【創作小説】猫に飼われたヒト 第40回 揺らぐ午後のコーヒー
数日後、グッダはミントを喫茶店に呼び出した。
「ホット二つ」
「話ってなあに?」
「…分かってると思うが…」
「…ここ、懐かしいわね。初めて私があなたを連れ出したのがこの喫茶店だった。その時もコーヒーも頼んで…ああ、あの日は暑かったからアイスコーヒーだったわ」
「……」
「あのお友だち、レックス…先生よね?人間絶滅仮説で有名な」
「…そうだ」
「良かったわね」
グッダはミントの顔を見た。ミントは眉を下げてグッダに微笑んでいた。
「あなた、大学に勤める前からレックス先生を目標に研究を頑張っていたじゃない」
ミントは昔を懐かしむように窓の外を見た。
「勉強ばかりのあなたが…初めて外の世界に繋がることができた。そういう存在なんでしょう?」
グッダは運ばれてきたコーヒーの湯気をじっと見つめた。
「…レックスだけじゃない」
「え?」
「今の俺があるのは、君のおかげだ。君が引きこもりの俺を外に連れ出してくれた。人間の研究ばかりしていた俺に、レックスや大学の存在を教えてくれた。それには今でもすごく感謝してる…これからもだ」
二人の間に少しの沈黙が流れた。
「ーだが」
「グッダ」
ミントがグッダの手を握る。
「私、今真剣に職を探しているの。本当よ。ちゃんと仕事をして、今まで借りたお金は全部あなたに返す。そしてもう一度あなたと一緒に暮らしたい。やっぱり私にはあなただけって分かったの。信じて」
「そんな…今更君の言葉を信じろって…俺が何度裏切られたと思っているんだ」
「それはごめんなさい。今の私にできることは、真面目に生きる姿をあなたに見せることしかないと思っているわ…グッダ、私が愛しているのはあなただけよ」
グッダはミントの表情を見て心が苦しくなった。
眉をひそめる。
ミントがコーヒーを口に含む。
コーヒーはもうとっくに冷めていた。
次回に続く
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