【創作小説】猫に飼われたヒト 第20回 プレゼント
ディーバは落胆しつつも、予算などをレックスから聞き、デパ地下の食料品フロアにやってきた。
「ちょっとしたお菓子か。うん、いいね。お礼にはぴったりかもしれない」
「ええ。ご予算的にもぴったりですし、何よりもらう側がそんなに気負わず受け取れると思いますわ」
アドとフォンスはアイスクリームを食べながら2人の様子を伺っていた。
「土産物のコーナーを見てるぞ。誰かに贈り物をするのか?」
「女の勘ピピーン!」
「は?」
「きっと、レックス先生は誰か別の女の人に贈り物をしようとしてるんだよ。それで、ディーバ先生に女の人が喜ぶものを選んでもらおうとしてるんだよ!きっとそうだ!」
「じゃあ、誰に贈ろうとしてるんだろうな」
「……誰、何だろう…」
色々なメーカーが並ぶショーケースを見つつ歩く2匹。
「クッキー、チョコレート、和菓子…日持ちするものがいいですわね。その贈られる方の好みってお分かりになります?」
「いや…何でも食べると思うが…多分」
「なら…あ!」
「何だね?」
「このお店のクッキー、とっても美味しいって有名ですのよ。この間雑誌にも特集されていて。私も気になっていましたの。包装もシンプルで素敵だし、ご予算的にもぴったり」
「そうか。確かに、良さそうだね。ならこれにしよう。きっと彼女も喜んでくれるだろう」
レックスのその言葉に、はっと我に帰るディーバ。
そう。これは自分への贈り物ではなく、誰か、自分の知らない女性に贈られるもの。
なのに自分が浮かれているみたいで、急に悲しくなってしまった。
「すみません。じゃあこの12個入りのものを…」
「先生、私は向こうを見ていますわね」
「ん?ああ、分かったよ」
「クッキーを買うみたいだぞ…ん、アド、どうした」
「先生にクッキーを贈る女の猫がいたなんて…」
「ん?ディーバ先生がこっちくるぞ」
ディーバがアイスクリームを注文し、アドとフォンスの向かいの席に座る。
だがアドとディーバともに俯いているため、お互いの存在には気づかず。
「「先生にクッキーをもらえる人、羨ましい/ですわ…」」
「……何なんだこの状況」
レックスが買い物を終え、ディーバのもとへ向かってくる。
「おい、アド。レックス先生がこっちに来る。もう帰るぞ」
「……うん」
2匹が去り、レックスがディーバのもとへ。
「ディーバ。お待たせ。いいものが買えてよかった。君のおかげだよ」
「いえ、そんな…」
「では帰ろうか」
「ええ…先生とご一緒できて楽しかったですわ。では、また大学で…」
「ディーバ」
ディーバが振り返る。
「これ、受け取ってくれ」
「え…」
レックスが手渡したものは、きちんと可愛く包装された、先程のクッキー。
「これ…」
「君にもいつも世話になっているからね。それに、今日付き合ってくれたお礼だ」
「先生…」
「それに、君が食べたそうに目を輝かせていたからね」
照れるディーバ。
「先生、嬉しいですわ。ありがとうございます」
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日曜日。大学にて。
アドが教育実習の準備をゼミ室でしている。
「うーん、もう。教案作るの難しいよ〜…」
コンコン。ゼミ室をノックする音。
「入るよ」
入って来たのはレックス。アドは驚いた。
「先生?」
「アド、良かった。君にこれを渡そうと思って」
「え?!先生、これって…」
アドがレックスに手渡されたのは、あの時ディーバと一緒に買っていたクッキーだった。
「君には急に討論会の司会を任せてしまったからね。協力してくれたお礼だよ。食べてくれ」
「…いいんですか!ありがとうございます!!」
「教育実習、頑張ってね。実習中でも何か困ったことがあったらいつでも大学に来るといい」
「…はい!」
その日の午後。
レックスがやって来たのは図書館。
司書のシレオと話している。
「あら。頂いちゃっていいんですか先生」
「ああ。この間、図書館ホールを貸し切らせてくれたお礼だ」
そう言って袋を破り、ぼりぼりと食べ出すシレオ。
「どうかね。友人が美味しいらしいと言っていたのだが」
「え?うん…普通の美味しいクッキーですね。先生もどうぞ」
「……うん。普通にうまいな」
レックスはクッキーの包装に使われていた綺麗なリボンに気がついた。
「…そのリボン、もらっていいか?」
「?良いですけど」
「ありがとう」
それぞれ別の場所で、レックスにもらったクッキーの袋を愛おしそうに眺めるアドとディーバ。
「「もったいなくて食べられない/ですわ…」」
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その日の夜。
レックスはレオの手首にリボンを巻いた。
レオが不思議そうな顔をする。レックスは笑った。
「これは家族の印だ」
「かぞく」
「そう。私とレオ。家族だ」
「かぞく……れっくす、ありがとう」
レオは嬉しそうに笑った。
次回に続く
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