【創作小説】猫に飼われたヒト 第23回 教育実習
市立アニマーリア東小学校。
アドが教室の戸を開ける。
緊張しつつも教壇の前に立った。
「今日からこのクラスで教育実習をすることになった、アドです!精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」
黒いスーツをまとい自己紹介を終えたアドに、小学生の子猫たちからの拍手が送られる。
担任の先生も拍手をした。
「はい。ありがとうアド先生。アド先生は、アニマーリア大学から来た人間学部の先生です。とっても優秀な先生なので、皆さん何でも聞いてくださいね」
「「はーい!」」
アドは子猫たちの純粋な瞳に感動した。
(みんな元気で可愛い…!ここでこれから1週間、そして最終日には緊張の初授業…頑張るぞ…!)
と、意気込んだのはいいものの…
毎時間立ちっぱなしの観察授業。
(こ、これが後5時間も…?)
牛乳がこぼれたり、何かとトラブルの多い給食時間。
牛乳を含んだ雑巾を手に持ち、生臭さに慄く。
子供たちの体力についていけない休み時間。
掃除用具で遊び始める掃除の時間…そして。
帰宅前のホームルーム。
女の子の机の前に群がる男の子たち。
「お前何描いてんだよ」
「…いいでしょ何でも」
「貸せよ!」
女の子が描いている自由帳を取り上げた男の子。
そして、
「うわっ、こいつ、人間の絵なんか描いてやがるぞ!」
教室中に響き渡るその声に、クラスメイトたちが騒ぎ出す。
「人間?なんでそんな怖いものを描いてるの?」
女の子は弁解した。
「人間は怖くないよ!」
「だってお母さんが言ってたよ?人間なんて、いないほうがいいって…」
「そんなことないよ!人間は優しい生き物だもん!」
「優しい?どこがだよ。この間まで人間が猫を襲う写真が出回ってて、テレビが大騒ぎだったじゃん」
「それに、社会の時間で人間が怖いことしてるって勉強したじゃん。なのに何で…」
女の子は椅子から立ち上がり、
「いいじゃん!早く返してよ!」
「こらこら!やめなさい!」
アドが慌てて仲裁に入る。だがなかなかおさまらなかった。
その時、担任の先生が教室に入ってきた。
「こら!チャイムは鳴っていますよ!早く席に着きなさい」
男の子がアドに自由帳を渡した。
アドが女の子にそれを返した。
女の子は半泣きでその自由帳をアドから奪い取った。
アドは悲しそうな女の子の背中をじっと見つめた。
次回に続く
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