柏住宅地空き地農園

農園が日本を土地問題から救う?(1/2 空き地編)

これまで少しずつ世界の都市型農園を紹介してきました。

写真ばかりでその背景を全く述べておりませんでしたが、なぜわざわざ調査・紹介するのでしょうか? それは単に綺麗だな、素敵な取り組みだな、という隣の芝生を眺めるためではありません。

大きな理由のひとつが、いま日本が抱える重大な土地管理問題。

・ひとつは住宅地に増える空き地をどうするのかということ
・もうひとつは2022年に住宅市場に解放されるであろう「生産緑地」と呼ばれる農地をどうするのかということ

です。

まず今回は空き地問題との関係について書いてみたいと思います。

・空き地問題? そんなに深刻?
いま日本には高齢化・人口減少を背景として空き地が増えています。

国土交通省の平成25年土地基本調査によると、高齢化と人口減少を背景に、世帯の所有する空き地は2003年(平成15年)に681km2、2013年(平成25年)に981kmと10年間で300km2増加しているそうです。空き地増加は特に地方都市で見られるものの、都心部50km圏内でも郊外部で空き地件数率が60%を超す自治体もあります。

人口が減っているのに、いまだ勢いあふれて新規開発しているところもあります。首都圏ならたとえば武蔵小杉やつくばエクスプレス沿線などでしょうか。

対して、1960年代~70年代に開発されたニュータウンなどは衰退の一途をたどるところが多くなっています。

全体として減るだけでなく、どこかのまちから新しいまちに人口が吸い取られていけば、空き地が増えるのは必然です。

では、空き地が増えると、なにがダメなのでしょうか?

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まず見た目、すなわち景観が悪くなります。

害虫が増えます。

不法投棄も増えます。気づいたらみなさんの隣にも粗大ごみが捨てられているかもしれません。

そして何より、余剰の土地が多くなって地価も安くなっていきます。これは相当に重大な問題として捉えられています。


・農園として空き地を使うと…
では、空き地を農園として使うとどんないいことがあるのでしょうか。

ここでいう農園は、必ずしもプロとして農業を営む場所を意味するのではなく、むしろ余暇活動としての農作業やフラワーガーデニングのための場です。

まず人の手が入ることにより、荒れなくなります。思い入れのある、しっかり手入れされたところならむしろ美しくなることでしょう。

虫も害虫が増えるというよりは、花粉を運んで生態系に良い影響をもたらすミツバチの飛来などがあるかもしれません。

手入れしたところにはゴミも捨てることはためらわれるようになるでしょう。

これらの効果のほか、さらに、住民の居場所として機能します。
特に共同で使える農園であればコミュニティづくりに寄与して、お互いを見守り助け合う社会の一助につながります。高齢化社会においては、高齢者が外に元気に出てくる理由となり、子育てに苦労している世代にとっては地域ぐるみで子どもの面倒を見てもらえる場所となります。結果として活気のある住宅地にもなり、住みたい人も増えて、空き地増加も多少なりとも防げるかもしれません。

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↑公園が少なく子供の遊び場や祭りの場に困っていた地域で、公有の空き地がみんなの場所になった「自由広場」(柏市)

そんなの焼け石に水だと思うかもしれません。実際に農園が直接的に種々の問題を解決することはほぼないでしょう。しかし、こうしたボトムアップの事例が広がっていって、ムーブメントとなりつつあるまちがあります。

・農園で返り咲きつつあるまち、デトロイト
空き地を農園としてまちの再活性化に使っている有名な事例に、アメリカのデトロイト市があります。
自動車産業が撤退し、白人系アメリカ人が郊外や他の都市に移り住んだ結果、低所得者の住民が残され、まちが荒廃しました。

かつて2010年に研究チームで訪れたときも空き地空き家が多く、車で移動するのもとにかく危険と言われていました。

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しかし、すでに萌芽的に空き地を活用した農園の取り組みは始まっていました。たとえば教会が中心になって、食事を住民に分け与える取り組み(スープキッチン)から始まったものなどがありました。

その後、空き地を使って本格的な農業を行ったり、コミュニティガーデンとして使って人々をエンパワーメントしたりしたことがささやかでも一因となったのか、復活の兆しが見えようとしているようです。

この件については結構記事が世に出回っているのですが、私自身もまた近々調査にいけそうですので、最新の状況を書ければと思います。

・市民緑地認定制度

そんななか、市民がつくるこうした民有の緑の空間を公園に準じるような公共空間として認め、みどり法人が運営する場合、税制面での優遇を図る市民緑地認定制度が2017年に始まりました。緑化地域又は緑化地域重点地域に限定されるという縛りはありますが、こうした制度はますます整っていくかもしれません。

これからはみなさんの住宅地の空き地も、素敵な農園に変わっていく・変えていけるかもしれません。自分たち自身で、身近なところからまちをよいものにしていける、そんな時代が来ています。

みなさんの身近にも使えそうな空き地があれば、近所の人々や自治体と相談しつつ、ささやかなことからやってみると、自分にとってもみんなにとっても、いいことがあるかもしれません。


次回は都市農地、特に「生産緑地」とよばれる農地の問題について書きます。
こちらもなかなかに深刻な状況が直近に差し迫るなか、希望の光が見えてきます。

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