっとした感想を綴っていきたい。歌詞はこんな感じ。

How many roads must a man walk down
Before you call him a man?

Yes, ’n’ how many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?
Yes, ’n’ how many times must the cannonballs fly
Before they’re forever banned?
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
How many years can a mountain exist
Before it’s washed to the sea?
Yes, ’n’ how many years can some people exist
Before they’re allowed to be free?

Yes, ’n’ how many times can a man turn his head
Pretending he just doesn’t see?
The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind
How many times must a man look up
Before he can see the sky?

Yes, ’n’ how many ears must one man have
Before he can hear people cry?

Yes, ’n’ how many deaths will it take till he knows
That too many people have died?

The answer, my friend, is blowin’ in the wind
The answer is blowin’ in the wind

太字部分が中でも好きな歌詞だが、いずれも不自由を強いられた者たちの自由への眼差しが感じ取れる。歌詞が同じ型の繰り返し(How many~, Before~, The answer~)であることは、型から抜け出せない不自由な人々を暗示しているのだろうか。"How many roads must a man walk down  Before you call him a man?"  は自由を持たない人は人間ではないことを聴く者に突きつけ、自由と人間たり得ることの関係について考えさせる。この長大なテーマを初っ端に投げかけるところに曲の力強さを感じる。"How many times must a man look up  Before he can see the sky?"  は空ですら万人に開かれていないと投げかける。我々は普段見ている空ですら空ではないのか、絶えず不自由に縛られて生きているのか、そんなことを思わせる。
しかし、そんな悲観はblowin in the wind(風に吹かれて)によって消え去ってゆく。曲中のハーモニカの音色はそのwind(風)を強めている。自由と不自由の二項対立は風に吹かれて解消し、それらを乗り越えた先にはイデア的な世界が広がっているよう。The answer(答え)はイデアの世界にしかない。プラトンからカントに至るまで西洋哲学が取り組んだイデアの問題の「答え」はこの歌の中にあるのかも知れない。

こんな解釈をしている中、昨日リチャード・F・トーマスの『ハーバード大学のボブ・ディラン講義』を読んでいたら、どうやらこの曲は公民権運動とベトナム戦争の反戦運動と結びついていたらしい。(ディラン自身は否定しているらしいが)僕はその時「時代や文化によって古典のテクストの解釈は異なる」と実感した。ディランはギリシャ・ローマ文化に関心を寄せており、作詞にはウェルギリウスなどの詩人を参考にしているようだ。その結果がノーベル文学賞受賞に繋がったのだろう。その意味でディランの歌は古典と見なされておかしくないものであり、だからこそテクストの多義的な解釈を許しているのではないかと思う。

曲が心の中に作り出す新たな世界を求めて今日もディランを聴く。




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