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【創作小説】Norway rat 第1回 記憶喪失の男

架空の街、イーストタウン。


女はゴミ捨てにとやって来た路地裏で、泥とゴミに塗れて爆睡している1人の男を見つけた。

「おーい、そこの人、大丈夫?」

声を掛けても反応はない。

細身で長身の男。整った顔立ちをしている。20代後半くらいだろうか。着衣は乱れ、酒に酔って顔が赤くなっているが、それ以上に左頬がパンパンに腫れている。
雨が降り続いているせいで全身びしょ濡れだ。

「これじゃあ風邪引いちまうよ。おーい、起きなって!」

女が近づいて男の肩を揺さぶると、男はうっすらと目を開けた。

「……リン?」

そして自力で体を起こし、目をはっきりと開けた。

「君がリン?」

女は眉をひそめた。

「リン?何言ってんだい。あたしの名前なんかどうでもいいんだ。それよりあんただよ!あんた名前は。どっから来たんだい。そうだ仕事は、仕事は何してる」

男はふにゃ、と笑った。

「初対面なのに、すごくいろいろ聞いてくるんだねえ。そんなに俺のことが気になるの?」

女は男の頭にチョップした。

「笑ってる場合か!こんなところで長いこと寝てたんだろ?体は冷え切ってるし、そのうち死ぬぞあんた。この際名前はいいや。どっから来たんだ?」

男は女を見つめて微笑んだ。

「俺の名前はナオ。今朝ここに捨てられる前は女の子のところにいたよ。でもなんか機嫌を損ねちゃったみたいで。君、会ったばかりなのに心配してくれるなんて、優しい子だね」

男は濡れた手で女の頭を撫でようとした。
女はびっくりしてその手を避けた。

「な、なんだよ急に!」

「あ…ごめん、その年頃の女の子を見るとなぜか頭を撫でたくなっちゃうんだよね」

女は眉間に皺を寄せた。

「なんだかよくわからんが…じゃあその女の人のところに帰ればいいんだな?」

男は首を横に振った。

「そこは俺の家じゃないよ。昨日はその子の家にいたけど、その前は別の女の子だったし、その前も別の…」

女は愕然とした。

「あんた…相当な女ったらしなんだな…まあその容姿だと女が寄ってくるのも分からなくはないが…」

「なんか毎回女の子が拾って家に入れてくれるんだよね。俺居場所がないからありがたいっていうか」

「…居場所がない?」

「うん。俺、記憶喪失なんだ。自分が何者なのか、どんな仕事をしていたのか、何も覚えてないんだ。覚えているのは、自分のナオって名前とリンっていう名前。人間の名前なのか、動物の名前なのか、それはわからないんだ」

男は寂しげな笑みを浮かべた。

「ただ、目が覚めた時は同じように街の路地裏で倒れてた。そして体はなぜかアザだらけで、足も怪我してるみたいなんだ。上手く歩けない」

男は立って歩いてみせようとし、そしてふらついた。

「あぶねえっ」

女が男を咄嗟に支える。そして傘の中に男を入れた。

「あんた…ナオって言ったな。居場所がないんなら…うちの店に来るか?」

男は目を丸くした。

「いいの?」


次回に続く

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