見出し画像

文学フリマ京都7の思い出 2/3【希里峰の苗床:無料配信】

二日目:はじまり、はじまり!文学フリマ京都7

初遠征は初ぼっち参戦!

 5:30起床。宿の窓から見える空は、まだ真っ暗。
 日課の軽い筋トレをして、散歩をして、コンビニで朝ごはんを買って、淡々と出発準備をした。
 荷物の点検をしたところで、ようやく朝ごはんを食べる。

運動のあとはプロテインですよ

 いつも店番等のお手伝いを頼んでいるスタッフ(=家族)は、にゃんこ社主の御世話のためにお留守番をがんばってくれている。おそらく、そろそろ起きだして、まずはにゃんこのトイレをお掃除、そのあとカリカリごはんとお水を用意して、人間は一番後回しといういつもの朝を過ごすのだろう。バターとメイプルシロップをたっぷり塗ったトーストと、牛乳を多めに入れたインスタントコーヒー。そこにカップに入ったブルーベリー味のヨーグルトを食べるのだ。
「あ……そうか、それだったか」
 あらたかた食べ終えてから、自分の朝ごはんにヨーグルトを用意するのを忘れているのに気付いた。
 たかが朝食。けれど、たった一品でも、いつも通りに用意できないと寂しい。気心の知れた人が隣に居たなら「ヨーグルト、忘れてるよ」と教えてくれていたかもしれない。
 文フリ東京に二回出店して、あらかたの手順や心得は頭に入っているから大丈夫と気持ちの準備は万全なはずだったのに、やはり一人ぼっちは心細いものらしい。軽く鼻をすすってから、しっかりしろ社長!と気合を入れた。

 昨日のシミュレーションは復習まで抜かりなくやったので、予定通りの時間に宿を出発した。乗換もバッチリ、人の波に流されてしまうこともなく、スムーズに進む。一度大きく間違えていたので、反って自信につながったようだった。

 みやこめっせ最寄り駅に着くと、似たような荷物を持ってる人々が増えてくる。間違いなく出店者だ。こういう時はしれっと知り合い風の顔をして後をついていくと、間違いが無い(不審者リストに載らないよう、エチケットは厳守)。
 お留守番係に教えてもらったエレベーター乗り口も難なく見つかり、昨日歩いたよりも短いルートでみやこめっせに着いた。
 ここまでで昨日までの苦労が七割がた報われた気でいた
 なにせ予想時刻よりもだいぶ早く着いてしまったのだ!
 店番中の栄養補給用プロテインバーとドリンクを購入し、トイレも余裕で済ませて、出店者受付列に並んだ。


とてもアットホームな会場!

 ブース設営は、おうちでの練習と二回の本番を経ているので、ひとりでもちゃっちゃか済ますことができた。

『コトコの言霊』の在庫があんなにもたくさん……

 ご近所ブース様にご挨拶に伺ったんだけど、ここからもう東京とは雰囲気違うなって感じた。
 皆様の作業の邪魔にならぬよう、ショップカードを名刺代わりに恐る恐る御声掛け。けど皆様、ちっとも『声掛け不要ですんで』ってな空気を醸してらっしゃらないのよ!なんなら後ろや二件三件向こう側の方々にもご挨拶できたりして……ここらへん、自他共に認める人見知りにして挙動不審者、まさかのぼっち参戦の私には驚きだったし大変にありがたかった。
 また、ブース数が東京よりも少ないせいか、会場全体を見渡す余裕が物理的にも精神的にもあったのも大きな差となった。
 隣近所だけでなく遠くの島からもご挨拶にやって来てくださる方もあり、雰囲気はスタート前から温もりに溢れている。ガツガツ売りましょうね!ではなく、数時間ではありますが「みんな」で楽しい祭りを作りましょう!みたいな感じか?
 文化祭の前日、お芝居の小道具を作ったり、ポスターを描いて貼って回ったりした、あのマジックアワーのときめきを思い出した。

 今回の会場で、初めて見本誌の提出をした。
 東京ではコロナ禍の影響で見本誌コーナーの休止が続いていた。
 弊社の初出店は昨年の文フリ東京34であり、ブースに見本を置いていたので正直見本誌コーナーってなんだろう?くらいの認識。とはいえ、所定の時間内に回収せずに置くだけで日本大学藝術学部文芸学科資料室へ収蔵されるのだそうで、なんでもやってみたい子としてはチャレンジしない手は無い。
 細く長くお届けしてれば、いずれ手売りと通販併せて100部(オンデマンドだから15部の方?)頒布できたら国立国会図書館へ納本!できる――それを夢のひとつとして掲げているので、疑似的納本気分を味わえるかもしれないという下心が刺激されたというのも正直なところだけど。

 閑話休題。
 見本誌コーナーには一ブース三冊まで出品することができる。
 悩みに悩んだ末、とてもキュートでオモシロ怖いのにあまり売り上げが伸びていない『猫又方途』と『コトコの言霊』をそれぞれ提出した。
 めちゃくちゃ良い本なんですよっ!と大威張りで言う意気地が無い作者なんだけど、それでもつまらない本ではないですよ?とは言いたい……緊張で吐きそうになりながら提出しに行ったら、そこには煌びやかでキャッチ―な装丁の本がズラッとお披露目されていて、地味過ぎて悪目立ちもしない我が子たちの姿に「がんばれ!私もがんばる」とモニョモニョしたエールを送るのが関の山だった。

 図々しく言い訳をさせてもらうと、虎徹書林の本は一応、装丁・組版等のデザイン面においては、作風に鑑みて『今様のサラッとした読み心地と活版印刷時代の本が醸す独特の雰囲気』をちょっとずつ混ぜる方向で企画制作している。
 キラキライラストやほんわかデザイン、ガツンとぶん投げてくるようなインパクトの装丁が主流の昨今の御本の中で埋もれて見えてしまうのは仕方のないこと。全ては承知の上でやっている。
 そして。
 そういう本を見つけて、手に取り、立ち読みしてくださる方が有難いことに、本当の本当にいらっしゃる。でもって、彫刻刀のように鋭い視線で立ち読みして、そのまま立ち去る方はそりゃ多いけど、時々天啓を得たかのように(!)一冊ないしは二冊ほどを選び抜きお迎えくださる方がいるのだもの――こだわりと妥協しないシゴトって刺さる人にはちゃんと刺さるのだなと思う。
 ほんとにありがたいことだ
 イベントが終わった後も「読みました!」「二周目、三周目と読み、その度に印象が変わった」と御言葉をいただくこともある。
 作者冥利に尽きる。これ以外に言葉がない。


ミケパンチ様登場

 会場は終始、和気藹々な雰囲気だった。
 近隣の超人気ブースの順番待ち列があわやトラブルを起こしかけたけど、抑えるところは抑える出店者の皆さんと運営さんの手腕によって大事には至らない。全国展開しつつ各会場で規模を大きくしているイベントだけど、今後も楽しく参加できそうだなと思えるひとコマだった。

 私の頭の中はというと相変わらず「一冊でも売れてくれたら万歳三唱」の構えであった。そりゃあ帰りのスーツケースが空っぽになってくれたならうれしいけれど、それよりも先ず虎徹書林という『たまーに旅する本屋』の看板を誰かひとりでもいいので覚えていただくことの方が大事なので。

 そういうわけだから。
 ハジメマシテの会場の弊社心得に則り、フリーペーパーは全数配布!を目指した。
 自他共に認める人見知り店主だけど、じゃんじゃか手渡ししていった。駅前のティッシュ配りアルバイトはやったことないけど、目の前を通るお客様にひたすら御声掛けしていった。虎徹書林=怖い本売ってるらしいと分かってる方よりも、このブースは一体何なのだ?と予備知識ゼロの方にこそ、名刺代わりのツールを貰っていただく意義があるというもの。お買い求めのない時こそ、無配ツールの出番なのだと己を激励して配りまくった。
 図々しい話だけど……ここだけは、本気で「全人類よ!私は褒められてもいいのではないだろうか⁉」と、ローマ市民に演説を打ち垂れるシーザーになったつもりで訴えたい。

 奮闘の甲斐あり、早々にフリーペーパーが捌けそうになろうかという頃合いのこと。
 ベレー帽がよくお似合いのエレガントな御婦人が御一人、ブースの前にスッ……とお立ちになった。
 正直、超焦った
 えっと、そのぉ……ここは純文学の島ではないですよ?とお節介焼きながらフリーペーパーをお渡ししようかと、回転数の悪い頭の中で接客マニュアルを捲っていると。

ミケパンチともうします
「ヒッΣ( ̄□ ̄|||)」

 人見知りで吃驚し過ぎるにもほどがある。
 前もってブースに遊びに来てくださるとご連絡をいただいていたのに!そういうとこだぞ、あらたまよ(´;ω;`)ウゥゥ

私「ハジメマシテ、ですね」
ミケ様「はい、ハジメマシテです!」

 オリジナルキャラクタおにぎりキッズがあしらわれたサコッシュが、これまたおしゃれなのだ!

おにぎりキッズ以外にもオリジナルキャラクタのグッズを続々発表中のミケ様。ショップのリンク、貼っておきます!
マジで可愛いから!なんならポチッとカートに入れちゃって!!

店主こころの叫び


 いったん打ち解けてしまうと、なんだかハジメマシテの気分が嘘のようにいろいろお話が弾んだのだけど、ここでは詳細についてナイショということにしておこうと思う。私とミケさんとの大切な思い出なのだ( *´艸`)
 そうそう!
 ブースに立ち寄ってくださる方に作品をお勧めくださった折にはとてもありがたいやら、頼もしいやら!!ミケ様登場の瞬間風速で二冊もお迎えされていったという実績を知っていただければ、その威力の程を御理解いただけるのではないだろうか?

 自著の手売りを経験した方の中で私のような悩みを抱える方が少なくないのを最近知ったのだけど……自著のセールスポイントって絶妙に説明するの難しいのだよ。
 その点において、読者様のフィードバック(いわゆる御感想)は作家の励みになるだけでなく、作家自身が気付いていない作風の特色や推されてるポイントを知る貴重なデータ源になるし、未読の方々にとっては作品選びの客観的指針となりうる(ゆえに自作自演やサクラ感想は根絶されねばならないと思っている……)。
「こちらの作品はね――」
 とお客様へ御提案する姿は、まさに読者様の生の声の顕現であり、その一言一言は私が次にひとりで作品をお勧めする際の心強い指針となったのだった。もちろん、その御言葉と誘導術は『次なる広報』へと活かさねば罰が当たろうというものなので、きっちり見て学んだ!

「さすが関西圏の方……いらっしゃいませ系の御仕事ぶりに隙が無いッッ」
 とマジ尊敬するとともに、来年の京都文フリには出店者側で立つミケさんの姿がありありと浮かぶ。

※これは個人的な願望です。
 来年の文フリ京都、ぜひ出店してください!
 絶対あの会場の雰囲気向いてると思うし、作風も刺さる方多いと思うんです(寝る前に思い出して気持ち悪がってください……とか言っちゃう希里峰サンと違って)

店主より私信

 ブース数、約500。
 来場者数、2,424人。
 一月の京都の文学のお祭りは、和やかにして賑々しく、閉幕した。
 虎徹書林ブースの様子は、Twitterで実況していたのだけど、周囲の大盛況ぶりにあやかって、二作品に完売札を出し、フリーペーパーも全数配布の目標を達成できた。

 他二作も持ち込み分の半分以上が読者様の手に渡り、嬉しくて泣きそうになった。特に、文フリ東京34・35で伸び悩んでいた『コトコの言霊』と『猫又方途』が関西圏で温かく迎えていただけたことに、今後の活動の希望を見た気がする。地域によって、作品のお好みが分かれる説……。

 そして、この場を借りて、あらためて近隣のブースの出店者様に深く感謝申し上げる。
 特にお隣の方!蚤の心臓の私にフレンドリーに接してくださり、大変お世話になりました。応援のお友達も仲良くしてもらって……あの一日が楽しい思い出になったのは皆様のお力添えが大きかったのです。


売れて良かった……読者様の声の尊さ

 ここで改めて文学フリマ京都7の私的特筆点を振り返ってみようと思う。今回の出店では店主あらたまの外の視点・意見が大いに反映されたことがとても良い結果に繋がった

 まずブースの設計について。
 各作品のPOPの中に値段以外にも詳しい情報を入れ込んだ。
 具体的には、あくまでも視認性重視でシンプルさを心掛けはするものの、作品タイトルと一言紹介文を付けるという方向性だ。
 前回のPOPは値段だけ、作品に巻いた帯に作品説明を任せたのだが、その方法よりわかりやすくブースに立ち寄るキッカケになっていたようだ。作品を手に取って見てみるという動機から立ち読みまでの流れをスムーズに引けていたように見受けられた。

 そして接客面では、質疑応答集を頭の中に構築していた。
 前述したとおり、自分の作品を説明するのってとてもハードルが高い
 特に虎徹書林の本は「めちゃくちゃ面白いですよ!」と推すには作風がアレだ(;^ω^)。エロもグロもないが、後味の悪さには一定評がある。それを口頭で伝える難しさ!
 今回はお留守番スタッフの意見とぽつりぽつりと頂けるようになってきたお客様の御感想(随時お待ちしています!)とを参考に、問答を想定しつつお答えするように努めた。その結果「そしたらこっちのも一緒に」と一冊厳選ではなく二冊以上まとめてお求めくださるお客様の増加に繋がったように見えた。
 とはいえ、だ。やはりまだまだ経験やフィードバックなど、蓄積が足りてないので想定以上のことに及ぶとすぐに限界がきてしまった(謎の地蔵化現象)。修行あるのみ💦

 上記の補足として……大切なことなので、出店・来店の区別無く、声を大にして何度でも御提案する。リアルな読者様の御声ってほんとに、著者がうじゃこじゃ言うよりはるかに、威力絶大なのデス!
 ミケパンチ様が接客補助してくださった間、ただ漫然とご来店されるお客様が増えたり、お求めされる部数が伸びただけではない。店主がテマエミソで勧めるよりもスピード感が違うのだ。平たく言えば、即決である。
 故に皆様、アナタが素敵だなと思う作品は小説・漫画・イラスト・造型問わず、じゃんじゃかオススメするのがよいデスヨ!課金ばかりが推し活じゃないのだと、肌がびりびりするほど思い知らされたので、これについては今後も各所で強く訴えていくつもり。
 ミケ様、たくさん勉強させていただきました、改めて感謝申し上げます


良き疲れ……いや、何かを忘れている?

 お客様がひっきりなしにいらした、というのも理由のひとつなのだけど、ほとんど自ブースを離れることなく故にチェックリスト作るだけ作ってお買い物行くの忘れた!
 ぼっち参戦でお留守番タイミングがわからなかったとはいえ、お隣近所のお散歩はイケたハズ。バカバカ!

 その大失態に気付いたのは、宿に帰りつき、腹が減ったなあ……とひもじさを覚えた時のことだった。

八条ビールとポテトサラダ
八条ビールとペペロンチーノ枝豆
九条ネギのピザ!

 京都駅構内のビアレストランで始まったひとり打ち上げ会は、実質、己の馬鹿さ加減を呪う大反省会にしてヤケ酒のひとときになってしまった。嗚呼。
 サントリー系の新顔地ビールなのかしら、八条ビールと京都の食材の味が活きた料理に肩をポンポンされるような夜だったなあ……八条ビール、こざっぱりとしてthe日本のビール!て感じでした。ここでしか飲めないと謳われていたので、ビール党の皆様におかれましては京都にお立ち寄りの際、ぜひお試しを。


非常に有意義な京都文フリ参戦デーでした。
やはり手から手への作品のお届けというのは、なんつーか威力が違う
ネットの中で「無料公開して名前知ってもらう」のも良いけど、熱量は対面のお届けには敵わねーよ、と痛感したのだった。


三日目に続く

ここから先は

0字

希里峰の苗床

¥222 / 月 初月無料

更新は不定期 【実店舗を持たない書店】である虎徹書林の活動を読者の皆様にお知らせしたり、書籍化する予定の無い作品をお届けしたりします 原稿…

この記事が参加している募集

文学フリマ

よろしければサポートをお願いいたします!サポートして頂きましたらば、原稿制作の備品や資料、取材費、作品印刷代、販路拡大、広報活動……等々各種活動費に還元、更なるヘンテコリンで怖かったり楽しかったりする作品へと生まれ変わって、アナタの目の前にドドーンと循環しちゃいます♪